TWISTED-WONDERLAND
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代わりはいない
*ナマエ・ミョウジ
王宮で同い年ということもあり友のように、まるで双子の弟のように育てられた。1つ2つの違いであっても同じように扱われたと思うけど、僕はキングスカラー家に仕える従者の一族の中でかなり特別な扱いを受けているという自負はある。
その自負があるからこそレオナ様に負けないくらい本を読んで座学を受けて国や政治、作法や魔法などに理解を深めてきた。従者のくせに思い上がってると思われたくないし、主従関係もろくに築けないのかとレオナ様を馬鹿にされたくない気持ちが大きかった。
従者であっても夕焼けの草原に関することなら徹底的に教育はされる。なぜなら王家に仕える者たちだから、中途半端な知識では立つことすら許されない。だけど、その他含めて高等な教育を受けられるのは従者の中でも僕くらいだった。
「ナマエ、遊び行こう。面白いスポット見つけたんだ」
「僕は行きません」
「へえ?いいんだ、俺迷子になるかもしれねえのに?怪我して帰ってきたら怒られるのお前だぜ。一緒に行くほうが利口だし楽しいと思うけど?」
「……もう」
それじゃあお誘いのテンションではなく強制のテンションで言ってくれればいいのに。誘いに乗じて二人でこっそり王宮を抜け出した。僕もレオナ様も悪がきで通ってるので抜け出すのは日常茶飯事だった。
出かけた先にキングスカラー家の王政を良く思ってないヒョウのマフィアたちがいた。…正確にはそのマフィアたちの秘密のスポットだったのを知らずに僕達が侵入したんだけど。僕はともかくレオナ様の雰囲気はあっという間に王子だとバレて囲まれてしまった。
「レオナ様に手を出すな…ッ!僕は王子の甥だ!」
身代金にでもと考えているマフィアたちに嘘をつく。どっちを攻撃してもいいとなるなら、次期王子になる可能性の高い甥を選ぶだろう。僕の予想通りレオナ様より重点的に僕に魔法を浴びせてくる。帰してもらえるはずもなく、3日に渡る暴行と拷問のような仕打ちに何とか耐える。帰らない時点で僕らの捜索は始まってるはず、なんとかここに来るまでに耐えないと。
「ナマエ…ナマエっ!…生きてるか?」
「しぶといからね…」
ジャッカルだというのに、まだ耳が丸いからかキングスカラー家の者だと信じて止まないマフィアたちの馬鹿さに救われている。僕がもう少し大きくなったらもう使えない手だな…。
「……嫌だ、ナマエが死ぬくらいなら俺が…」
「何言ってるの…?ダメだよ」
レオナ様はもう痛ぶられる僕を見ていられないようで泣きだしてしまった。痛む体をなんとか動かし、レオナ様を抱きしめる。
「大丈夫、大丈夫だよ」
根拠なんかはない。王族の皆の捜索が手間取ってあと何日もかかるかもしれないし、マフィアたちが口を割らない僕に痺れを切らして僕が先に殺されてしまうかもしれないからなんの確証もないけれど……。
レオナ様の叱責があるたびに僕が代わりに鞭打ちされるようになってから、レオナ様は僕の前で涙を流すことが増えた。それに対するおまじないのようなものだ。何を言っても泣きやまないレオナ様がこうすると泣き止むことが多い……ジンクスに近いかもな。
そうやって耐えていると爆発音が聞こえる。なんだ?とレオナ様を隠すようにしていればキファジ様の声が響く。
「二人とも…ご無事ですか?!」
やっと助かる…キファジ様の顔を見てそう思うと体の力が抜けてくる。
「ナマエ、ナマエ!?…キファジ、ナマエが…っ!!」
また泣きそうなレオナ様の耳を撫でる。少し眠いだけだ。当たり前だけどここ数日ろくに眠っていない…ご飯も食べてないし疲れが限界だ。
次に目を覚ましたのはキファジ様たちが助けに来てくださってから4日後のことだった。昏睡状態に陥ってしまい大変心配をかけてしまったらしく、もう平気なのに少しベッドから降りるだけでキファジ様たちから怒られてしまう。
「あの、レオナ様は…?」
「…お前が身を挺して守ってくれたおかげで無事だ。今は王宮を抜け出した罰としてクールダウンの4日目、明日の様子次第で終わるか伸ばすか考えているが……ナマエ。そもそも何故抜け出した?」
「返す言葉もありません…申し訳ありませんでした」
レオナ様は無事だと聞いてホッとしたのもつかの間、当たり前だけど事の発端の抜け出したことについてお説教を喰らう。僕の怪我に免じて鞭打ちは流石にしないと言われたけど、30分正座してた今回もなかなかキツかった。
「いけません、レオナ様…!」
侍女の声が聞こえたあとすぐにドアが乱暴に開けられ、レオナ様が歩みよってくる。……あれ…怒っている…?大股で怒り肩になって眉間に皺を寄せてる彼の様子は誰がどう見ても怒っている。
「…ナマエ!」
「は、はい……」
星座でまだ痺れている足をなんとか動かしまっすぐ立つ。
「お前はクビだ」
「……えっ」
「フン」
どうして、と声をかけると答えることなく部屋を出ていってしまう。
「………」
「…アッハッハッ…!」
ぽろぽろと涙を流すしかできない僕の様子を見てキファジ様はお腹を抱えて笑い出すので、涙が一瞬引っ込む。キファジ様は理由を知ってるんだろうか?
