7th. Melissa

 私は夜の闇に紛れて、メリッサが閉じ込められている塔に忍び込んだ。
 「メリッサ」
 「アスト?!」
 メリッサは私の姿を見ると、瞳に涙をいっぱいためて抱きついてきた。
 私はメリッサの体をしっかりと抱き締めて彼女に言った。
 「メリッサ、待っておいで。きっと君を助けてあげるから」
 しかし、
 「いいの」
 メリッサは悲しそうに首を振った。
 私は驚いて彼女の顔を見た。
 「どうして?このままだと、君は火あぶりにされてしまうのだよ?」
 しかしメリッサはただ首を振るばかりだった。
 何とか彼女を説得しようとする私に、メリッサはまるですべてを悟ったような様子でこう言った。
 「神の思し召しなら、私はそれに従うわ」
 「メリッサ――!!」
 思わず私が叫ぶと、メリッサはふっとほほ笑んだ。
 「私のこと、今でもそう呼んでくれるのはあなただけよ、アスト。ありがとう」
 「メリッサ……」
 「あのね、私、あなたにお願いがあるの」
 「お願い?」
 「ええ。あなたたち悪魔は、魂と引き換えにどんな願いでも叶えてくれるのでしょう?」
 私はじっとメリッサの青い瞳を見つめた。星のようにきらきらと輝く、その澄んだ瞳を。
 「魂の契約か、いいだろう。お望みとあらば汝の魂と引き換えに願いを三つだけ叶えよう」
 私は乾いた声で言った。
 私は悪魔だ。魂を代価に差し出す人間がいるなら、その願いをきかなければならない。たとえその相手が誰であろうと――。
 「悪魔さん。私の願い事はひとつだけよ」
 「一つだけ?」
 不審そうに尋ねた私に、メリッサは小さく頷く。
 「大好きな人に幸せになって欲しいの。私が望むのは、ただそれだけ」
 「よろしい、叶えよう」
 私は言った。そしてメリッサに、メリッサが慕う者の名前を尋ねた。
 メリッサはにっこりとほほ笑むと、私の目をまっすぐに見てこう言った。
 「大好きよ、アスト。だから幸せになって。もう、出会った頃のような悲しい瞳のあなたに戻らないで。それが私の唯一心からの望みよ」

 私は呆然とメリッサを見つめた。
 いったい今まで、こんな願い事があっただろうか。
 自分の魂と引き換えに、悪魔の私の幸せを願うだなんて。
 人間とは愚かでずるくて自分勝手な生き物――そのはずだったのに。

 メリッサ……!

 
 
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