2.Home, Sweet Home
「これもまた、あの家の大切な思い出の一つです。せめてこれだけでも取って置きたいのです。だから無理を承知でお願いします。このコーヒーカップを、ここに置いておいてもらえないでしょうか。あの家族の思い出を、この場所に留めておいてはもらえないでしょうか。あの家はなくなってしまいますが、何か一つでもいいから、あの家と家族が確かに存在した証 を残したいと思ってしまうのは、往生際の悪い我が儘でしょうか?」
切羽詰まったようにお客が言うと、
「いいえ」
カイトはきっぱりと首を振った。
「決して無理なお願いでも、我が儘でもありません」
「では」
「はい。喜んでお引き受けいたします」
カイトの言葉に、お客は安心したように微笑んだ。
「ありがとう」
お礼を言いながら頭を下げようとするお客に、カイトは一枚の写真を差し出した。
「出来れば、カップと一緒にこちらの写真も飾らせていただきたいのですが」
「これは?」
お客は不思議そうに写真を受け取り、そこに映っているものを見た。
それはセピア色に褪せた家族の集合写真。お客にとって、よく見知った顔がそこに並んでいた。和男と祖父母と両親と兄妹たち、叔父や叔母や従兄弟たち、それに和男の妻と三人の子供たちもいる。
実際にこんな写真を撮った事は一度もない。もとより、祖父が生きている頃は、まだ和男は独身だったのだから。
でも、それでも、そこに写っているのは間違いなく和男の大切な家族だった。
家族全員が一堂に会し、あの家の前で楽しそうに笑っている。家の奥には山が広がり、庭の片隅には先祖が植えた山桜の樹が満開に花を咲かせていた。
それは紛れもなくかつてそこにあった風景であり、和男の心の中に最後まで在り続けた風景でもあった。
穏やかで幸せそうな一つの家族と、そんな家族に寄り添う古い家と桜の樹の写真。
「ありがとう。ありがとう」
お客は感情のこもった声で繰り返した。
「本当にありがとう」
感謝の言葉と共に、お客の両目から大粒の涙が零れた。
涙は頬を伝わり、整った顎をなぞるようにして床に落ちた。
それと同時に、お客の姿にも変化が起こった。
白磁のように滑らかな肌に蜘蛛の巣のようなひびが入り、ぱらぱらと剥がれ落ちたのだ。
「えっ?!」
ハルは思わず大きな声を上げた。
あまりにもびっくりして、つい隣にいるカイトの腕を掴んでしまう。
切羽詰まったようにお客が言うと、
「いいえ」
カイトはきっぱりと首を振った。
「決して無理なお願いでも、我が儘でもありません」
「では」
「はい。喜んでお引き受けいたします」
カイトの言葉に、お客は安心したように微笑んだ。
「ありがとう」
お礼を言いながら頭を下げようとするお客に、カイトは一枚の写真を差し出した。
「出来れば、カップと一緒にこちらの写真も飾らせていただきたいのですが」
「これは?」
お客は不思議そうに写真を受け取り、そこに映っているものを見た。
それはセピア色に褪せた家族の集合写真。お客にとって、よく見知った顔がそこに並んでいた。和男と祖父母と両親と兄妹たち、叔父や叔母や従兄弟たち、それに和男の妻と三人の子供たちもいる。
実際にこんな写真を撮った事は一度もない。もとより、祖父が生きている頃は、まだ和男は独身だったのだから。
でも、それでも、そこに写っているのは間違いなく和男の大切な家族だった。
家族全員が一堂に会し、あの家の前で楽しそうに笑っている。家の奥には山が広がり、庭の片隅には先祖が植えた山桜の樹が満開に花を咲かせていた。
それは紛れもなくかつてそこにあった風景であり、和男の心の中に最後まで在り続けた風景でもあった。
穏やかで幸せそうな一つの家族と、そんな家族に寄り添う古い家と桜の樹の写真。
「ありがとう。ありがとう」
お客は感情のこもった声で繰り返した。
「本当にありがとう」
感謝の言葉と共に、お客の両目から大粒の涙が零れた。
涙は頬を伝わり、整った顎をなぞるようにして床に落ちた。
それと同時に、お客の姿にも変化が起こった。
白磁のように滑らかな肌に蜘蛛の巣のようなひびが入り、ぱらぱらと剥がれ落ちたのだ。
「えっ?!」
ハルは思わず大きな声を上げた。
あまりにもびっくりして、つい隣にいるカイトの腕を掴んでしまう。
