エスパーと天使~小話~
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隣に立ちたい
「うえっ」
顔に何かが当たって目を開けると、見慣れた赤のソファだった。
あれ、なんでもう家にいるんだっけ。体術の集中特訓と称して、ついさっきまで坂本さんのところにいたはずだ。
「よー起きたか?」
声のした方向で、シンが救急箱を持って立っているのがちらりと見える。ちゃんと見ようとしたけど全身が動かない。バキバキ痛むのもあるのだが、何かにきつく巻かれたような。当然であった。文字通り私の身体は包帯で全身ぐるぐる巻きにされ、ミノムシ状態だった。
そうだ、私もシンも坂本さんにボコボコにされて、シンの外傷だけなんとか治したんだった。そこからは覚えてない。能力を使い果たして寝落ちたんだろう。私よりもボロボロだったシンの外傷は跡形もなく消え去っていた。
私は常人より優れているらしい視力のおかげで攻撃はそれなりにかわしたのだが、伝説の殺し屋の攻撃を躱すのは目が良いだけでは限界があった。これでもシンよりはダメージが少なかったはずなのだが、私の能力、なぜか自分の傷は治せないのだから、今度は私がシンの手当を受ける番になっていた。
シンが救急箱をテーブルの上に置き、膝をつく。シンの顔が私の顔の高さに合わさった。
「急に容赦なくなったなー坂本さん」
「容赦あったら訓練にならないでしょ」
「そりゃそうだけどよー」
私の切れた口の端に消毒液をつけながらシンは訝しげに今日のことを振り返った。戦犯の私は染みるのを我慢して大人しく治療を受ける。シンのいない隙をついて、坂本さんに「容赦なくやってくれ」とお願いしたのだ。
なんでそんなことをしたか。それは……あ、今シンがエスパーを発動させる空気になったから一旦別のことを考える。坂本さんにもらったアドバイスとか、当たり障りのないことで自分の頭をいっぱいにする。
しばらくするとシンは私の顔をじっと見つめて治療に集中していて、気づけば絆創膏もひととおり貼り終わっていた。
「ったく無理すんなよ」
「そっちこそ」
さっきまで私よりボロボロだったのはどこの誰だったか。そんな視線をシンに向けたが、今はエスパーを発動させてないだろうから無意味だ。
「メシつくってくる」
シンは救急箱を戻してから、早々にキッチンでカチャカチャと作業を始めたけど、立ち去るときにいつもの太陽の表情が一瞬悲痛で歪んでいたのを見逃さなかった。
私が殺し屋としてシンと同じ道を歩むことを、シンはどこか快く思ってない。ラボから脱走したとき、私たちはずっと一緒にいるって約束して、シンは私のことを守るって宣言していた。でもね、私、黙って守られるだけの聞き分けのいい女じゃないの。シンの知らないところでこの能力を使い回されるのはもうイヤなの。ならいっそ、自分が強くなって、シンのこと守れるようになりたいし、自分の能力は大切な人を守るためだけに使えるようになりたいの。
坂本さんのもとで強くなるの、正直血反吐吐くレベルでつらいけど、シンと一緒にラボから逃げたあのときに比べれば、こんなの痛くもかゆくもないの。大人たちの言いなりになることしかできずに能力を使って勝手に疲弊して、シンに気づかれるまで自分の疲れにさえ気づけなくて。ただシンに守られながら、ラボから逃げ出したときに感じた、あの無力感に比べれば。
さて、この状態ではできることが何もないのでしばらく暇だ。しばらく寝ることにする。眠りにつく前、ほのかにカレーの匂いがした。
「うえっ」
顔に何かが当たって目を開けると、見慣れた赤のソファだった。
あれ、なんでもう家にいるんだっけ。体術の集中特訓と称して、ついさっきまで坂本さんのところにいたはずだ。
「よー起きたか?」
声のした方向で、シンが救急箱を持って立っているのがちらりと見える。ちゃんと見ようとしたけど全身が動かない。バキバキ痛むのもあるのだが、何かにきつく巻かれたような。当然であった。文字通り私の身体は包帯で全身ぐるぐる巻きにされ、ミノムシ状態だった。
そうだ、私もシンも坂本さんにボコボコにされて、シンの外傷だけなんとか治したんだった。そこからは覚えてない。能力を使い果たして寝落ちたんだろう。私よりもボロボロだったシンの外傷は跡形もなく消え去っていた。
私は常人より優れているらしい視力のおかげで攻撃はそれなりにかわしたのだが、伝説の殺し屋の攻撃を躱すのは目が良いだけでは限界があった。これでもシンよりはダメージが少なかったはずなのだが、私の能力、なぜか自分の傷は治せないのだから、今度は私がシンの手当を受ける番になっていた。
シンが救急箱をテーブルの上に置き、膝をつく。シンの顔が私の顔の高さに合わさった。
「急に容赦なくなったなー坂本さん」
「容赦あったら訓練にならないでしょ」
「そりゃそうだけどよー」
私の切れた口の端に消毒液をつけながらシンは訝しげに今日のことを振り返った。戦犯の私は染みるのを我慢して大人しく治療を受ける。シンのいない隙をついて、坂本さんに「容赦なくやってくれ」とお願いしたのだ。
なんでそんなことをしたか。それは……あ、今シンがエスパーを発動させる空気になったから一旦別のことを考える。坂本さんにもらったアドバイスとか、当たり障りのないことで自分の頭をいっぱいにする。
しばらくするとシンは私の顔をじっと見つめて治療に集中していて、気づけば絆創膏もひととおり貼り終わっていた。
「ったく無理すんなよ」
「そっちこそ」
さっきまで私よりボロボロだったのはどこの誰だったか。そんな視線をシンに向けたが、今はエスパーを発動させてないだろうから無意味だ。
「メシつくってくる」
シンは救急箱を戻してから、早々にキッチンでカチャカチャと作業を始めたけど、立ち去るときにいつもの太陽の表情が一瞬悲痛で歪んでいたのを見逃さなかった。
私が殺し屋としてシンと同じ道を歩むことを、シンはどこか快く思ってない。ラボから脱走したとき、私たちはずっと一緒にいるって約束して、シンは私のことを守るって宣言していた。でもね、私、黙って守られるだけの聞き分けのいい女じゃないの。シンの知らないところでこの能力を使い回されるのはもうイヤなの。ならいっそ、自分が強くなって、シンのこと守れるようになりたいし、自分の能力は大切な人を守るためだけに使えるようになりたいの。
坂本さんのもとで強くなるの、正直血反吐吐くレベルでつらいけど、シンと一緒にラボから逃げたあのときに比べれば、こんなの痛くもかゆくもないの。大人たちの言いなりになることしかできずに能力を使って勝手に疲弊して、シンに気づかれるまで自分の疲れにさえ気づけなくて。ただシンに守られながら、ラボから逃げ出したときに感じた、あの無力感に比べれば。
さて、この状態ではできることが何もないのでしばらく暇だ。しばらく寝ることにする。眠りにつく前、ほのかにカレーの匂いがした。