3.The end of the world

 愛音の脳裏に、愛しそうに目を細める三毛猫の姿が浮かんだ。
 愛音が「世界で一番愛しているよ」と告げる度に、ゆったり目を細めて見つめてきた沙羅。
「私も、愛してる」
 言葉には出来なくても、あの時、沙羅は確かにそう答えていたのだ。
 心から大切で、愛している、至上の存在。
 そしてそれは、これからもずっと変わる事はない。
 同じように月を愛したとしても、沙羅への想いは消えない。愛情とは決して減る事はなく、増えていくものなのだから。
 たとえ姿は見えなくても、何も変わらない。想いは続く。たぶん世界が終わるまで。
 今、愛音にははっきりとそれが分かった。
「沙羅」
 愛音は心を込めて愛しい者の名前を呼んだ。
 それ以上もう何の言葉も出なかった。
 愛音はカードを握り締めると、大切そうに胸に押し抱いた。あたたかい涙が、止まることなく愛音の頬を濡らしていた。
 ハルは言葉もなく、そんな愛音を見つめていた。
 その瞳にも大粒の涙が浮かんでいるのを、果たしてハル本人は気づいているだろうか。
 カイトは、泣き続ける愛音とハルの二人を見守りながら、優しく微笑んだ。
「一つだけ種明かしをしましょうか」
 微笑みながらカイトが言う。
 愛音が涙に濡れたままの顔を上げると、琥珀色の瞳が柔らかく揺れていた。
「あの時、月ちゃんとあなたを結びつけたのは、ほかでもない沙羅さんなんですよ。月ちゃんなら、きっとあなたを笑顔にしてくれる。あなたなら必ず月ちゃんを心から愛してくれる。沙羅さんはそう思っていたんです」
「――」
 カイトの言葉に、愛音は束の間声を失い、やがてくすくすと笑い出した。
「ああ、沙羅は本当に賢くて、誰よりも私の事を分かっているわ」
 やっぱり沙羅には叶わない。
 そう言って泣きながら笑う愛音の笑顔を見て、カイトもハルもつられたように笑った。

 沙羅と会う事は出来なかったが、愛音はこの店を訪れて良かったと思っていた。
 自分が望んでいた答えだけが正解ではない。だからこの結末でも十分満足だ。
 満たされた心持ちで『猫目堂』を後にしようとして、愛音は最後にカイトにこう言った。
「カイトさん、あなたは、私が誰から『猫目堂』の話を聞いたのかご存じですよね」
 カイトは一寸ハルの方を気にするような素振りをしたものの、愛音をまっすぐに見つめた。
「はい。知っています」
 琥珀色の瞳が潤むようにゆらゆらと揺れる。
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