3.The end of the world
「良い香り。それに渋みもなくてとても美味しい」
愛音が感想を漏らすと、少年は嬉しそうに破顔した。そのまま得意そうな顔で黒髪の店員を振り向くと、どうだと言わんばかりに胸を張った。
そんな少年の様子がおかしくて、愛音は思わず吹き出してしまった。
おかげで先ほどまでの警戒心はすっかり消え失せた。
(きっと大丈夫。この人たちは信用に値する)
一度大きく深呼吸してから、愛音はまっすぐに二人を見つめた。
「私がこの店に偶然来たんじゃない事をあなたたちは知っているのでしょう?だから、すっかり白状してしまいますね。私が、どうしてもこの店に来たかった理由を」
二人が無言で頷くのを確認して、愛音は覚悟を決めたように話し出した。
*
『愛音』という名前は、「あまねく人に愛される子になって欲しい」という願いを込めて両親がつけてくれたと聞いた時、真っ先に浮かんだのは喜びでも感謝の気持ちでもなかった。多くの人に愛される子だなんて、自分とは一番遠い存在だ、何て皮肉なのだろう。そう思った。
愛音は、長い間『家族』というものを知らなかった。
生後半年にも満たないうちに両親が離婚し、五歳になる頃に母親の再婚先の養女になってから、ずっと他人の中で育ったからだ。
母がお見合いを経て再婚した相手は母よりひとまわり以上も年上で、前妻との間に十四歳になる女の子がいた。
十四歳といえば、とても難しい年頃だ。
それまで父親のいない寂しさを感じていた事もあり、何よりまだ幼かった愛音は、すんなり新しい家にも慣れ、突然出来た父親や義姉 にもすぐに懐いたが、義姉はそうはいかなかった。
父親と二人で暮らしていた自分たちの家に、母と呼ぶには年若い継母 とその子供が土足で踏み込んできた。義姉はそのように感じ、そのままの感情を母と愛音にぶつけた。
義姉の生活態度はみるみるうちに荒れて、義姉はその原因を継母と義理の妹に虐げられているせいだと親戚や近所、学校でも吹聴した。何度も問題を起こす義姉に手を焼いた担任教師や学年主任から連絡を受け、義姉の通う中学校に何度も呼び出されていた母。その度に、帰宅してから台所で隠れるように泣いていた母の背中を、愛音はよく覚えている。
愛音が感想を漏らすと、少年は嬉しそうに破顔した。そのまま得意そうな顔で黒髪の店員を振り向くと、どうだと言わんばかりに胸を張った。
そんな少年の様子がおかしくて、愛音は思わず吹き出してしまった。
おかげで先ほどまでの警戒心はすっかり消え失せた。
(きっと大丈夫。この人たちは信用に値する)
一度大きく深呼吸してから、愛音はまっすぐに二人を見つめた。
「私がこの店に偶然来たんじゃない事をあなたたちは知っているのでしょう?だから、すっかり白状してしまいますね。私が、どうしてもこの店に来たかった理由を」
二人が無言で頷くのを確認して、愛音は覚悟を決めたように話し出した。
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『愛音』という名前は、「あまねく人に愛される子になって欲しい」という願いを込めて両親がつけてくれたと聞いた時、真っ先に浮かんだのは喜びでも感謝の気持ちでもなかった。多くの人に愛される子だなんて、自分とは一番遠い存在だ、何て皮肉なのだろう。そう思った。
愛音は、長い間『家族』というものを知らなかった。
生後半年にも満たないうちに両親が離婚し、五歳になる頃に母親の再婚先の養女になってから、ずっと他人の中で育ったからだ。
母がお見合いを経て再婚した相手は母よりひとまわり以上も年上で、前妻との間に十四歳になる女の子がいた。
十四歳といえば、とても難しい年頃だ。
それまで父親のいない寂しさを感じていた事もあり、何よりまだ幼かった愛音は、すんなり新しい家にも慣れ、突然出来た父親や
父親と二人で暮らしていた自分たちの家に、母と呼ぶには年若い
義姉の生活態度はみるみるうちに荒れて、義姉はその原因を継母と義理の妹に虐げられているせいだと親戚や近所、学校でも吹聴した。何度も問題を起こす義姉に手を焼いた担任教師や学年主任から連絡を受け、義姉の通う中学校に何度も呼び出されていた母。その度に、帰宅してから台所で隠れるように泣いていた母の背中を、愛音はよく覚えている。
