エスパーと天使~小話~
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近くでみたいの
洗面台の鏡越しにアヤと目が合い、シンはすぐに顔をそらした。自身の目の下に切り傷があったからだ。今日、店長の坂本を狙う殺し屋と戦ったときにできた、銃弾によるかすり傷。血はすでに止まっていて、数日すれば治るほどの軽いもの。アヤに気づかれないようなるべく顔の左側を彼女のほうへ向けないように注意していたが、こうして歯磨きしているときに限って気が抜けてしまった。
「シン、こっち向いて」
アヤが鏡に映るシンに向かって声をかけた。彼は鏡の彼女から目線を外したまま「……なんだよ」と気まずそうに返事をする。彼女はくわえていた歯ブラシをテキパキと洗ってうがいしてから実物の彼のほうを向いた。シンの顔が彼女の両手に挟まれる。
「いやいいから。こんなんツバつけとけば治るだろ」
「跡残っちゃうからダメ」
「オマエの力使うまでもねえよ」
シンは彼女の治癒能力に極力頼りたくなかった。使うと体力を消費するらしく、使いすぎて倒れてしまったこともあったのだ。
「もう寝るんだから、そんなの関係ないでしょ」
「うっ……」
彼女の正論に返す言葉が見つからないシンは渋々彼女に自身の顔を突き出した。
彼女の指が、患部にそっと触れる。乾燥してカサブタと化していた部分に、だんだんと潤いが戻ってくる。
だがシンは傷のことは頭からすっかり抜け落ちていた。彼の体温は上がるばかりだ。
「……なあ、近くね?」
シンの目の前には、彼女の顔。何かの拍子に少しでも動けばキスできてしまいそうだ。いつもならこんなに近づかなくても正常に治癒能力を発揮していたはず。彼女のビー玉のように輝く瞳も、シンの鼓動を速くさせた。
「よく見ないと治りが悪くなっちゃうの」
「別にこれぐらい、治りの良さとか気にしねえわ」
「……読んでみてよ」
アヤが目をつぶって照れくさそうに言うと、シンは言われたとおり彼女の脳内に意識を集中させる。
"シンを近くで見たいんだけど、ダメなの?"
彼女の思念がはっきりと伝わってきたところでシンはため息を一つ吐き、彼女の耳元に口を寄せた。
「かわいいから直接言ってくれよ」
そう低い声を吐いてから、彼女をひょいと横抱きにした。
「ちょ、ちょっと!」
アヤが抵抗するものの、それはシンの耳をすり抜けるだけだった。
紆余曲折を経て、ついこの間晴れて恋人になった2人。愛しいと自覚した対象にあのようなことを言われたら、シンは耐えられるはずがなかった。
「もう寝るからいいって言ったのオマエだろ? それに明日休みじゃん」
「明日開店と同時にあの人気カフェに入るんじゃなかったの!?」
「そんなんいつでも行けるって」
シンが屈託のない笑顔を向けると、彼女は頬を染めて口を尖らせた。彼女が大人しくなったのを確認して彼は寝室へ直行し、そのままぱたりとドアを閉めた。
洗面台の鏡越しにアヤと目が合い、シンはすぐに顔をそらした。自身の目の下に切り傷があったからだ。今日、店長の坂本を狙う殺し屋と戦ったときにできた、銃弾によるかすり傷。血はすでに止まっていて、数日すれば治るほどの軽いもの。アヤに気づかれないようなるべく顔の左側を彼女のほうへ向けないように注意していたが、こうして歯磨きしているときに限って気が抜けてしまった。
「シン、こっち向いて」
アヤが鏡に映るシンに向かって声をかけた。彼は鏡の彼女から目線を外したまま「……なんだよ」と気まずそうに返事をする。彼女はくわえていた歯ブラシをテキパキと洗ってうがいしてから実物の彼のほうを向いた。シンの顔が彼女の両手に挟まれる。
「いやいいから。こんなんツバつけとけば治るだろ」
「跡残っちゃうからダメ」
「オマエの力使うまでもねえよ」
シンは彼女の治癒能力に極力頼りたくなかった。使うと体力を消費するらしく、使いすぎて倒れてしまったこともあったのだ。
「もう寝るんだから、そんなの関係ないでしょ」
「うっ……」
彼女の正論に返す言葉が見つからないシンは渋々彼女に自身の顔を突き出した。
彼女の指が、患部にそっと触れる。乾燥してカサブタと化していた部分に、だんだんと潤いが戻ってくる。
だがシンは傷のことは頭からすっかり抜け落ちていた。彼の体温は上がるばかりだ。
「……なあ、近くね?」
シンの目の前には、彼女の顔。何かの拍子に少しでも動けばキスできてしまいそうだ。いつもならこんなに近づかなくても正常に治癒能力を発揮していたはず。彼女のビー玉のように輝く瞳も、シンの鼓動を速くさせた。
「よく見ないと治りが悪くなっちゃうの」
「別にこれぐらい、治りの良さとか気にしねえわ」
「……読んでみてよ」
アヤが目をつぶって照れくさそうに言うと、シンは言われたとおり彼女の脳内に意識を集中させる。
"シンを近くで見たいんだけど、ダメなの?"
彼女の思念がはっきりと伝わってきたところでシンはため息を一つ吐き、彼女の耳元に口を寄せた。
「かわいいから直接言ってくれよ」
そう低い声を吐いてから、彼女をひょいと横抱きにした。
「ちょ、ちょっと!」
アヤが抵抗するものの、それはシンの耳をすり抜けるだけだった。
紆余曲折を経て、ついこの間晴れて恋人になった2人。愛しいと自覚した対象にあのようなことを言われたら、シンは耐えられるはずがなかった。
「もう寝るからいいって言ったのオマエだろ? それに明日休みじゃん」
「明日開店と同時にあの人気カフェに入るんじゃなかったの!?」
「そんなんいつでも行けるって」
シンが屈託のない笑顔を向けると、彼女は頬を染めて口を尖らせた。彼女が大人しくなったのを確認して彼は寝室へ直行し、そのままぱたりとドアを閉めた。
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