1.Over the Rainbow

「すごいよ、ライラ!」
 拍手して褒める香奈の元へ、フリスビーを咥えたライラが、尻尾を左右に大きく振りながら得意そうな顔で戻って来る。香奈はライラからフリスビーを受け取ると、ライラの頭を何度も撫でた。
「ライラ、賢い!ライラ、超カワイイ!」
「ワンワンッ!」
 家族としての贔屓目もあるだろうが、ライラは驚くほど賢くて、香奈の言葉をほとんど理解出来ているようだった。
 香奈が笑っている時はライラも嬉しそうに尻尾を振り、香奈が落ち込んでいる時は黙って傍に寄り添ってくれた。他人に弱音を吐くことが苦手で、つい強がってしまう香奈の事を、両親よりも姉妹よりも分かってくれたのは、間違いなくライラだった。

 ライラの異変に、最初に気が付いたのはいつ頃だったろう。
「ねえ、お母さん、最近、ライラの様子が少し変じゃない?」
 夕飯の支度を手伝いながら、何気なく聞いてみる。
「変って、どういう風に?」
「うーん。特別な事はないんだけど、何だかいつもと違う感じがするんだよね」
 不安という程はっきりしたものではない。でも、最近ライラの様子にちょっとした違和感を覚えるのだ。いつもライラと一緒にいる香奈でなければ分からないような、本当にほんの些細なものだったけれど。
「そう?お母さんは特に何も感じないけど。香奈の気のせいじゃないの?」
「そうかなぁ」
 そう言われればそんな気もする。
 やはり香奈の気にし過ぎなのだろうか。
「それよりも、この前の模試はどうだったの?もう結果は出たんでしょう?」
 いきなり試験の話題を振られたが、香奈は余裕の笑みを浮かべた。
「学年十位」
「え?嘘?今までで一番良い成績じゃない。今回はすごく頑張ったのね」
「でしょう?私も自分で自分を褒めてあげたいよ」
 自画自賛すると、母親も嬉しそうに笑った。
「じゃあ、来月の香奈の誕生日はプレゼント奮発しちゃおうかなぁ」
 思ってもみなかった母親からの提案に、
「ホント?じゃあ、私、新しいお財布が欲しいんだ。この間、雑誌に載っていたブランド物の」
 普段ならまず聞き入れられないような高価なおねだりをしてみる。
 母親は一寸だけ考え込むような素振りをしたが、すぐに機嫌よく頷いた。
「いいわよ。頑張ったご褒美」
「やった、嬉しい!」
 香奈は満面の笑みを浮かべた。
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