800文字100話チャレンジ

「ストッキングって破りたくならへん? ワイはなるで」
「ああ、ちょっとわかります。使い古したストッキングとか破って捨てるし」
 ゴーストの部屋で、補佐官は黒のストッキングを脱ぎながら答える。彼女の着ている紫の薔薇をあしらった黒のドレスは、ゴーストがプレゼントしてくれたものだ。フリルやレース、リボンをふんだんに使った、可愛らしいドレス。そんな素敵なドレスを脱ぐのはもったいないけれど、もう世界帝軍主催の夜会も終わり。今はゴーストとふたりだけの時間だ。
 ゴーストは漆黒の天蓋付きベッドの上でごろ寝しながら、補佐官のドレスを触っていたずらをしてくる。脱ぎづらいなぁと微笑ましく思っていると、ぐいっと腕を引かれてベッドに引きずりこまれた。素っ頓狂な悲鳴を上げると、ゴーストが楽しそうに笑う。
「ふふ、可愛いなぁ、補佐ちゃん」
「い、いきなりベッドに引きずりこむのはやめてくださいっ! びっくりするじゃないですか!」
 ただでさえ気配が薄いのに、油断しているときに何かされるとびっくりしてしまう。
 そんなことを訴えると、ゴーストは補佐官の鼻の頭にキスをして、黒いネイルが輝く爪先で、ドレスの胸元をつんつんとつついた。
「なあ。ドレス、破いてええ?」
「ダメです!」
「また新しいの買ったるから」
「やです」
 補佐官はゴーストの首に抱きつき、頭を引き寄せて甘くキスをする。ゴーストは積極的に舌を絡ませ、補佐官が気持ちよくなるように唇を貪る。
 唇が離れると、二人の唇から唾液がこぼれた。補佐官の頬を伝って、唾液が真っ黒なベッドシーツに落ちる。
 ゴーストは補佐官のドレスに手をかけると、荒い息を紡いで補佐官の額に自分の額を押し付けた。苦しそうに、欲求の捌け口を求めるかのような顔で彼は言う。
「なぁ、やっぱ破りたいんやけど?」
「もうっ。今日はどうしたんですか」
 補佐官はまたゴーストにキスをする。彼がこんなに興奮しているのは久しぶりだ。すると、ゴーストはもごもご口を開いた。
「……ええなぁって」
 肩口に押し付けられるゴーストの頭。さらさらの絹糸のような銀髪からは、お揃いのシャンプーとゴーストの香水の匂いがする。補佐官の大好きな匂いだ。
 ゴーストは肩に顔を押し付けたまま、うー、と唸ってとうとう正直に欲求を口にした。
「……可愛い格好した、清純な補佐ちゃんを汚すの、ええなぁって。夜会の最中ずっと思っとったんや」
 意外とフェチっぽい欲求をぶつけられてしまった。ゴーストは続ける。
「きれいなもん汚すの、もったいないけど興奮するやろ……?」
 苦しそうにため息を吐くゴースト。補佐官は小さく笑うと、ゴーストの顔を上げさせて、額にちゅっちゅとキスをした。
「いいですよ、それなら」
「ホンマ?」
「へへ、ほんまです」
 わたしもあなたに汚されたいです。
 そうささやくと、ゴーストの喉が鳴るのがわかった。彼はネクタイを緩め、補佐官のドレスに手をかける。……新しいドレス、おねだりしなきゃなぁ。そんなことを考える余裕もないほど揺さぶられるのは、このすぐ後だ。
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