7th. Melissa

 「――で、それからどうなったの?」
 心配そうに尋ねてくるカイトに、アストは落ち着いた口調で答える。
 「メリッサは名誉を回復して、聖なる修道女として一生を神に捧げた。たくさんの人々に崇敬され愛されて、九十歳でこの世を去るまで、本当に幸せな人生だったよ」
 「それは良かったけど、でも……」
 カイトは思わず口ごもる。
 アストはそんなカイトの様子に、にっこりとほほ笑んだ。
 「心配しなくても、私とメリッサはずっと一緒だったよ」
 「そうなんだ」
 「ああ。禁忌を犯したことで、私は魔界から五百年ほど追放されることになってしまってね」
 「五百年?!」
 驚いて目を丸くするカイトに、
 「本来ならもっと重い罪に問われるはずだったのだよ。けれど、お節介な大天使が私の弁護をしてくれたので、ずいぶん軽くて済んだんだ」
 「へえ」
 カイトはちらっと視線をラエルに送る。しかしラエルは何食わぬ顔で二杯目のコーヒーをおとしている。
 「おかげで、彼女が死ぬまでずっと彼女のそばにいることが出来た。無事に彼女を天国へ送り出すことが出来たよ」
 「……」
 淡々としたアストの言葉に、カイトは複雑な表情をした。それを見て、アストは少し困ったように眉尻を下げると、
 「どうしたんだい、カイト?なぜそんな悲しそうな顔をするの?」
 「だって……」
 うつむいたカイトの琥珀色の両目が金色に輝く。
 (メリッサさんが死んでから、アストは長い間ずっと一人で生きてきたんじゃないか)
 ぽつりぽつりとカウンターの上に透明な雫が落ちて行く。
 アストはそれを見て一寸驚き、しかしすぐに笑顔をつくると、やさしくカイトの頭を抱き寄せた。
 「ありがとう。君は優しい子だね」
 カイトは無言で首を振った。
 あたたかい涙がアストの胸元を濡らしていく。
 アストはもう一度カイトをぎゅっと抱き締めると、大輪の花のように笑った。



 『幸せでいてね、大好きな人。
  ずっとずっと。
  あなたの幸福を祈っているわ。
  何よりも一番に。
  あなたが笑顔でいてくれること。
  それが、たったひとつの、私の願い。』






《おしまい》
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