5.Change the world
思い返せば、晴二郎と過ごした二年間が、少年時代の陽一郎にとって一番幸せな期間だったかもしれない。
中学に入った頃から、何となく両親の間にある空気がおかしくなり始めた。
それでも、陽一郎と晴二郎を中心に、休日は家族で仲良く過ごしていたし、誕生日もクリスマスも全員揃って楽しくお祝いした。泊りがけの家族旅行などはなくなったが、それだって、晴二郎を一匹だけ置いて行くわけにはいかないと陽一郎が言い張ったからだし、父の仕事も前にも増して忙しくなっていたので、当然と言えば当然の、どうにも仕方のない事だと思っていた。
実際の所、両親が最終的に別々の人生を選んだ理由を、陽一郎は今でもよく理解していない。
父の方は、曾祖父の代に興した会社が時代の流れに乗って順調に成長を遂げ、地元ではそれなりに名の知れた名家の長男だった。母の実家はごく普通の家だったが、祖父母は二人とも学校の教師だっただけあって、躾に厳しいながらも優しくて愛情に溢れた人たちだった。立派な父と優しい母、陽一郎の目から見て、両親の仲は睦まじく、お互いに不満を抱えているようには思えなかった。
けれども、両親の心は少しずつ離れて行き、何度か修復を試みたようだが、結局は元に戻れないままだった。
陽一郎の親権をどうするか、財産をどのように分けるか。それぞれに弁護士を立てて何度も話し合った結果、父と母はお互い納得した上で協議離婚に至った。
陽一郎は、母と共に家を去る事になり、その時になって初めて晴二郎を一緒に連れていく事が出来ないと知った。
「どうして?晴二郎は僕の弟なのに」
細かい理由は様々あったが、陽一郎が母から聞かされたのは二つ。一つは、晴二郎は父が購入した物であるため、父に所有権があるという事。二つ目は、母と陽一郎は母の実家で暮らす運びになったのだが、祖父が猫嫌いのため、晴二郎を連れて行けないという事。
「晴二郎は物じゃない!それに、おじいちゃんの事だって説得する」
陽一郎は訴えたが、父も母も聞き入れてはくれなかった。
「晴二郎と離れたくない」
晴二郎を抱きながら涙を零して懇願する陽一郎に、
「ごめんね。でも本当に無理なの」
母は何度も謝った。
家を出て行かなければならない日が来て、いよいよ晴二郎と別れなければならなくなると、陽一郎は晴二郎を抱き締めてぼろぼろ泣いた。
「ごめんよ、晴二郎。いつか迎えに来るから」
「ウニャウーン」
陽一郎との別れが分かっているのか、晴二郎も切なそうな鳴き声を上げる。
中学に入った頃から、何となく両親の間にある空気がおかしくなり始めた。
それでも、陽一郎と晴二郎を中心に、休日は家族で仲良く過ごしていたし、誕生日もクリスマスも全員揃って楽しくお祝いした。泊りがけの家族旅行などはなくなったが、それだって、晴二郎を一匹だけ置いて行くわけにはいかないと陽一郎が言い張ったからだし、父の仕事も前にも増して忙しくなっていたので、当然と言えば当然の、どうにも仕方のない事だと思っていた。
実際の所、両親が最終的に別々の人生を選んだ理由を、陽一郎は今でもよく理解していない。
父の方は、曾祖父の代に興した会社が時代の流れに乗って順調に成長を遂げ、地元ではそれなりに名の知れた名家の長男だった。母の実家はごく普通の家だったが、祖父母は二人とも学校の教師だっただけあって、躾に厳しいながらも優しくて愛情に溢れた人たちだった。立派な父と優しい母、陽一郎の目から見て、両親の仲は睦まじく、お互いに不満を抱えているようには思えなかった。
けれども、両親の心は少しずつ離れて行き、何度か修復を試みたようだが、結局は元に戻れないままだった。
陽一郎の親権をどうするか、財産をどのように分けるか。それぞれに弁護士を立てて何度も話し合った結果、父と母はお互い納得した上で協議離婚に至った。
陽一郎は、母と共に家を去る事になり、その時になって初めて晴二郎を一緒に連れていく事が出来ないと知った。
「どうして?晴二郎は僕の弟なのに」
細かい理由は様々あったが、陽一郎が母から聞かされたのは二つ。一つは、晴二郎は父が購入した物であるため、父に所有権があるという事。二つ目は、母と陽一郎は母の実家で暮らす運びになったのだが、祖父が猫嫌いのため、晴二郎を連れて行けないという事。
「晴二郎は物じゃない!それに、おじいちゃんの事だって説得する」
陽一郎は訴えたが、父も母も聞き入れてはくれなかった。
「晴二郎と離れたくない」
晴二郎を抱きながら涙を零して懇願する陽一郎に、
「ごめんね。でも本当に無理なの」
母は何度も謝った。
家を出て行かなければならない日が来て、いよいよ晴二郎と別れなければならなくなると、陽一郎は晴二郎を抱き締めてぼろぼろ泣いた。
「ごめんよ、晴二郎。いつか迎えに来るから」
「ウニャウーン」
陽一郎との別れが分かっているのか、晴二郎も切なそうな鳴き声を上げる。
