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「はあ……」
千景は内に抱え込んでいる何かをすべて吐き出すように深いため息をついた。
図書館にしては比較的がやがやした、一階のラウンジホール。昼下がりの空きコマに課題を片付けているところであった。
「大丈夫?」
テーブルをはさんだ向かいの席で同じく課題をこなしているアフロが特徴的な青年――久能整 は彼女を気遣う声を出してから、あっ、とすぐに何かに気づいたような表情を見せた。
「そうだ、こういうときは大丈夫? って聞いちゃダメなんだった。みんな大丈夫って答えちゃうから……どうしたの?」
「月1の貧血シーズン」
千景は目をつぶって背もたれに身体を預けた。
「痛みはそんなないんだけどね。まあ血がドロっと流れる感覚とかは嫌だけど」
いつもの彼女なら、ここまでつらい様子を表に出すことがない。整が未だ首をかしげたままでいると、彼女が続けて口を開いた。
「……学部の人に、怒られたの。持ち物とか仕草で、あの人も生理で、かなりお腹痛そうにしてたから、薬を分けたの。そしたら、どうしてこんな人の多いとこでそんな恥ずかしいことするのって、とても怒られた」
整は合点がいったのか瞬きを数回して、ほっと肩をなでおろした。
「同じ女子なのに、ヒトの、私の生理現象を否定されたの。なんで同性とも話しちゃだめなのかな……これじゃあ相談できる人いないじゃん。生理ってそんなに悪いこと? 恥ずかしい? 異常なの? 女なら、みんなあることなのに」
思い出すだけでも相当堪える。千景は深く息を吐いてテーブルに突っ伏した。
「昔から、生理は穢れたものとして遠ざけられていた」
整がひとりでに口を開くと、千景は視線だけ彼のほうに向けた。
「女性の流血が狩りのときに不運をもたらすとか。それで女性が隔離されるのが普通だった。3大宗教でも、生理の女性は穢れって文章にされてる」
「言うね」
千景は口をとがらせた。初対面の女性にこのような、ましてやあからさまな男尊女卑のうんちくを述べていたら、間違いなく今時点で激昂して席を立たれていただろう。だが、彼の言葉には何か意図があって続きがあろうことを、彼女はわかっていた。彼女は身体を起こして両腕をテーブルの上に置いた。
「でも、今の科学なら、それはまやかしだってすぐわかるはず。ハンセン病とか、昔は必ず隔離されていたものが、政府から謝罪されるほどに」
「生理はそこまでひどい迫害はないと思うけど……」
「だからこそ、誰も解明しようとしない。話題にすら上らない」
千景は自分の記憶を辿ろうと上を見上げた。
「確かに……まともに教わったの、小学校で女子がこっそり集められたときくらいだわ。しかもそのとき教えられたのは、ナプキンの使い方くらい。痛みなんて……言ってたかな」
「うん、女性でもわかってない人が多い。ならなおさら男が生理のこと分かろうとしてもうまくいかない。今は生活に支障が出るほどの痛みは、月経困難症っていう病気として、治療の対象になってるけど、それすら知らない女の人がまだ多い。月経前症候群の解明も全然進んでないのに、男の勃起障害はその5倍もの論文が出てる」
彼女が両手のひらを頬骨にもっていって肘をつく。整も鏡のようにその仕草を真似した。
「……じゃあ、私が解明するのもありかな」
「また、やりたいこと増えたね」
彼女がわくわくしたような顔で言うと、整はふふっ、と口元で微笑みながら相槌をうった。
「教師なら、働きながら大学院に通えるかもだし」
彼女は教職課程で知ったことを口にする。教師は激務でも、成長のための学習機会が保障されているから、教師が大学院でまた勉強することにも前向きである、ということを知ったのだ。
「少し散歩してくる」
彼女は晴れやかな表情で立って、緑に囲まれたエントランスへ歩き出す。整はまたふふっ、と笑い彼女が外に出るまで目で見送った。
