3.The end of the world
彼女が座るとすかさずメニューが差し出される。
鳥の子色の用紙にカリグラフィーで書かれたメニューには、たくさんの種類のコーヒーや紅茶、ハーブティーの名前が並んでいた。
何を頼もうか迷っていると、カウンターから少し離れた場所に置かれた花台の上の小さな鉢植えが目に入った。明るい緑色の丸い葉っぱに、コロンとした純白の可愛らしい花をいくつも咲かせている。
(珍しい八重咲きの茉莉花 だわ)
かつては彼女の家にも大きな鉢植えがあり、夏が来るたびに甘い香りを漂わせていたのを思い出す。
宵闇に浮かぶ真っ白な花びらと、その花と同じくらい白くて凛とした小さな背中。窓辺に佇みながら、花の香りを含んだ涼しい夜風に靡 くように揺れていた嫋 やかな輪郭。
(そう言えば、あの子はこの香りがとても好きだった)
憧憬にも似た懐かしさと独特の芳香に誘われるようにジャスミンティーを注文する。
「ジャスミンティーを、ホットでお願いします」
「かしこまりました。少々お待ちください」
黒髪の店員が慇懃に頷き、こげ茶色の髪の少年に目配せする。少年は嬉しそうにぱっと顔を輝かせて、厨房へ消えて行った。
少年の背中を笑顔で見送ってから、黒髪の店員はまっすぐに愛音に顔を向けた。
「こちらへは迷わずに来られましたか?」
頓 にそんな風に尋ねられて、愛音は息を呑んだ。
ぎょっとして黒髪の店員を見つめると、思いがけず優しい眼差しが愛音に注がれていた。更に、
「ああ、申し訳ありません。警戒させてしまいましたね」
丁寧に頭を下げてくる。
それきり黒髪の店員は口をつぐみ、愛音の方から何か話してくるのを待っているようだった。
いったいどうしたらいいのだろうと愛音が本気で悩み始めた頃、こげ茶髪の少年がティーカップを載せたトレイを持って奥から現れた。
「お待たせしました。熱いので気を付けてください」
元気一杯な様子でそう言う。
少年の朗らかさに助けられたような気がして、愛音は心から礼を言った。
「ありがとう」
とりあえず出されたジャスミンティーを一口飲む。
白磁にハチドリと花が描かれた少し平たいカップに、薄い色をしたお茶が揺れている。普段飲んでいるものよりずっと繊細で淡いジャスミンの香りが、喉や鼻の奥までふんわりと広がった。
鳥の子色の用紙にカリグラフィーで書かれたメニューには、たくさんの種類のコーヒーや紅茶、ハーブティーの名前が並んでいた。
何を頼もうか迷っていると、カウンターから少し離れた場所に置かれた花台の上の小さな鉢植えが目に入った。明るい緑色の丸い葉っぱに、コロンとした純白の可愛らしい花をいくつも咲かせている。
(珍しい八重咲きの
かつては彼女の家にも大きな鉢植えがあり、夏が来るたびに甘い香りを漂わせていたのを思い出す。
宵闇に浮かぶ真っ白な花びらと、その花と同じくらい白くて凛とした小さな背中。窓辺に佇みながら、花の香りを含んだ涼しい夜風に
(そう言えば、あの子はこの香りがとても好きだった)
憧憬にも似た懐かしさと独特の芳香に誘われるようにジャスミンティーを注文する。
「ジャスミンティーを、ホットでお願いします」
「かしこまりました。少々お待ちください」
黒髪の店員が慇懃に頷き、こげ茶色の髪の少年に目配せする。少年は嬉しそうにぱっと顔を輝かせて、厨房へ消えて行った。
少年の背中を笑顔で見送ってから、黒髪の店員はまっすぐに愛音に顔を向けた。
「こちらへは迷わずに来られましたか?」
ぎょっとして黒髪の店員を見つめると、思いがけず優しい眼差しが愛音に注がれていた。更に、
「ああ、申し訳ありません。警戒させてしまいましたね」
丁寧に頭を下げてくる。
それきり黒髪の店員は口をつぐみ、愛音の方から何か話してくるのを待っているようだった。
いったいどうしたらいいのだろうと愛音が本気で悩み始めた頃、こげ茶髪の少年がティーカップを載せたトレイを持って奥から現れた。
「お待たせしました。熱いので気を付けてください」
元気一杯な様子でそう言う。
少年の朗らかさに助けられたような気がして、愛音は心から礼を言った。
「ありがとう」
とりあえず出されたジャスミンティーを一口飲む。
白磁にハチドリと花が描かれた少し平たいカップに、薄い色をしたお茶が揺れている。普段飲んでいるものよりずっと繊細で淡いジャスミンの香りが、喉や鼻の奥までふんわりと広がった。
