エスパーと天使
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シンと幼なじみの話
「お前、いつになったら告るんだ」
想像で俺の首を折っておいて何言ってるんだこの人は。見舞いの品であるフルーツの盛り合わせをなんとか渡したところで、坂本さんの口から脈絡もない質問。普段無口で俺の頭に思考を垂れ流すのがデフォなのに、今回はなぜか自らの口で喋っていた。
「告るって」
「いつまでアヤを待たせるんだ」
「っ……」
眠っていたアヤの姿が、頭をよぎる。スラーが解き放った死刑囚の一人と俺らは戦ったわけだが、俺のせいで、アヤは限界まで戦ってしまった。疲れ切ったアヤは深い眠りにおちて、俺は一日宮バァの鍼治療の餌食になった傍ら、アヤは全然目を覚ます気配がなかった。そこからさらに情報を掴んでさつれんの関東支部に乗り込んで、深手を追った坂本さんは数日入院して……数日の間にいろんなことがあったのに、アヤとの時間は止まったままだった。なんやかんやアヤは昨日目覚めたけど、一生起きなかったらどうしようって、本当に気が気ではなかったのだ。
俺は、アヤが一番嫌っている力を、使わせてしまった。二人でラボを抜けだしたときに、極力使わせないようにと誓ったのに。アヤがそれを使わなくても生きていけるように、俺が強くなるって。
「俺には、そんなことする資格は」
「守るものがあるから、強くなる」
「坂本さん、何言って……」
守るもの。今までだって、アヤをずっと守ってきたつもりだ。いまさら好意を伝えたところで。この先共にしている寝床が気まずい空気で充満するわけにもいかない。
そもそも、アヤの心の声は読めない。ちょうど殺しの世界に足を踏み入れた頃だっただろうか。アヤの思考はめっきり聞こえなくなってしまった。いや、仕事のときにアヤが動きの指示をして連携をとることはあったが、それ以外のときは常に敵を殺すか殺さないか、それしか頭になかった。アイツがどう思っているかわからない以上、今の関係を崩してしまったら。エスパーを使わずに、アヤの気持ちを探るのも、怖い。
「言葉にするのとしないのとじゃ、全然違う」
「!」
商店に来て最初の頃に、坂本さんが葵さんとの出会いを回想していたのを思い出す。結果として、坂本さんはもう人を殺さないって葵さんに誓って、引退、結婚と踏み出したわけだが。
「シン」
坂本さんの手が、俺の右肩にのる。
「お前も、守る覚悟を決めろ」
愛する人のために伝説の殺し屋から引退した人間の言葉は、ひどく重かった。
***
おきたくない。目をあけたくない。
「お前の能力があれば、殺し屋界の縮図が大きく変わるんだよ。とっとと働け」
ラボのおじさんの薬をうっかり間違って飲んじゃって、シンはエスパーのちからが、わたしは治癒のちからがついた。そしたらわたしは、どこか知らないところに連れてかれて。はじめはうれしかった。毎日ケガしたひとが運ばれてきて、そのひとたちを治すたびに、ありがとうって頭をなでられた。天使って呼んでくれるひともいた。
でも、それは最初だけ。みんな、ケガを治してもよろこんでくれなくなった。
わたしがいるかぎり、みんながどんどんひどい扱いをされるんだ。みんなの命が、わたしのせいで軽くなるんだ。わたしが治すのをいやがったら、ケガしたひとが目の前で、包丁で切りつけられた。
今日もこの部屋をでたら、しんだ顔をしたひとたちがたくさん運ばれてくるだけなんだ。わたしはただ、みんなのわらってる顔がみたかっただけなのに。わたしのこと天使っていってくれた人は最近、死の天使っていうようになった。
わたしにそんな放置する勇気はないから、いやいや治すしかなかった。
いっそ、このまま起きることなく、突然心臓が止まってくれたらどれだけ楽だろうか。死んだほうがいいのかも。
へやのものを探してみる。何かとがったものとか、するどいものがあれば。ホコリをかぶったたなをのぞくと、シャーペンがあった。首を刺せば、死ねるかな。ペンを握って、先っぽを首に向けるけど、いざ自分でやるのは、やっぱりこわい。
そのまま固まってたら、足音がコツ、コツと聞こえてきた。今日は来るの早いなあ。もう今、やってしまおうか。
ゆっくりと、ペンを上に高く伸ばす。すると外の足音が速くなった。それにあわせて、ペンを振り下ろす。職員に手を止められる前に、死――
