1st.月の光のオルゴオル
「見よう見まねで初めて作ったオルゴオルでした。そう、たしか曲名は……」
遠い記憶をたどりながら曲名を思い出そうとしていると、
「ドビュッシーの『月の光』」
いきなりそう言われて、彼は驚きに目を丸くした。
「そう。まさしくそれです。どうして分かったんですか?」
不思議そうに尋ねる彼に、ラエルは笑いながら、彼の手元を指さした。
「そのオルゴオルの曲も『月の光』なんですよ」
その言葉に、改めて手の中のオルゴオルを眺める。
「本当だ。よく見れば、確かにこのメロディーは『月の光』ですね。すごい偶然だな」
彼が言うと、ラエルは意味ありげに頷いてみせた。
それからそっと彼に近づき、彼の両手に白い手を添えて、そっとオルゴオルの箱を裏返して見せた。
「あっ――!」
箱の底に刻まれた文字を見て、彼は驚いて声を上げた。
そこには、このオルゴオルの製作者の名前が刻まれてあった。
それは彼の名前だったのだ。
「まさか、そんな――」
彼は信じられない気持ちでラエルの顔を見つめた。
果たしてこんな偶然があるだろうか。
狐にでもつままれたような気持ちでオルゴオルを見つめていたが、やはり何度見てもそこに書かれているのは彼自身の名前で間違いない。
ラエルは、まるで何もかも分かっているというかのようにほほ笑んだ。
「息子さんからもらった大事なオルゴオルだからと、わざわざ箱をこしらえたそうですよ。恥ずかしいから、このことは息子さんには内緒だと言っていましたけれどね」
ラエルの言葉に、
「そんな……とっくに捨てられたと思っていたのに」
彼は呆然とつぶやき、じっとオルゴオルを見つめた。その瞳にうっすらと涙が浮かんでいる。
「そのオルゴオル、ぜひあなたの手で持ち主の方に返してあげてください」
ラエルはあくまでも優しくそう言う。
彼は言葉を失い、ただ無言で何度も何度も頷いた。
彼はオルゴオルを手に立ち上がると、コーヒーとサンドイッチの代金をカウンターに置いた。
「僕はもう行きます」
彼が言うと、
「はい。ありがとうございました」
二人の店員が笑顔で応えた。
「気をつけてお行きなさい」
老紳士も優しくそう言った。
彼は深々と頭を下げると、ゆっくりと扉を開けて出て行った。
遠い記憶をたどりながら曲名を思い出そうとしていると、
「ドビュッシーの『月の光』」
いきなりそう言われて、彼は驚きに目を丸くした。
「そう。まさしくそれです。どうして分かったんですか?」
不思議そうに尋ねる彼に、ラエルは笑いながら、彼の手元を指さした。
「そのオルゴオルの曲も『月の光』なんですよ」
その言葉に、改めて手の中のオルゴオルを眺める。
「本当だ。よく見れば、確かにこのメロディーは『月の光』ですね。すごい偶然だな」
彼が言うと、ラエルは意味ありげに頷いてみせた。
それからそっと彼に近づき、彼の両手に白い手を添えて、そっとオルゴオルの箱を裏返して見せた。
「あっ――!」
箱の底に刻まれた文字を見て、彼は驚いて声を上げた。
そこには、このオルゴオルの製作者の名前が刻まれてあった。
それは彼の名前だったのだ。
「まさか、そんな――」
彼は信じられない気持ちでラエルの顔を見つめた。
果たしてこんな偶然があるだろうか。
狐にでもつままれたような気持ちでオルゴオルを見つめていたが、やはり何度見てもそこに書かれているのは彼自身の名前で間違いない。
ラエルは、まるで何もかも分かっているというかのようにほほ笑んだ。
「息子さんからもらった大事なオルゴオルだからと、わざわざ箱をこしらえたそうですよ。恥ずかしいから、このことは息子さんには内緒だと言っていましたけれどね」
ラエルの言葉に、
「そんな……とっくに捨てられたと思っていたのに」
彼は呆然とつぶやき、じっとオルゴオルを見つめた。その瞳にうっすらと涙が浮かんでいる。
「そのオルゴオル、ぜひあなたの手で持ち主の方に返してあげてください」
ラエルはあくまでも優しくそう言う。
彼は言葉を失い、ただ無言で何度も何度も頷いた。
彼はオルゴオルを手に立ち上がると、コーヒーとサンドイッチの代金をカウンターに置いた。
「僕はもう行きます」
彼が言うと、
「はい。ありがとうございました」
二人の店員が笑顔で応えた。
「気をつけてお行きなさい」
老紳士も優しくそう言った。
彼は深々と頭を下げると、ゆっくりと扉を開けて出て行った。