「何故笑うのですか」
「すまない、嘲笑ったわけではない。……レオナ様の考えてることは分かりやすくてな。ナマエの失態や落ち度ではない、とだけ伝えておこう」
あとは少し頭が冷えたあたりでレオナ様が自ら話しに来る、とキファジ様はそれ以上教えてくださらず追いかけたい僕をベッドに戻してしまう。救護係りにも僕を見張るよう言い渡したため、この部屋を許可なく出られないだろう。
レオナ様からクビにされ、キファジ様から絶対安静に!と言い渡されて早3日。あれから一度も二人の顔を見ていない。僕の体調が完全に復活したら、本当にクビなんだろうか。そのための準備してるとか…?何か間違った振る舞いをしてしまったんだろうか、と思い返していると侍女の慌てたような声のあとファレナ様が救護室へやって来た。
「あ、ファレナ様…!」
「そのままで……すっかり良くなったみたいだね、すぐに顔を見に来てやれずにすまない。後始末に時間がかかってね……体は平気か?」
「はい…あの、この度は申し訳ありませんでした」
「言い出したのはレオナだろ?抜け出すこと考えてるのは大方あいつだ、ナマエは監督責任があるとかいって言いくるめられたんだろう」
ば、バレてる…。
「…仰るとおりです。…我がままなのは重々わかってますが、僕は…クビなんて嫌です!もう一度考えてくださいませんか」
僕がそう告げるとファレナ様は目を丸くしている。
「……クビ?!なんのことだ?」
「え、数日前にレオナ様から言い渡されて…てっきり全員一致の意見かと…」
「レオナから?………あぁ、キファジが言ってたことってそういう……なるほど……」
呟きながら何か合点がいったらしいファレナ様はニヤニヤと…まるでいたずら前のレオナ様のような表情で僕を見てくる。
「レオナにクビにされたのか…そうか、じゃあ今度は俺のところにくるといい。お前はとっても忠実で芯がある。王家に仕えてるだけでは培えないほど俺らを想ってくれている…従者じゃなくても欲しい人材だ、丁度いい。」
「え、と…そもそもそれはクビではないような…」
「レオナから言い渡されただけだろう?」
ファレナ様たちの全員一致の意見ではないことが裏付けされた。じゃあなんでレオナ様は突然…?
「テメェになんかやるか」
「レオナ様…」
「お前が言い出したんだろう。…発言には責任が伴うといつも言っているだろ?」
「自分の命さえ差し出せばいいと思ってる馬鹿な従者はクビだっつっただけ……体は」
「治りました」
「でも!まだ安静です」
すかさず救護係に告げ口された。…この部屋から出られると思ったのに…。
「馬鹿な考えする頭も治ったか?」
「うわっ」
ふるいにかけるように頭をゆさゆさと揺さぶられる。
「素直じゃないな……ナマエ、レオナにクビにされたらいつでも来るんだぞ」
ファレナ様はそう言いながら後始末つけてくる!と救護室をあとにした。
「兄貴にはやらねえよ」
「……たぶん僕だけよく分かってない…レオナ様、どういうこと?」
「あ?なんでこんな簡単なことも分からねえんだよ……お前、嘘ついてまで俺を助けようとするな。」
「……何故?」
「お前の代わりはいねえ、そんだけだ」
「………分からないよ、どういう意味?」
「分かれ馬鹿。…ナマエは俺が王子だから自分が痛めつけられても助けたのか?」
「違うよ」
「それは俺も同じってことだ。俺はお前が従者だから一緒にいるわけじゃない。お前が……居なくなって代わりの従者が来たってなんにも嬉しくない。ナマエじゃなきゃ嫌だ。だから…簡単に死のうとするな。そういう馬鹿な考えは捨てろ。俺らはお前ら全員を代わりのきく駒だなんて思ってねえよ」
最後の一言で救護係が涙を流した。僕も少し泣いてしまった。代わりのきく駒、これはマフィアたちが彼らの部下に対して口にしていた言葉だ。
お前の代わりなんていくらでもいる、お前の命は安いんだから仕事をしてこいと。
