オーター夢

「あの、オーターさん、近い、です……」
「いい加減慣れてください」

 オーターさんは大変視力が悪く、眼鏡を外せば目が3になるほどです。でも、琥珀色の瞳は今まばたきすることもなく私を捉えて離しません。その目にははっきりと私の火照った顔が映っているのでしょう。貴方様は簡単に言ってのけますが、愛しい人とおでこがコツン、と触れ合い、こんな至近距離で見つめられて平然とできるお方がこの世にいますでしょうか。

 貴族である私は自由に恋愛できる立場にはなく、親の言われるままにお見合いをしてすぐに結婚。その相手がオーターさんでした。私は所詮家同士の政略結婚の道具。形式通りに社交界に顔を出し、周りから期待されるままに神覚者様の子を産み、必要最低限の関わりだけで、こうして睦言を交わすなど物語だけでの幻想。そう、言い聞かせていたのですが。

「動かないでください、顔が見えません」
「眼鏡をつければいいでしょう」
「愛しい人の顔は自分の目で見たいものです」

 彼の目がフッと細められます。自室で冷徹に仕事をこなす姿からは想像もつかないほど優しげに。彼はいかにも「恋愛なんて非合理的。時間の無駄です」といいたげなオーラを出していますから、私が一方的にお慕いしているだけかと思っていたところで、両思いとわかってからは天にも昇りそうでした。おまけに、あるときオーターさんとキスするときに不意に目を開けたら彼は穴があくほどじーっと見つめていることに気づいてしまいまして。いつもは目をつぶって心臓の鼓動が鳴り止むのを待つだけだったのですが、まさかそのような恥ずかしい姿を毎回晒していたとは。それ以降穴があったら入りたいと何度思ったことか。今も熱が下がってくれる気配はなく寝具がうっとうしいです。

「あなたも慣れてください。この先もっと恥ずかしいことをするのですから」
「もっ……!?」

果たして……私がこれに慣れる日はくるのでしょうか。
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