3.The end of the world

 母が問い質すと義姉は尚更に反発し、養父ちちから直接話をしてもらいたくて相談すれば、養父はそんな母を責めた。
「俺は仕事で手一杯なんだ。家の事はお前に任せてあるのに、母親としても、この家の主婦としても自覚が足りないんじゃないか。仕事で疲れて帰って来て、お前の愚痴まで聞かされる方の身にもなってみろ」
 養父にそう言われて、母は更に泣いた。
 そのうえ何かあると養父は義姉の肩ばかりを持った。
 成績が下がっても勉強もせず遅くまで遊び歩く義姉を叱るどころか、環境が変わって可哀想だから仕方ないと庇って甘やかした。逆に、小学生になった愛音がテストで百点を取ってきても、
「小さいうちに頭が良くても、どうせ大きくなる頃には勉強が出来なくなるんじゃないのか。それに、出来の良い子に限って、裏で何をしているか分かったものじゃない」
 と言って、決して褒めてくれなかった。
 それでも愛音は、父に少しでも褒めて欲しくて勉強やお手伝いを頑張ったのだが、その希望はことごとく打ち砕かれた。
 義姉の誕生日には、中高生には不似合いなブランド物のアクセサリーや財布を贈ったりしたが、愛音の誕生日には、子供だからという理由で漫画本や絵本を一冊買ってくれただけだった。
 母は、そんな養父と義姉に遠慮していたのか、或いは嫁いだ先で自分の居場所を作るので必死だったのか、あまり愛音にかまってはくれなかった。今にして思えば、まだ二十代だった母が様々な苦労をしていたのも想像できるし、母なりに愛音を気にかけて愛情を注いでくれていたのだろうが、十歳にもならない当時の愛音にそこまで理解できなかった。
「この家では、私はいらない子なんだ」
 いつしか愛音はそう思うようになっていた。
 そして、そう思う一方で、では何処でなら、誰ならば、自分を必要としてくれるのだろうと考えてみた。
 学校や友達、五歳まで暮らした母方の祖父母の所、そのどれもはっきり違うと言えた。
 学校は愛音にとっては決して居心地の良い場所ではなかったし、同い年の友達はみんな子供じみて見え、誰にも愛音の考えや悩みを打ち明ける事は出来なかった。友達と話せば話すほど、みんなと自分の違いが鮮明になって余計に惨めに思えた。
 友達が『普通』で『当たり前』だと思っている事――両親に可愛がられ、遠慮なく兄弟喧嘩が出来て、我が儘を言って嫌われてしまう事を恐れる必要もなく、ひょっとしたら家を追い出されるかもしれないという心配もなく毎日を過ごしている事が、愛音にはとても贅沢に思えた。
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