千景は内に抱え込んでいる何かをすべて吐き出すように深いため息をついた。
図書館にしては比較的がやがやした、一階のラウンジホール。昼下がりの空きコマに課題を片付けているところであった。
「大丈夫?」
テーブルをはさんだ向かいの席で同じく課題をこなしているアフロが特徴的な青年――
「そうだ、こういうときは大丈夫? って聞いちゃダメなんだった。みんな大丈夫って答えちゃうから……どうしたの?」
「月1の貧血シーズン」
千景は目をつぶって背もたれに身体を預けた。
「痛みはそんなないんだけどね。まあ血がドロっと流れる感覚とかは嫌だけど」
いつもの彼女なら、ここまでつらい様子を表に出すことがない。整が未だ首をかしげたままでいると、彼女が続けて口を開いた。
「……学部の人に、怒られたの。持ち物とか仕草で、あの人も生理で、かなりお腹痛そうにしてたから、薬を分けたの。そしたら、どうしてこんな人の多いとこでそんな恥ずかしいことするのって、とても怒られた」
整は合点がいったのか瞬きを数回して、ほっと肩をなでおろした。
「同じ女子なのに、ヒトの、私の生理現象を否定されたの。なんで同性とも話しちゃだめなのかな……これじゃあ相談できる人いないじゃん。生理ってそんなに悪いこと? 恥ずかしい? 異常なの? 女なら、みんなあることなのに」
思い出すだけでも相当堪える。千景は深く息を吐いてテーブルに突っ伏した。
「昔から、生理は穢れたものとして遠ざけられていた」
整がひとりでに口を開くと、千景は視線だけ彼のほうに向けた。
「女性の流血が狩りのときに不運をもたらすとか。それで女性が隔離されるのが普通だった。3大宗教でも、生理の女性は穢れって文章にされてる」
「言うね」
千景は口をとがらせた。初対面の女性にこのような、ましてやあからさまな男尊女卑のうんちくを述べていたら、間違いなく今時点で激昂して席を立たれていただろう。だが、彼の言葉には何か意図があって続きがあろうことを、彼女はわかっていた。彼女は身体を起こして両腕をテーブルの上に置いた。
「でも、今の科学なら、それはまやかしだってすぐわかるはず。ハンセン病とか、昔は必ず隔離されていたものが、政府から謝罪されるほどに」
「生理はそこまでひどい迫害はないと思うけど……」
「だからこそ、誰も解明しようとしない。話題にすら上らない」
千景は自分の記憶を辿ろうと上を見上げた。
「確かに……まともに教わったの、小学校で女子がこっそり集められたときくらいだわ。しかもそのとき教えられたのは、ナプキンの使い方くらい。痛みなんて……言ってたかな」
「うん、女性でもわかってない人が多い。ならなおさら男が生理のこと分かろうとしてもうまくいかない。今は生活に支障が出るほどの痛みは、月経困難症っていう病気として、治療の対象になってるけど、それすら知らない女の人がまだ多い。月経前症候群の解明も全然進んでないのに、男の勃起障害はその5倍もの論文が出てる」
彼女が両手のひらを頬骨にもっていって肘をつく。整も鏡のようにその仕草を真似した。
「……じゃあ、私が解明するのもありかな」
「また、やりたいこと増えたね」
彼女がわくわくしたような顔で言うと、整はふふっ、と口元で微笑みながら相槌をうった。
「教師なら、働きながら大学院に通えるかもだし」
彼女は教職課程で知ったことを口にする。教師は激務でも、成長のための学習機会が保障されているから、教師が大学院でまた勉強することにも前向きである、ということを知ったのだ。
「少し散歩してくる」
彼女は晴れやかな表情で立って、緑に囲まれたエントランスへ歩き出す。整はまたふふっ、と笑い彼女が外に出るまで目で見送った。
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