4.When You Wish upon a Star

 実際、今見ている景色には色も匂いも、それどころか感触や味覚すらあり、現実と何一つ変わらない。
 だが、それでも、今自分がいるのは夢の中の空間だと、彼は自信を持って言えた。何故なら、現実の世界で、彼がこのような喫茶店にいる事などあり得ないからだ。
(いわゆる『明晰夢』というものなんだろうけど、そもそもここはどこなんだ?)
 夢というものは、過去に自分が見た景色や経験したものから出来ていて、時々それらが合わさって知らない場所を作り出すと聞いた事がある。そうだとすれば、この喫茶店も、彼が疾うに忘れてしまったような古い記憶、幼い頃に訪れたり見聞きしたりしたものを、寄せ木細工のように組み合わせて出来た場所なのだろうか。
 そんな事を考えていると、
「いらっしゃいませ」
 二人の店員が同時に声を掛けてくる。
 この喫茶店の夢には、必ずこの二人の店員も登場する。
 二十代半ばくらいの黒髪の店員と、まだ少年のようなあどけなさの残る年若い店員。確か、黒髪の方の名前は『カイト』で、もう一人のこげ茶色の髪に灰色がかった青い瞳の少年は『ハル』と呼ばれていたような気がする。
 幾度か訪れるうちに、この夢の中の住人たちともすっかり顔馴染みになっていた。
 いつものカウンター席に陣取り、若草色の洒落た紙で出来たメニューを広げる。ずらりと並んだコーヒーの銘柄を確認して、今回の注文を決める。
「とりあえずトアルコ・トラジャを頼むよ」
「かしこまりました」
 黒髪のカイトが頷く。
 いつもならそのままカイトがコーヒーを淹れるのだが、今回はハルが担当するらしい。張り切ってコーヒー豆を挽いているハルの姿が、微笑ましいと言えば微笑ましいのだが。
(大丈夫なのかな)
 彼がこの店を初めて訪れた時は、ろくに挨拶すら出来なかったハルだったが、回を重ねる毎に喫茶店の店員らしくなってきた事は承知している。しかし、若いながら熟練の技を持っているカイトと比べると、バリスタとしてまだまだ未熟であろうハルの淹れるコーヒーはいったいどんなものだろう。
 幾分不安に感じながらハルの動きを目で追っていると、同じようにハルを見守っていたカイトと目が合った。その瞬間、カイトの琥珀色の瞳がくすりと笑ったような気がした。
 さては表情に出てしまったかと思い、慌てて視線を逸らす。
2/12ページ
いいね👍️