8th. 翼あるもの

 天界。
 生き物が死んだあとに行く『天国』とはまた別の、天使たちの住まう世界。楽園エデンとも呼ばれる場所。
 そこにアラエルは暮らしていた。
 アラエルは、天界で生まれ育った生粋の天使だった。そのため、この世に誕生した瞬間からすべてが満たされていた。太陽のように輝く金色の髪、海のように深い藍色の瞳。永遠に年をとることのない愛らしい少年の姿。
 アラエルは、空腹も痛みも苦しみも感じたことがなく、涙さえ一度も流したことがなかった。なぜなら、そんなものはこの天界には存在しないから。
 そんなアラエルにとって、人間をはじめ地上に暮らす生き物たちはとても不可思議な存在だった。
 かれらはなぜ生まれて、なぜ死んでいくのだろう。優しいかと思えば残酷で、愚かなのかと思えば反面妙に冴えていたりして。
 地上の生き物たちの中には稀に天使として天界に迎えられるものもあったが、それはごく特殊な例で、そのほとんどはどうにも理解しがたい何とも不安定で頼りない生き物たちだ。
 そんなものを、どうして神様はつくったりしたんだろう。
 それがアラエルにはとても不思議だった。
 アラエルは思った。
 「どうして僕たち天使は、自分より劣る生き物のために働かなくちゃいけないの?」
 アラエルの発した疑問は、周りの天使たちを困惑させた。
 そんなこと分かりきっていることなのに――。
 だが、改めてそう尋ねられると、言葉で説明するのはとても難しかった。
 「どうして、って、それが決まりだからだよ」
 そう答えた年長の天使に、
 「決まり?ただそれだけのために、僕たちは働いているの?じゃあ、あんな愚かな生き物たちが存在しているのも、それも決まりなの?」
 アラエルにまったく邪気はない。彼はただ不思議でたまらなかったのだ。
 けれど、だからこそ、アラエルのその言葉は、ほかの天使たちの心を乱した。
 アラエルは何人もの天使に質問を重ねた。
 しかし、誰もアラエルが納得できるような答えをくれはしなかった。
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