ヤンデレワンライログ

 審神者は山盛りホイップクリームのパンケーキを食べて上機嫌。ずっと、食べたいなぁ、と口にしていた、城下町にある喫茶店のパンケーキだ。その念願のパンケーキを嬉しそうに食べる姿が可愛らしくて、膝丸はコーヒーカップを置いて、じっと審神者を眺める。視線に気づいた彼女は恥ずかしそうに「なんだよー……」と笑った。
「いや、可愛らしいなと思ったんだ」
「なにそれ変なの。わたしの顔なんてどうでもいいから、膝丸も食べなよ! はい、あーんして!」
 差し出されたパンケーキ。口に入れると、甘いシロップの味が広がった。ひたすらに甘くて胸焼けを起こしてしまう。コーヒーをすぐに飲むと、審神者が「甘すぎた?」と問うてきた。
 本当に甘いのはパンケーキではなく、審神者の方なのだが。そんな思いを抱いて、膝丸は審神者をじっと見つめる。最初こそ「ねえ!」とか「甘いのやだったの?」などと一生懸命膝丸に声をかけていた審神者であったが、徐々に言葉に力をなくし、最後には俯いて顔を真っ赤にしてしまった。
「あの、さ……」
「ああ」
「じっと見られたら、穴空いちゃいそうなんだけど……」
 可愛い言い回しに笑うと、審神者は「笑うなよー!」と抗議する。それがまた可愛らしくてまた笑うと、審神者は「もー! 知らん! ずっと笑ってれば!」と拗ねてしまった。
 膝丸は思う。自分の一挙一動で彼女はこんなにも弱々しく振り回されてくれる。もっと振り回されてほしい。あわよくば、どこか誰もいない場所に持っていって、大切に大切に、自分に転がされる様を愛でていたい。そんな欲求を抱く。
 そして、そんな欲求など知らずに、審神者はメニュー表を眺めている。まだ食べる気らしい。これ以上笑ったら彼女の機嫌が悪くなるだろうか? そんなことを考えながらも、あふれてくる笑みを抑えられない。審神者が笑い声に気付いて、一瞬ムッと顔をしかめた。だが、すぐ柔らかい表情を浮かべると、メニュー表を閉じてまばたきをした。
「ひざまるは本当にわたしのことが好きだね」
 甘えた声でそう言われると、もうどうしていいかわからなくなってしまう。手をそっと差し出して、手の甲で頬に触れる。くすぐったそうに身じろぐ審神者。彼女の表情は笑顔だ。
「ああ、大好きだ。愛している」
 だからどこかへ持っていってしまってもいいだろうか。そう問う前に、審神者は片手を挙げて「すみませーん!」と声を上げた。店員を呼んだようだ。膝丸は手を引っ込め、軽く審神者を睨む。彼女は素知らぬ顔でメニューを注文した。
 店員が店の奥へ消えると、膝丸は無造作に置かれた審神者の片手を掴んだ。目を丸くする彼女の前で、その手の甲に唇を落とす。
「君も俺を好いているだろう」
 何度も唇で手に触れれば、審神者は「すっ、すき、だよ!」と観念したように呻いた。
「足りない」
「た、足りてよっ」
「もっと言ってほしい」
「もー! あんたは面倒な彼女か!」
 顔を真っ赤にして唸る審神者に、膝丸は小さく笑いながら返す。
「面倒な俺は嫌いか?」
「……」
「なぁ」
 俯いた審神者の下から顔を覗き込む。彼女は潤んだ瞳を膝丸に向けて「……すき」と呟いた。
 膝丸はその返事に満足しながら、さて、この感情は愛情なのか支配欲なのか、それとも別の何かなのかと考えた。だがどれでもいい気がした。この感情に意味などなくとも、審神者がずっと膝丸という檻に囚われていれば、それでいい。
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