御礼小話

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鬼の手夢(鵺野先生)

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 この時期の職員会議は辛い。
 暖かいから緊張感を保つのが難しい。
 会議室の窓から差し込む穏やかな日差しが私達の意識をぼやけさせてくる。

 教頭先生の話を何とか頭に入れようと、私は水筒のお茶を飲んで集中力を保とうとした。

 その時、隣の席の鵺野先生が大きく傾いだから何事かと彼を見た。
 頬杖をついてコクリコクリと舟をこぐ鵺野先生。

 精悍な彼の顔が、こういう時は幼く見える。
 通った鼻筋と薄く開いた唇と閉じられた瞼を縁取る黒い睫毛。

 まじまじと彼を見てしまっているが、起こさねばならないだろう。

「鵺野先生…」

 囁きながら腕を叩けば、彼はハッとして姿勢を正した。

「…すみません」

 照れたように笑う鵺野先生を直視できなくて、私は「いえ」と視線を逸らしながらそっけない返事をした。

 至近距離でその顔を見るのは心臓に悪い。
 私の動揺が伝わっていないか不安になり、それが余計に私の鼓動を早くさせる。

 そんな私を余所に、鵺野先生はずいと顔を寄せてきた。

 彼の視線の先は、私の会議資料だ。
 私が書いたメモを見て、眠っていた間の会議内容を確認しているらしい。

 あぁもう。近い。近い…。

 鵺野先生のおかげで教頭先生の話が頭に入ってこない。
 
「と、いうことで私からは以上です。聞いていたかね、鵺野先生」
「は…はい!!」

 まさかの教頭先生からのパスに、鵺野先生はパイプ椅子を倒しながら弾かれたように立ち上がった。

「もちろん…勿論です!いやですよ教頭先生……。つまり、今回の運動会は地域の方々に協力をお願いしない分、我々や体育委員会が頑張ると…」

 あ、私のメモをそのまま読んでる。

「珍しい…てっきり居眠りして聞いていないと思っていましたが…」

 教頭先生は少しつまらなさそうだった。

「はい!ばっちり!聞いておりましたよ!ははははは…やだなぁ」

 そう言って鵺野先生は倒した椅子を起こして座る。
 汗だらだらですよ…鵺野先生。

 座った鵺野先生はまたしても私に顔を寄せてくる。
 
「…ありがとうございます。助かりました」

 しかも私の耳元で囁いてきた。

「っ、いえ…」

 鵺野先生の声は艶っぽい。
 だから意識している私の脳をとりわけよく揺さぶってくる。

「先生、暑いですか?顔真っ赤ですよ」
「そう…ですか?」
「ははーん。俺の美男子ぶりに見とれてしまっているんですね」

 顎に手を当ててポーズを決める鵺野先生は、きっと私の胸の忙しさを知らないのだ。

 そんなの悔しい。

「そうですよ」

 だからあえて頷いてあげた。

「……なんちゃって!………え?」
「会議中ですよ。鵺野先生」
「え…え…。えーっと?」

 今度は鵺野先生の顔が真っ赤だ。
 私は今度こそ会議に集中する。



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2023.4.16
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