2.Home, Sweet Home
どこまでも緑が重なる静かな山奥。
誰も訪れないような深い山の中、寂れたバス停の向かいにある細い林道を歩いて行くと、木々に囲まれるようにして赤いレンガ造りの小さな建物が見えてくる。
掲げられた看板には『喫茶・雑貨 猫目堂』の文字が書かれている。
入り口の大きな木製の扉には、上半分にステンドグラスが嵌め込んであり、その絵柄は少し変わっていた。
建物とそっくりなレンガ造りの家屋の前に、二匹の猫――向かって左側に琥珀色の瞳をした全身真っ黒な猫が、右側には灰青色の瞳が美しいラグドールが背中合わせに座っている。更に建物の上には七色の虹がかかっている。
描かれているのはそれだけで、四つ角には大きな余白があった。シンプルと言えば聞こえはいいが、どうにも中途半端な印象が拭えない。
ステンドグラスの扉の両脇には大きな鉢植えが置かれ、いつも色とりどりの季節の花たちが寄せ植えされている。夏の盛りを少しばかり過ぎた今時分は、コスモスによく似たコレオプシスがふんわりと風に揺れ、その手前では薄桃色と深いワイン色の日日草や純白のユーフォルビアが暑さに負けず生き生きと花を咲かせていた。
店の前に置かれた鉢植えばかりでなく、建物の左右の花壇にも数多 の花が植えてある。こちらも夏の暑さに強いクルクマやエキナセアが姿勢よくすっと花首を伸ばし、足元には小ぶりのアンゲロニア、さらに月光を思わせるような澄んだ黄色のトレニアが地面を覆うようにたくさん咲いている。
建物と花壇を囲むように濃い緑の葉を繁らせたローズマリーがこんもりと生け垣を作っていて、涼しげな風が吹くたびに爽やかな香りが辺りに漂う。
カランカラン……
入口の扉に取り付けられたドアベルが澄んだ音色を鳴らす。
店内に入って来たお客の姿を見て、店主である黒髪のカイトが琥珀色の瞳を微かに見開いた。
「おや、珍しいお客様だ」
つられたように見習い店員のハルも扉の方へ目を向ける。灰色がかった青い瞳が好奇心で僅かに輝きを増した。
そこに立っていたのは何とも不思議な雰囲気を纏った人物だった。
色白ですっきり整った面差しに、色素の薄い髪や瞳は、一見しただけでは男性とも女性とも判別がつかない。それどころか年齢すらあやふやだ。中世的な顔立ちやほっそりとした体形は三十代前半くらいに見えるが、その物腰や佇まいには年配者の落ち着きを感じさせる。
(何だか奇妙な客だな)
そう思いながら、ハルはお客をじっと見つめた。
誰も訪れないような深い山の中、寂れたバス停の向かいにある細い林道を歩いて行くと、木々に囲まれるようにして赤いレンガ造りの小さな建物が見えてくる。
掲げられた看板には『喫茶・雑貨 猫目堂』の文字が書かれている。
入り口の大きな木製の扉には、上半分にステンドグラスが嵌め込んであり、その絵柄は少し変わっていた。
建物とそっくりなレンガ造りの家屋の前に、二匹の猫――向かって左側に琥珀色の瞳をした全身真っ黒な猫が、右側には灰青色の瞳が美しいラグドールが背中合わせに座っている。更に建物の上には七色の虹がかかっている。
描かれているのはそれだけで、四つ角には大きな余白があった。シンプルと言えば聞こえはいいが、どうにも中途半端な印象が拭えない。
ステンドグラスの扉の両脇には大きな鉢植えが置かれ、いつも色とりどりの季節の花たちが寄せ植えされている。夏の盛りを少しばかり過ぎた今時分は、コスモスによく似たコレオプシスがふんわりと風に揺れ、その手前では薄桃色と深いワイン色の日日草や純白のユーフォルビアが暑さに負けず生き生きと花を咲かせていた。
店の前に置かれた鉢植えばかりでなく、建物の左右の花壇にも
建物と花壇を囲むように濃い緑の葉を繁らせたローズマリーがこんもりと生け垣を作っていて、涼しげな風が吹くたびに爽やかな香りが辺りに漂う。
カランカラン……
入口の扉に取り付けられたドアベルが澄んだ音色を鳴らす。
店内に入って来たお客の姿を見て、店主である黒髪のカイトが琥珀色の瞳を微かに見開いた。
「おや、珍しいお客様だ」
つられたように見習い店員のハルも扉の方へ目を向ける。灰色がかった青い瞳が好奇心で僅かに輝きを増した。
そこに立っていたのは何とも不思議な雰囲気を纏った人物だった。
色白ですっきり整った面差しに、色素の薄い髪や瞳は、一見しただけでは男性とも女性とも判別がつかない。それどころか年齢すらあやふやだ。中世的な顔立ちやほっそりとした体形は三十代前半くらいに見えるが、その物腰や佇まいには年配者の落ち着きを感じさせる。
(何だか奇妙な客だな)
そう思いながら、ハルはお客をじっと見つめた。
