5.Change the world

「じゃあ、オータムナルをお願いします」
「かしこまりました」
 店主は笑顔で頷き、こげ茶髪の店員に向かって声を掛けた。
「ハル、お願いできるかい」
 その瞬間、
「ハル?」
 陽一郎は思わず声を上げた。
「どうかされましたか?」
 店主が心配そうに尋ねる。
 こげ茶髪の店員も不思議そうに陽一郎を見ていた。
 二人の注目を浴びて、陽一郎ははっと我に返った。
「失礼。何でもありません」
 ばつが悪そうに顔を伏せ、二人に向かって軽く頭を下げる。
 出来れば追及してほしくないという陽一郎の気持ちを察したのか、店員たちもそれ以上の詮索はせず、何事もなかったように各々の作業に戻って行った。
 陽一郎は些か気まずい思いで椅子に座り直しながら、厨房の中に入って行くこげ茶髪のハルの背中を目で追った。
(馬鹿だな、俺。いくら髪や瞳の色が似ていても、名前が同じだったとしても、あいつなわけは絶対にないのに)
 改めて自分の行動が恥ずかしくなる。
 そうなのだ。たとえこげ茶色をしたふわふわの髪や灰青色の瞳がどれほど似ていたとしても、陽一郎の知る『ハル』と、この喫茶店の店員の『ハル』が同じであるわけがない。そんな事は現実的にあり得ない。
(本当に馬鹿だ。どうかしてる)
 自分自身を罵りながら、紛らわすようにスマートフォンを手に取る。
 イルミネーションがチカチカと点滅するのを見て、またメールか着信でもあったのかと思い、急いでロック画面を解除する。新着メッセージがある事を示すアイコンがあったので開いてみると、妻の携帯から送られたものだった。
『パパへ、ママのお手伝いちゃんとするから』
『一生のお願い!!』
 そんなメッセージの後、猫が両手をすり合わせるスタンプが貼ってあった。どうやら、今年小学校に入学した娘の優美ゆうみが、妻のスマートフォンを借りて送って来たらしい。
 優美のお願いが何を指しているのか、陽一郎はすぐさま理解した。

 昨晩、家族みんなで食卓を囲んでいる時に、優美が猫を飼いたいと言い出したのだ。
「ママのお友達の家で仔猫がいっぱい生まれたから、優美にも一匹くれるって」
 突然の提案に、陽一郎がすかさず駄目出しをしようと口を開きかけると、
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