3.The end of the world

「ご利用ありがとうございました」
 ドアが閉まり、走り去るバスを見送ってから、恐る恐る林道へ足を踏み入れる。
 自分は都合の良い夢を見ているだけなのかもしれないと思いながら、慎重に歩いて行く。歩いている間、試しに何度か自分の腕をつねってみたが、バス停も林道も山も消えたりはしなかった。間違いなくそこにある。
(でも、本当にここがそうなのかしら?)
 何だか思い通りに行き過ぎて、狐にでも化かされているのではないかと不安になる。必ず見つけたいと思いながら、内心では絶対に見つけられないと諦めていたから、こうしていざ願いが叶うかもしれないとなると、少しだけ怖くなってくる。
 迷いながらもしばらく進むと、赤いレンガ造りの建物が見えてきた。
「夢じゃない。私、間違いなく来られたんだ」
 愛音はそこで足を止めて、最終確認とばかりに店の看板を読み上げた。
『喫茶・雑貨 猫目堂』
 間違いない。親友の言っていたのは本当だった。
 けれど、彼女の話と違っていた所もある。
 入り口の扉に嵌め込まれたステンドグラスの絵柄だ。
 この建物とそっくりなレンガ造りの家屋の前に、琥珀色の瞳をした全身真っ黒な猫と灰青色の瞳のラグドールが背中合わせに座っている。猫たちの左下の角の方には、ひとひらだけ桜の花びらの模様がついた茶色いコーヒーカップが置いてあり、屋根の上の空には七色の虹がかかっている。
 描かれているのは、それで全部だ。
 クリスマスツリーなどもなく、四つ角には花も貝殻も描かれておらず、想像とは違ってずいぶんシンプルな図案だった。
 ただし、ステンドグラス以外は概ね聞いていた話の通りで、やはりここで間違いなのだと確信する。
 もうすぐ季節は夏から秋に移っていく。
 扉の両脇に置かれた大きな鉢植えには、それぞれに秋を感じさせる花々が寄せ植えされていた。チョコレートコスモスと紺色に近い濃い青色をした竜胆りんどう、明るい黄色が映える女郎花おみなえし、ふさふさの穂を伸ばした背の低いパンパスグラス、黒い真珠のような実を付けた観賞用の唐辛子と鮮やかな黄色や橙色だいだいいろのケイトウ、蔓を垂らし赤くなり始めた実をたわわに付けたツルコケモモなどがバランスよく配されている。
 勿論、建物の左右の花壇にもたくさんの花が植えてあった。
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