4.When You Wish upon a Star

「おまたせいたしました」
 丁寧な口調と慣れた手つきで、ハルは彼の前にコーヒーを置いた。
「いただきます」
 胸に残る幾ばくかの不安を吞み込んで、手に持ったコーヒーカップに口を付ける。
「……」
 一口飲むと、ふくいくたる香りが口の中で花咲いた。
 トアルコ・トラジャらしい豊かな香りだ。味もすこぶる良い。上品で柔らかな甘みがきちんと出ている。
 カイトといい、ハルといい、店員の腕が良いのも、この喫茶店の大きな美点だ。もしこの店が現実にあるのなら、どんな遠い所にあろうと、いつか行ってみたいものだ。
 しかしすぐに、おそらくそれは一生叶わないだろうと自嘲気味に思い直す。
「どうかなさいましたか?」
 カイトが心配そうに彼に尋ねた。
 魅惑的な琥珀色の瞳が、光の加減で金色に輝く。
「いや。ここのコーヒーはいつも美味いな、と思っただけだよ」
「ありがとうございます」
 彼の言葉に、カイトは素直に笑顔を見せる。
「この店のコーヒーは本当に美味いよ。あと何回ほど通ったら、この店のコーヒーを全種類制覇できるのかな?」
 指先でメニューをめくりながら言うと、ハルが驚いて目を丸くした。
「え?全種類?」
「ああ。来るたびに上から順番に三種類ずつ頼んで、やっと残り半分かな」
 彼が指折り数えると、
「そんな事を考えていたんですか?」
 呆れたようにハルが肩を竦める。
 その傍らで、楽しそうに二人の会話を聞きながら、
「こちらとしても、また来ていただきたいのはやまやまなんですが」
 カイトがにこりと笑いかけた時だった。

 カランカランカラーン……
 ドアベルの澄んだ音と共に、一人の若い女性が店内に入って来た。
 少し癖のある長い黒髪を後ろで無造作に束ね、白いシャツとジーンズに化粧っけのない顔は、かえって彼女の魅力を際立たせていた。目をキラキラと輝かせた彼女は、眩しいくらい綺麗だった。
「すみません。ここって営業してますか?」
 張りのある声も瑞々しく若さと元気に溢れている。
「いらっしゃいませ。勿論、営業しておりますよ」
 カイトが答えると、女性はほっとしたように息を吐いた。
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