5th. さよなら

 それでも仔犬が少女の傍を離れずに辛抱強くしっぽを振り続けていると、少女はじっとブラックの写真を見つめながら冷たい声で言った。
 「ねえ、私のどが渇いたの。台所からジュースを取ってきてよ」
 仔犬はわけが分からずに首を傾げる。
 ただ少女が自分に話しかけてくれたのが嬉しくて、その場でひたすらしっぽを振り続ける。
 「聞こえないの?ジュース持ってきてって言ってるの!!」
 少女が大声を出すと、仔犬は困ったようにしょぼしょぼと少女を見上げた。
 少女は顔を赤くさせながら仔犬を振り向くと、その小さな白い体をキッと睨みつけた。
 「ブラックはちゃんとやってくれたのに、あんたはしてくれないの?」
 「クウゥーン」
 「何よ――」
 まっすぐに自分を見つめる黒い瞳に、少女はいよいよ癇癪を起こした。
 「そんな目で私を見ないでよ。あんたなんか……あんたなんか、ブラックの代わりになれるわけないじゃない!!」
 そう言って、少女はベッドに倒れこむように泣き伏した。
 仔犬はそんな少女を見て、ただただ寂しそうに座り込んでいる。
 少女が顔を上げてもう一度自分を見てくれるのをひたすら待っているかのように、ただそこに座り込んで、いつまでも小さな尻尾を振り続けていた。





 「一体どうしたらいいんでしょう?」
 お客は悲しそうに顔を歪めた。
 彼の茶色い瞳が、何かにすがるように二人の店員を見つめてくる。
 「カイト……」
 金髪の店員がためらうように黒髪の店員の名前を呼んだ。
 しかし黒髪の店員は、ただじっとお客の顔を見つめている。その琥珀色の瞳はとても落ち着いていて、口元にはかすかにほほ笑みさえ浮かんでいる。
 「大丈夫ですよ」
 黒髪の店員はまたそう言った。
 その言葉にお客は力なく首を振ると、カウンターに両手の肘をつき、自分の頭を抱え込んだ。
 「大丈夫だなんて、俺にはそうは思えない。あの子も仔犬も、このままではどちらも不幸になってしまう」
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