1.Over the Rainbow

 いったい何だろうと思いながら目を凝らしてみる。
 どうやら髪の長い女性と一匹の白猫のようだった。女性は髪に白いものが混じり、猫は耳とお尻の辺りにだけ若干の三毛模様があった。
 女性が両手を差し伸べると、白猫が両足で地面を蹴って、迷わず女性の腕の中へ飛び込んだ。女性は白猫をしっかり受け止め、白猫は女性の頬に何度も何度も小さな頭を擦りつける。
 こんなに遠く離れているのに、香奈の目にはその様子がはっきりと映っていた。
 その瞬間、香奈には分かった。
(あれは、さっきライラが話していた白猫だ)
 じゃあ、白猫と一緒にいるのは――。
「再会、出来たんだ」
 思わず香奈は呟いた。その両目にうっすら涙が滲んだ。
 それに対して、店長は黙ったまま微かに頷いた。
 香奈と店長に見守られながら、一人と一匹は嬉しそうに寄り添いながら歩き出した。
 女性と白猫はお互いの顔を見つめ合いながら、ゆっくりとした足取りで虹の橋の下をくぐって行く。
 虹の向こうに広がるのは、どこまでも優しく淡く光り輝く若葉色の木漏れ日。それがずっとずっと先の彼方まで続いている。
 やがて二つのシルエットが光の中に溶けて、すっかり見えなくなってしまうと、香奈は大きく息を吐き出した。
「……」
 何も言葉はいらなかった。
 下手な言葉や野暮な推測で、今のこの瞬間を壊してしまいたくない。
 そう香奈は思った。

 帰りがけに、今日飲んだハーブティーの茶葉を少しばかり買い、お茶代と一緒にお会計を済ませた。
「ありがとうございました」
 黒髪の店長がにこやかに言い、こげ茶髪のハルもぎこちなく頭を下げる。
 そんな二人に、香奈は思い切って尋ねてみた。
「あの、また来てもいいですか?」
 二人は驚いて香奈を見つめた。
 ハルが少し呆れた顔で口を開きかけたが、それを遮るように店長が笑った。
「そうですね。あなたがまた道に迷った時は、きっと」
「え?それって――」
 どういう意味かと聞き返そうとした香奈に、
「そろそろバスが到着する時間です。急がないと午後の授業に遅れてしまいますよ」
 店長から言われて、すかさず腕時計を確認する。店長の言葉通り、バスの到着まであと十分ほどしか時間がなかった。
 茶葉と財布を仕舞い、足早に店を後にする。
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