5th. さよなら
「可愛い仔犬ですね」
少女の戸惑いをよそに、青年は優しく少女に笑いかける。
「あの――」
少女が何かを言おうと口を開きかけたとき、それを遮るように青年が少女に言った。
「俺はたくさんのものを君にもらった。そしてたくさんのものを君にあげた。どうかそれを無駄にしないで」
はっと胸を突かれるほど真剣な口調に、
「えっ?」
少女が驚いて青年を見上げると、青年は笑いながら仔犬の頭を軽く撫でた。
「たくさん可愛がってもらうんだよ」
そう言って、くるりと背を向けた。
そのままどんどん歩いて行ってしまう。
黙々と去って行く後ろ姿に、少女は慌てて声をかけた。
「待って――」
青年がピタリと足を止める。
しかし振り向こうとはしない。
青年の黒くて大きな背中に、少女はたまらなくなってこう言った。
「あの、あの、名前……」
我ながら何を言っているのだろうと思いながら、それでも少女は必死に続けた。
「この子の名前、『ブランシュ』にします」
「ブランシュ?」
青年は少女に背を向けたまま尋ねた。
少女はきっぱりと頷くと、大きな声で言った。
「だって、この子ったら真っ白だし。それに女の子だから。――だから、『blanche(白い)』。ね、いい名前でしょう?」
尋ねた少女に、青年は少しだけ顔を向けた。そして、
「相変わらずセンスないなぁ」
そう言って呆れたようにほほ笑んだ。
それから青年はもう二度と少女を振り返らず、ゆっくりと砂浜を歩いて行った。
少女は黙って青年の背中を見送る。
仔犬を抱く腕にそっと力を込めながら。
やがて青年の姿が小さくなって、もうただの黒い点にしか見えなくなった頃。
その黒い点が、波に弾かれて煌く陽光に溶けていく瞬間。
少女は小さな小さな声で囁いた。
「さよなら、ブラック」
《おしまい》
少女の戸惑いをよそに、青年は優しく少女に笑いかける。
「あの――」
少女が何かを言おうと口を開きかけたとき、それを遮るように青年が少女に言った。
「俺はたくさんのものを君にもらった。そしてたくさんのものを君にあげた。どうかそれを無駄にしないで」
はっと胸を突かれるほど真剣な口調に、
「えっ?」
少女が驚いて青年を見上げると、青年は笑いながら仔犬の頭を軽く撫でた。
「たくさん可愛がってもらうんだよ」
そう言って、くるりと背を向けた。
そのままどんどん歩いて行ってしまう。
黙々と去って行く後ろ姿に、少女は慌てて声をかけた。
「待って――」
青年がピタリと足を止める。
しかし振り向こうとはしない。
青年の黒くて大きな背中に、少女はたまらなくなってこう言った。
「あの、あの、名前……」
我ながら何を言っているのだろうと思いながら、それでも少女は必死に続けた。
「この子の名前、『ブランシュ』にします」
「ブランシュ?」
青年は少女に背を向けたまま尋ねた。
少女はきっぱりと頷くと、大きな声で言った。
「だって、この子ったら真っ白だし。それに女の子だから。――だから、『blanche(白い)』。ね、いい名前でしょう?」
尋ねた少女に、青年は少しだけ顔を向けた。そして、
「相変わらずセンスないなぁ」
そう言って呆れたようにほほ笑んだ。
それから青年はもう二度と少女を振り返らず、ゆっくりと砂浜を歩いて行った。
少女は黙って青年の背中を見送る。
仔犬を抱く腕にそっと力を込めながら。
やがて青年の姿が小さくなって、もうただの黒い点にしか見えなくなった頃。
その黒い点が、波に弾かれて煌く陽光に溶けていく瞬間。
少女は小さな小さな声で囁いた。
「さよなら、ブラック」
《おしまい》
