800文字100話チャレンジ

 朝起きると、審神者の瞳が金色に染まっていた。はちみつのような黄金色を見て、審神者は驚きと憤りのあまり、ふるふる震える。そして、洗面所を出て、布団の中で未だにすやすや眠っている膝丸の肩をばしばし叩いた。
 膝丸は「どうした? 甘え足りないのか?」と寝惚け顔。そうではなくて! 審神者が違うと言えば、膝丸は薄緑色の髪の奥にある金の右目を細めて、唸ってから審神者を布団に引きずり込んだ。素っ頓狂な声を上げてしまった審神者。
「な、なんだよー! もう!」
「もう少し一緒に寝よう。ほら、主」
 膝丸はぽんぽんと審神者の肩を叩く。審神者は、違うと言って膝丸のほっぺたをむぃっと指でつまんで引っ張った。
「目! 見て! わたしの目!」
「目がどうした……?」
 寝ぼけ眼をこすりながら、膝丸は審神者の瞳を覗き込む。沈黙。膝丸の目が見開かれる。ややあって、膝丸は審神者をぎゅっと抱き締めてきた。
 膝丸からはいい匂いがする。普段使っている柔軟材と、お揃いのシャンプー、膝丸自身のいい匂い。そんな香りと、膝丸の体温に頭がくらくらしてしまう。
「ちょ、ひざ……」
「俺の霊力が移って瞳の色が変わってしまったのだな」
 とろけるような声。その甘さに背筋がぞくぞくする。
 膝丸は審神者の髪を撫でながら、優しく耳に指を這わせてきた。やわい愛撫の感覚に戸惑っていると、膝丸が「ふむ」と声を上げて、枕元の端末を手に取った。何かを見てから端末を再び枕元に置き、それから彼は審神者を布団に組み敷いた。
「まだ時間はある」
「ちょ、えっ」
「髪の色も変わるまで愛し合おうか」



 やっと布団から出て、身支度を整えてから大広間に顔を出す。髪は薄緑、瞳は金色の審神者の姿を見て、一同はすべてを察した様子で「あー……」と声を上げた。
 始まりの一振りである山姥切国広には「慎め」と言われるし、初鍛刀の乱藤四郎には「あるじさんったら乱れすぎ!」と笑われる始末。
 審神者は自分の左隣に座る膝丸を睨む。彼の左側の頬には赤い手形が。
「おや、弟は随分男前になったねぇ。猫にでも引っかかれたのかい?」
 膝丸の左隣でからかってくる髭切に、膝丸はいつもの冷静な様子で返事をする。
「ああ。あまりに可愛らしくて、かまいすぎたら引っかかれてしまった」
 審神者と膝丸の目が合う。絡み合った二つの金色。審神者が膝丸を睨めば、彼は薄く微笑んで「詫びだ」と言いながら、朝食の鮭の皮を審神者の皿に入れてくれた。
 大好きな鮭の皮で懐柔されるほど甘くないんだから!
 しかし、審神者は笑みをおさえきれず。しょうがないなぁと言いながら鮭の皮をぱりりと食むのだった。
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