5th. さよなら

 そんなお客の様子に、黒髪の店員は少しだけ眉を寄せた。小さなため息を吐き出すと、まるで諭すような口調でお客に話しかける。
 「大丈夫。あの二人なら、きっと大丈夫です」
 「何であなたにそんなことが言えるんだ。あなただって分かるでしょう?あの子はブラックを忘れられない。ブラックのために、仔犬を遠ざけようとしている」
 「そうですね。きっとそれがブラックへの愛情の証だと彼女は思っているんでしょう」
 「それなら、どう考えたって、大丈夫なわけないじゃないか。あの子にちゃんと気づかせてあげないと。今のあの子にとって、本当に大切なものが何なのかを――」
 そう言って立ち上がろうとしたお客を、黒髪の店員が押しとどめる。思わず文句を言おうとしたお客に、彼はあくまでも静かに言った。
 「あなたは二人を信じてあげられないのですか?」
 「え?」
 そう言われて、お客の顔色が変わる。
 お客は戸惑ったように目をしばたたかせた。
 「二人ならきっと大丈夫。あなたがそう信じてあげなかったら、本当に二人はこのまま、何も変わらないままになってしまいますよ」
 「……」
 「信じてあげてください。あの二人のことを誰よりも分かっているのは、ほかの誰でもない、あなたなんだから」
 「……」





 「じゃあ、行ってきます」
 真新しいリードを持って、少女は気乗りしない様子で玄関を出て行く。
 リードの先には、白い小さな仔犬。少女と初めて一緒に散歩に行けるのが嬉しくてたまらない様子。
 しかしそれに反して、少女は浮かない顔で不自由な足をひきずって行く。
 「いってらっしゃい」
 わざと明るい声で言いながら、父親と母親は心配そうに少女と仔犬を見送る。
 そんな両親に、少女はぎこちなくほほ笑んで見せると、
 「うん。行ってきます」
 ほら、行くよ。
 小さな声で仔犬に言うと、仔犬は嬉しさのあまりキャンキャン吠えながら、少女の周りをぐるぐるとまわった。
 「ねえ……」
 門を出て行こうとする少女に、母親が思い切って声をかけた。
 「その子の名前、早くつけてあげなさいね」
 その母親の言葉に、少女は黙って頷いただけだった。
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