8th. 翼あるもの

 真剣な表情で黙り込むアラエルの手の中で、小鳥はときおり小さな羽根をばたつかせながら、まるで歌うように鳴いている。
 『生きることは楽しい』
 アラエルには、小鳥がそう歌っているように聞こえた。

 「最近、アラエルは、自分の翼のことを話さなくなったね」
 突然ラエルにそう言われて、カイトは驚いて顔を上げた。
 「え?ああ、そう言われてみれば……」
 その通りだね、と頷きながら、カイトは不思議そうに首を傾げる。
 そんなカイトに向かって、ラエルはおだやかに笑いながら、そ知らぬ顔でコーヒー豆を挽いている。何ともいえない良い香りがお店の中をゆうらりと漂う。
 「ラエル」
 「何だい?」
 「アラエルは、ちゃんと戻れるのかな?」
 ふいに問いかけたカイトに、しかしラエルはただにっこりとほほ笑むだけだ。
 カイトは洗い物をしていた手を休めると、ラエルの青い瞳を真正面からじっと見つめた。
 「ねえ、教えてよ。アラエルは赦されるの?」
 「赦すも何も、すべてはアラエル次第だからね」
 「え?」
 どういうことなのかと訊き返すカイトに、ラエルは困ったような微笑を浮かべた。
 「俺にもミカエルにも、新しい翼をつくってあげることなど出来ないよ。だって、あの翼は――」
 そうラエルが言いかけたとき、
 「カイト、ラエル!!」
 アラエルが、ひどく慌てた様子で乱暴に入り口の扉を開けた。
 二人が驚いて振り向くと、アラエルの両手が赤く染まっているのが見えた。
 「どうしたんだい?!」
 カイトは急いでカウンターを飛び越え、ラエルも慌ててアラエルの側に寄った。
 緊張した顔で見つめてくる二人に、アラエルは震えながら両の手を差し出した。
 「――!!」
 アラエルの手の中に、傷ついた小鳥がいた。片方の翼は半分以上も羽がなくなり、傷口から真っ赤な血が流れていた。
 「アラエル、何があったんだい?」
 「鳥に――、大きな鳥に襲われたんだ。僕が助けに入ったときにはもう遅くて、こいつが羽をついばまれて、空から落ちてくるところだったんだ」
 そう言って泣きじゃくるアラエルに、カイトとラエルは言葉を失った。
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