TWISTED-WONDERLAND
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こんなはずでは
*ミョウジナマエ
「あ、またそうやって泣く?…泣けばいいとか思ってね?」
女って楽だよね〜と煽る彼氏のエース。こんな高度に煽ってくる人元の世界でもいたかなってレベル。そもそも私なんでこんな泣く羽目に?
あぁそうだ。少し前にやった小テスト、エースの苦手な魔法薬学のポーション作りで好成績を収めたからささやかなお祝いにと思って…エースの好きなチェリーパイを作ってみたくて、トレイ先輩のもとに弟子入り修行してたら…誤解されて喧嘩になったんだっけ。
私的にタルトよりもパイは難易度高いから、レシピ検索だけじゃ不安でトレイ先輩を頼った。そもそもここは男子校で、私は数人の…主に各寮長たちには性別がバレている。なんとか他の人たちには隠し通しているけど、十分気をつけるように学園長やエースからも常日ごろ言われている。
だからこそ私のことも知っていて、エースと付き合っているのも知っている安心なトレイ先輩に弟子入りを選択したのにコソコソ裏で会ってるだの何だの言われて、耐えきれずネタバレをした。サプライズで好物作ってあげたかったんだ、と。お菓子作りのプロのトレイ先輩に教えてもらっていただけだよ、と。
それでもイライラが収まらなかったのか、エースの嫌味やら文句やらは止まらない。気心知れた人にこそ気をつけるべきだの、まず二人きりになるなだの…。前者はわかるし飲める、後者はここでは無理だろう……だってここ男子校だ。そんなこともセルフツッコミできないくらいエースはムカついているんだ、私に。
サプライズでお祝いしたかったという私の気持ちまでも否定するような物言いに悔しいんだか、悲しいんだかの涙が勝手に流れてくる。その結果最初の発言に繋がるわけだ。
「……もう分かったってば、そんなに言わなくたって」
「はぁ?何その言い方…逆ギレ?」
「キレてないよ、どう見てもキレてるのはエースでしょ」
「キレさせてんの誰?頼んでもねえことしてさ、挙句誤解されるようなことしてんのそっちじゃん」
うわ………流石に傷つく。
「オイ、エース!子分の気持ちも考えてやるんだゾ!好物もらったら誰だって嬉しいだろーが!」
「他の男と作ったやつとかいらないですぅ」
「……いったん、帰って。お互い頭冷やそ、また連絡するから」
泣いても怒っても、取り繕うようにヘラヘラ笑っても多分彼の癪に障るだろう。だからあえて無表情で、床を見ながら返事を待たずに伝える。オンボロ寮の談話室から背中をグイグイ押して玄関先まで押していく。
「ごめんね、おやすみ。」
明らかに納得していない顔と声色だったけど、もう限界だった。ドアに鍵をかけて蹲る。
「子分……あんま泣くななんだゾ、あいつが食わなかった分俺様が食ってやるから」
「うん…ありがと。難しいね、エースの気持ちも分かるんだよ」
「お前はあいつに甘いンだゾ…」
はあ、と大げさに呆れるリアクションをするグリムについつい泣きながら笑う。
「でもさ、考えてみてよグリム。男女逆転してたら…私だってエースが私の好きなお菓子作りたい!って気持ち、嬉しいなあと思うけど他の女の子と作ったやつか…てちょっと思うだろうなぁって。………私、ここの世界で生まれてくればよかったのにね」
こんな形で出会いさえしなければそもそもこんなくだらない喧嘩しなくて済んだのに。そう言うとグリムは黙ってしまった。
一口も食べてもらえなかった試作のチェリーパイをグリムに食べてもらいながら、スマホの通知に目が行く。見るの怖かったけど勇気をだして見てみれば、トレイ先輩。
『試作品上手にできてるじゃないか、エースに食べてもらえたか?』
トゲトゲした言い合いのあとだから優しい言葉が突き刺さるほど沁みる。またぼろぼろ泣き出した私に今度こそグリムは眉を下げて私以上に落ち込んでしまった。
次の日、どうやって話を切り出そうかと迷っているとわざとらしくマジカメ上での女の子との絡みをデュースに報告しているエース。トレイ先輩が知ってるのでデュースももちろん私達の交際関係を知っている。巻き込んでしまって大変申し訳ない……と遠い目をしながら、一旦二人には近づかないでおく。やられたことをやり返しているんだろう、エースの中では……私は知らない子と二人きりでお菓子作りしたわけじゃないんだけどな。
そんな日が数日続き、いい加減笑えなくなってきたと思っていた頃週末にさしかかる。もともと約束していた日だ。二人きりになれるし、話し合うならここしかないと麓の街へ降り立つ。時間も以前指定したけど…すっぽかされたらどうしよう…ちょっと有り得そうなんだよなぁ。そう思いながら待ち合わせ場所へ向かうと、エースが知らないこと並んで歩いてた。咄嗟に障害物に身を隠して聞き耳を立てると、どうやらマジカメの子らしい。ロイヤルソードアカデミーの子。普段けちょんけちょんに悪口言ってるくせに…。ダブルブッキングの上にデートはアウトじゃないか?