「バカ!!」
勢いよくドアが開く音とともに、勢いよく手首を叩かれ、シャーペンが床にポトリと堕ちる。だがその声はいつものこわい男の人のものではなくて。その小さな手は、とてもあったかかった。
「……シン?」
いつぶりに見たんだろう。外の光も通らない空間でどれくらい経ったかなんてわからなくなっていた。いや、ほとんど変わってないけど、顔つきはこころなしか大人っぽくなっていた。
シンは入るやいなやわたしの手首を掴む。握っていたペンが手からこぼれ落ちた。
「逃げんぞ」
「ダメ、殺されちゃう」
「そう簡単に捕まると思うか?」
シンは人差し指で自身の頭をつつく。そうだ、シン、エスパーだった。
失敗したら確実に殺される。でも、久しぶりに感じたシンのぬくもりを離したくなくて、わたしはシンに引っ張られるがままに走った。人のいないルートを巧みに選択して、進んでいく。
「はあっ、はあ、シンっ……」
だが、広さもよくわからない敷地を走るだけの体力は残っていなかった。日々ちからを使いまくったわたしの身体は、とうに限界を迎えていた。
***
「っし、もう人は来ねえな」
おとなたちに見つかることなく逃げ出せた。つかれきったわたしたちは、どこかもわからない草むらに寝転んだ。
「シン……もういいよ」
「わたしがいたら迷惑になっちゃう……」
「どうして死なせてくれなかったの」
逃げたところで、行くあてもわからない。どうやって生きていけばいいのかもわからない。
「お前の能力が嫌いなら、もう使わせねーから。お前がその力を使わなくてもいいように、俺が強くなってみせるから」
私の肩をつかむシンの腕が、私の脳に響くシンの声が、喜びも悲しみも痛みも何か忘れた心を溶かす。耐えきれなくなったわたしは、ひとしきり涙を滝のように流した。
二カッと笑ったその顔は太陽のようで。絶望しきっていたわたしのこころをまぶしく照らした。
向こう見ずで、バカ、アホ。でも、この瞬間から私は、とっくに、シンのことが好きになってたのかもしれない。
***
「――っていうのがあってね。あんま使いたくなかったの」
「いやちょっと待つのヨ。なんでそんだけ長く一緒にいてシンは気づかないネ!?」
「何が?」
「恋よ!」
シャオタンは驚いた形相で私の両肩を掴み、店中に響き渡る声で私に詰め寄った。病み上がりの体なのでもっといたわってほしい。
数日間ずっと寝ていたらしい私は昨日目を覚まして、今日退院した。商店に帰って早々、シャオタンが私の治癒能力について聞いてきたからこうして話していたはずだが。なんか別のところをツッこまれた。
「……だって、それどころじゃなかったし。恋なんて知ったの、最近だし」
それでも、痛いところを突かれた私は向き合わざるをえなかった。自覚してしまったから。殺し屋から足を洗って、商店であったかい日常に溶け込んでいたら、すっかり自分の気持ちが大きくなってしまった。死刑囚と戦っているときに、シンに死んでほしくない、もっと一緒にいたいって思ってしまったから。ついこの間までいつ死んでもおかしくない世界にいたはずなのに。過去の自分が見たら、「単純すぎでしょ」ってあざ笑っていそうだ。そんなこと考えているヒマなんてなかったし、危ない世界では弱さになっていただろうから。
疑わしいとでもいいたげな目でシャオタンはこちらを見つめる。しょうがないじゃないか。10年以上ずっと一緒にいる男にいまさら思いを伝えたところで、変な空気になるのは目にみえてる。
「ただいまー」
ドアの開く音とともに、シンの声がした。坂本さんのお見舞いから帰ってきたらしい。
「わっ!?」
おかえり。そう言う前に私は体勢を崩される。シャオタンがいきなり私の胸ぐらを掴んでいて、もう片方の手で口元を隠すように顔を覆っていた。
「!?」
「なっ……!?」
私が目を見開いたのと、シンの息をのむ声がしたのは同時だった。シンは自動ドアの境目のとこで呆然とこちらを見つめている。
「お前ら、き、きす……いつの間に、そういう関係に」
「なんでそうなるネ! 足りない頭でちゃんとアヤの心読みなさいヨ」
「でも、読んだところで……っ!?」
どうしようどうしようなんてことしてくれたのシャオタンなんでシンにごかいを植え付けようとするの!? べつにキスしてないのに! ただちょっと顔近づいただけなのに!
