3rd.花束 /bouquet

 「リラに赤ちゃんが生まれたのよね?リラの旦那さまから連絡をもらって、そのお祝いをしにこれから訪ねていくのでしょう?」
 妻の言葉に、男はただ俯くだけだった。
 妻は微笑を浮かべながら男を見つめている。

 やがて男は観念したように顔を上げると、
 「君は分かっているんだろう?今さら、どんな顔をしてあの子に会い行けばいいんだ?」
 途方に暮れたようにそう言った。
 そんな男に、妻はあくまでも優しく笑いかける。
 「笑って。いつものように、普通に会いに行けばいいわ」
 まるで何でもないことのように言う妻に、男は激しくかぶりを振った。
 「出来ないよ、そんなこと。私にはとても出来ない」
 「どうして?」
 「あの子にも彼にも、とてもひどいことを言ってしまった。いや、それだけじゃない。頑固で独りよがりで、私は、本当はちっとも良い父親なんかじゃなかったんだ。ずっとずっと、あの子のためと言いながら、あの子に辛い思いをさせていた。いつも寂しい思いをさせていた」
 男は心底辛そうに顔をしかめる。
 「今さら、どんな顔をしてあの子に会いに行ったらいい?どうやってあの子に謝ったらいいんだ?」
 苦しそうに告白する男に、妻はやはり何でもないことのようにふわりとほほ笑んだ。
 「そんなの、今からいくらでもやり直しがきく事じゃない」
 妻の言葉に、男はぼんやりと顔を上げる。
 「やり直し?そんな……出来るわけがないよ」
 「いいえ。人生をやり直すのなんて、本当はとても簡単よ。間違えたと思ったら、そこからまたやり直せばいいだけのことだもの」
 「しかし、今さらもう遅いよ」
 あくまでもそう言い張る男に、
 「何言ってるの。遅いなんてことあるわけないわ。だって、そんなの誰が決めたの?やり直しちゃいけないなんてことないでしょ?たとえば、もし明日死ぬかも知れなくたって、今日いまこの時からだってやり直すことは出来るわ。決して遅くなんかないわ」
 そう妻が言うと、男は戸惑ったように妻を見つめた。
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