流石に容認できない、かといって割り込んでそのときに心無い一言を言われたらこんどこそ立ち直れないと思い街をあとにする。このままだと私がすっぽかしたから…みたいな理由になりかねない。トーク画面を何度も開いては閉じ文面に悩む。
ていうか、彼女と喧嘩してその内容が他の男と二人きりでお菓子を作ったからって、他校の子ともともと彼女と約束してたデートの日にわざわざデートする??流石に酷くないか?
『その子とお幸せにね。話がしたかったんだけど、する気がないんだと認識しました。楽しかったです。』
これ以外に送る言葉ないよね…?送信を押して寮に帰る。出かけて1時間もしないうちに帰ってきたのでゴーストさんたちが励ましてくれた。
「……第三者視点で教えてください、これは私怒っていいやつですか。それとも同じことしたんだぞってやつですか」
「………分かるけど、やりすぎ」「俺もそれ」「ワシも」
3人ともそう言うから安心した。メイクをさっさと落として部屋着に着替える。せっかく新しい服で行ったのにな…この服ごと捨てちゃおうかな…思い出しちゃうし。そうしてると寮のドアが乱暴に叩かれる。…こんなことするの大概一人しかいない。
「……壊れちゃうよ…ただでさえ隙間風すごいのに」
「は?つーかこのメッセ何」
「そのまんまだよ」
「……見てたワケ?なんもねーの?」
「見た上で、それだよ」
「……」
「前におにぎり作ったときに喜んでくれたから、じゃあエースが好きなものを作ったらどれだけ喜ぶんだろうって、喜ぶ顔が見たかっただけなんだけどね。頼んでないとか言われちゃったらショックだし、私とエースが付き合ってるのを知ってる、なおかつエースの胃袋も掴んでる先輩ならって私なりに考えた結果だったんだけど……。
でも私自信なくなっちゃった。エースが望むとおりにするなら私ここ出てくしかないもん」
「…はあ?どんだけ話飛躍するわけ?」
「誰と二人きりになっても、それが三人であっても私以外みんな男の子なんだもん。誰にも頼らず話しかけず関わらずになんて無理って思って。ちょうど考えてたんだよ、私ロイヤルソードアカデミーの生徒だったらこんなことで言い争わなくて済むのにな〜って。
そしたら今日二人で歩いてるんだもん……お似合いだったよ。男の子のフリしなくていい子と付き合えばいいと思う、ロング派のエースにぴったりじゃん」
「普段は女らしさ出すなって言われて必死に頑張ってるのに女らしくないとか喧嘩のときに言われたり、自分じゃどうしようもないことを女は楽だね、いいねとか言われるのもすごい心外。だからさ、別れよ…エース」
「は………ぇ……」
いろいろごめんね、とまくし立てるようにしてドアを閉める……前に足が入ってきてびっくりする。
「…あっぶな、足チョン切れちゃうじゃん!」
「切れねえよ!?どんな勢いで閉めようとしてんだよ!つーか勝手に話終わらせんな!」
そう言いながら体をねじ入れるように入ってくるのでドアを開けると手を引かれて談話室へ。ソファにエースが先に座り、とりあえず向かいのソファへ。
「………ごめん、意地張った…嫌なこといっぱい言った」
「うん……」
ぼろぼろとまた勝手に涙が出てくるのでタオルで拭く。
「別れるなんて言うな…つーかヤダ!」
「私だってヤダ、腹いせに他の子とデートするような人。先に約束してたのに」
「それについては…マジでごめん…」
何より楽しそうだったのが余計に腹立たしい。そう伝えるとエースはこれだけは主張させろと割り込んでくる。
