SS 141~160

蛇、蛇。と名前を呼ばれる。
わたくしは『蛇』だなんて名前ではありませんよ。と伝えても人間は楽しそうな顔でわたくしのことを『蛇』と呼んだ。
わたくしと人間の男がなんの拍子か夫婦となってから一季節が経った頃、わたくしは腹に子を宿した。

「楽しみだね」

そう言って笑う人間の顔に、わたくしも微笑んだ。この幸せが狂ってしまったのはいつからなのか。
飢饉が村を襲い、神でありながら人柱にされると分かった時、わたくしはすべてを覚悟しました。
人間は何も悪くはないのです。悪いのはすべてこの村に襲った天災なのですから。
だから――

「何故、そんな血塗れなのですか?」

分かっていて聞いた。夫は笑って言った。

「俺はお前だけが大事なんだよ。村なんてどうでも良い」

夫の血塗れの身体を抱き締めてやりたかった。なのに縛られた私のこの身体では出来ない。
穢れた夫の身体にはもう触れられない。

「蛇、もう怖いことはないからね?泣かないで」

はらはらと流した涙の、その真意は夫にはもう届かなかった。
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