「……そっか、分かった」
「ああ。馬鹿なこと考えるなよ」
「うん、もう考えない」
貴族や王家に仕える従者は軽視されがちだ。それこそ資格や教養さえあれば誰にでもできると思われている。主人の身の回りの世話をしたり、屋敷を掃除してるだけでいい仕事だと街で言われたこともある。
今のレオナ様の一言が、どれだけ僕らにとって嬉しい言葉なのか…言葉の限りを尽くしても言い表せないなと感じる。
レオナ様はいつもどおり、僕に少し愚痴を吐きながらベッドにあがってくる。キファジ様に揶揄われたとご機嫌がナナメだ。レオナ様の耳を撫でて横に並ぶように寝転がる。
「痣も早く直せ」
「分かった」
「あと…中庭に抜け道見つけた」
「レオナ様?キファジ様に言いつけますからね」
「うるせえ、勝手に聞くな」
「大きい声で話しておいてもう……」
救護係はそう笑いながら部屋から出ていく。飲み物を取りに行くみたいだ。
「レオナ様」
「…んだよ……苦しい」
ぎゅう、と力の限り抱きしめる。
「……僕ちょっと眠いかも」
そう告げると寝ろ、と返ってくる。
ぱち、と目を開けると随分大きくなったレオナが寝ている。ああ…夢か、久々に見たなぁ…あの夢。レオナの頭を撫でるように動かすと耳が動く。…狸寝入りしてるな。
「レオナ」
「……寝込みを襲うとは趣味が悪いな」
「襲ってないでしょ、愛でてたんだよ……もう朝だ、起きよう?」
伸びをしてると嫌だと言わんばかりにレオナが抱きついてくる。このままじゃ僕の体温のせいでぬくぬくになって寝てしまう。
「こら……あ、聞いてよ。久々に夢見たんだ」
「夢?」
「レオナが僕じゃなきゃ嫌だって言ってくれた日、あったでしょ」
「……ッち、得意げな顔して言ってんじゃねえ」
レオナが言ってくれたんじゃないか。照れ隠しが攻撃的だな…耳を撫でてるともっと撫でろと頭が近づいてくる。
「レオナさ〜ん、ナマエさん…朝ッスよ〜…おわ、珍しい〜!レオナさんまで起きてるなんて!」
「おはよ、ラギーくん。ほら、レオナ…今日の座学は受けるって…っ…重いな…!!」
僕はラギーくんより少し背が高い程度だ。結構食べてるのに筋肉になりにくい体質らしく細身だと自分でも思うくらい。だからレオナが少し力を込めてきただけで身動き取れなくなる。それを分かってやってる意地の悪いライオンの耳を甘噛みする。
「…噛むなっつってんだろ!」
「思い切り噛まれたみたいな反応しないでよ」
「ナマエさん、レオナさんの機嫌悪くしないでくださいよ」
ラギーくんにあらぬことを言われる。悪くしようと思ってしたわけじゃない。
「ごめんね?…機嫌直して、レオナ」
毛づくろいするように甘噛みした箇所に軽くキスすれば腰に腕を回されて動けなくなる。
「…なに、レオナ……い゛っだあ!?!」
思い切り耳を噛まれて大きな声が出る。
「フン」
「い゛った………レオナの方が歯尖ってるんだからやめてよ!…耳取れてない?」
ラギーくんに大笑いされながら見てもらう。少し血が出てると言われた。
「お前の耳は大きいから噛みごたえがあるもんでな?」
「も〜……!」
耳を畳むようにしまえばレオナにも笑われる。ジンジンする…。すれ違う寮生たちからレオナの匂いと血の匂いがするため喧嘩したのかと揶揄われる。
(じゃあジャックくんの耳はどうなんの)
(誰彼構わず噛み付く癖があるとお思いか?)
(痛かった)
(…ふは、んな拗ねんなよ)
(キングスカラー、ミョウジ。授業中だ私語を慎め)
(ルチウスもレオナが悪いって言ってる)
(そりゃお前視点の話したらお前の味方するだろ、なあトレイン)
(喧嘩するな、いつもの仲はどこへいったんだ)
(レオナが耳噛みちぎる勢いで噛んできたんです)
(お前が先に噛んだんだろ)
(僕は甘噛みだ)
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