「全然楽しくなかった…ナマエ早く来ないかなとか思ってスマホ見たらメッセきてるし…」
ともかく、もう私は自信がなくなってしまった。良かれと思ったことがこんな結果になることも、相手の気持ちを汲むと雁字搦めになることも。上手いこと立ち回れないだろうし…。必死に涙を拭いてくるエースに率直な気持ちを伝えてみてもエースは別れたくはない、悪かったの一点張り。
話が平行線になりそうなのでその日は帰ってもらった。問題は次の日からだった。目に見えて物理的距離が近くなったエースに戸惑ってるのは私ではなくデュースだった。先週は一切話さず喧嘩の雰囲気だったのに今週はべったりで何がなんだか……と至極当然の感想を言われる。
冷静に考えてここまで彼はしおらしく反省してるだろうに煮え切らないのはなんでなんだろうと思った。……もしかしたら私こんなに悲しかったのに!と意地を張っているだけかもと気づいた。そんなことを思いだしたら、私がこのモヤモヤを晴らすにはデートの日に違う人と遊ぶという最悪な行為を私もやり返さなきゃ気がすまなくなるのでは?と考えつく。
反省してない人にやるのは手だろうけど、エースはもう反省してる。そこまではやり過ぎだとも思えた時点で仲直りの準備はできたようなもの。
「エース、ちょっといい?」
「ん?」
手招きして空き教室に入る。
「……エースって結構……ヤキモチ妬くよね」
「…何急に…」
「確認。お互いのために」
「……お前が思ってるより妬くよ」
「…この間は私も気が回らなかった……でも協力してくれたトレイ先輩には失礼だとも思うし…前も言ったけど喜んでほしかったからって理由だけだよ」
「おう」
「じゃ……お互い空回りしたってことで仲直り、してほしい」
手を差し出すと引っ張られる。
「もう別れるとか言うなよ……心臓とまるかと思ったんだから」
声が弱々しいエースの背中を撫でる。
「お前の作ったチェリーパイ食いてえ」
「まだ試作段階だし…結構トレイ先輩に助けてもらったやつでさえグリムに辛口評価されたんだよね…」
あのグリムが、と付け加える。ベチャベチャしてるしチェリーは甘すぎるんだゾ!って言われた。
「普通に美味しいって思えるまではトレイ先輩に監督してほしいんだけど……」
「……お前、チョコケーキ好きだよな?」
「え?…うん…好きだけど…」
「じゃあ俺はチョコケーキ習う。そんでおあいこ」
「おあいこ??……ふふ、トレイ先輩過労死しないといいけど」
「言っとくけど俺はお前より手がかからない自信あります」
「初心者は皆そう言うんだよねえ」
「んだと!?!絶対お前のより美味いの作ってやるかんな!!」
彼の天邪鬼なやる気に火をつけてしまったらしい。
(で、仲良く弟子入りしに来たってわけか)
(すみません……言葉通りお手数おかけします)
(いいさ。…エース、そんなに俺は信用ならないか?ちょっとショックだなあ)
(トレイ先輩が、とかじゃなくて全員に対して平等にナマエのことは信用してないんで…!それとこれとは別ってやつ)
(ふふ、なにそれ…グリムのレポはこんな感じでした。とても酷評)
(…どれどれ………はっはっは!!!すげー酷評だな)
(まずくはないけど美味くもないって)
(あいつなんでそんな上から目線なんだよ…チョコ苦めがいいの?)
(うん、生チョコケーキ食べたい)
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