って何考えてるんだ私は。もっと別のこと考えなきゃ、じゃないと、シンに読まれ――
「うわっ!?」
荒ぶった心を落ち着かせようと胸を押さえていたら、シンが私の手首を掴む。そのまま奥へ連れてかれた。シャオタンのほうを一瞥すれば、彼女は仕事をやり遂げたかのような笑顔を向けていた。
***
「ちょっと、シン!」
シンはアヤを引っ張ってズカズカと2階に上がる。二人は自室になだれ込み、シンが入ると同時に勢いよくドアが閉まった。
「アヤ、さっきの、本当なのか?」
「な、なんの話!?」
「好きだ」
「っ!?」
シンはアヤを壁際に追い込む。今まで聞いたこともなくらいに優しく低い声でアヤに打ち明けた。アヤは必死に目をそらそうとするが、シンの両手がそれをゆるさなかった。鼻先がふれるかふれないかくらいの距離で、アヤはなすすべもなく真剣な三白眼に射抜かれ、固まることしかできなかった。
ずっと想っていた幼馴染から、熱烈な告白。都合の良い夢なんじゃないか。この邪な感情を認めるのが、怖い。弱くなってしまいそうで、怖い。
「オマエ、散々坂本さん見てきただろ? 守るもんがあるほうが強くなれんだよ」
シンはアヤの不安を払拭するように、そっと手を握る。
「俺の、恋人になってくれるか?」
シンの言葉を皮切りに、アヤのビー玉のような翠眼が揺れる。
「私、だってっ、シンを、守るんだから」
一滴、また一滴と雫を垂らしながら、シンに対抗するように手を強く握り返す。身長差のないふたつの影が、重なった。
「お前、いつになったら告るんだ」
想像で俺の首を折っておいて何言ってるんだこの人は。見舞いの品であるフルーツの盛り合わせをなんとか渡したところで、坂本さんの口から脈絡もない質問。普段無口で俺の頭に思考を垂れ流すのがデフォなのに、今回はなぜか自らの口で喋っていた。
「告るって」
「いつまでアヤを待たせるんだ」
「っ……」
眠っていたアヤの姿が、頭をよぎる。スラーが解き放った死刑囚の一人と俺らは戦ったわけだが、俺のせいで、アヤは限界まで戦ってしまった。疲れ切ったアヤは深い眠りにおちて、俺は一日宮バァの鍼治療の餌食になった傍ら、アヤは全然目を覚ます気配がなかった。そこからさらに情報を掴んでさつれんの関東支部に乗り込んで、深手を追った坂本さんは数日入院して……数日の間にいろんなことがあったのに、アヤとの時間は止まったままだった。なんやかんやアヤは昨日目覚めたけど、一生起きなかったらどうしようって、本当に気が気ではなかったのだ。
俺は、アヤが一番嫌っている力を、使わせてしまった。二人でラボを抜けだしたときに、極力使わせないようにと誓ったのに。アヤがそれを使わなくても生きていけるように、俺が強くなるって。
「俺には、そんなことする資格は」
「守るものがあるから、強くなる」
「坂本さん、何言って……」
守るもの。今までだって、アヤをずっと守ってきたつもりだ。いまさら好意を伝えたところで。この先共にしている寝床が気まずい空気で充満するわけにもいかない。
そもそも、アヤの心の声は読めない。ちょうど殺しの世界に足を踏み入れた頃だっただろうか。アヤの思考はめっきり聞こえなくなってしまった。いや、仕事のときにアヤが動きの指示をして連携をとることはあったが、それ以外のときは常に敵を殺すか殺さないか、それしか頭になかった。アイツがどう思っているかわからない以上、今の関係を崩してしまったら。エスパーを使わずに、アヤの気持ちを探るのも、怖い。
「言葉にするのとしないのとじゃ、全然違う」
「!」
商店に来て最初の頃に、坂本さんが葵さんとの出会いを回想していたのを思い出す。結果として、坂本さんはもう人を殺さないって葵さんに誓って、引退、結婚と踏み出したわけだが。
「シン」
坂本さんの手が、俺の右肩にのる。
「お前も、守る覚悟を決めろ」
愛する人のために伝説の殺し屋から引退した人間の言葉は、ひどく重かった。
***
おきたくない。目をあけたくない。
「お前の能力があれば、殺し屋界の縮図が大きく変わるんだよ。とっとと働け」
ラボのおじさんの薬をうっかり間違って飲んじゃって、シンはエスパーのちからが、わたしは治癒のちからがついた。そしたらわたしは、どこか知らないところに連れてかれて。はじめはうれしかった。毎日ケガしたひとが運ばれてきて、そのひとたちを治すたびに、ありがとうって頭をなでられた。天使って呼んでくれるひともいた。
でも、それは最初だけ。みんな、ケガを治してもよろこんでくれなくなった。
わたしがいるかぎり、みんながどんどんひどい扱いをされるんだ。みんなの命が、わたしのせいで軽くなるんだ。わたしが治すのをいやがったら、ケガしたひとが目の前で、包丁で切りつけられた。
今日もこの部屋をでたら、しんだ顔をしたひとたちがたくさん運ばれてくるだけなんだ。わたしはただ、みんなのわらってる顔がみたかっただけなのに。わたしのこと天使っていってくれた人は最近、死の天使っていうようになった。
わたしにそんな放置する勇気はないから、いやいや治すしかなかった。
いっそ、このまま起きることなく、突然心臓が止まってくれたらどれだけ楽だろうか。死んだほうがいいのかも。
へやのものを探してみる。何かとがったものとか、するどいものがあれば。ホコリをかぶったたなをのぞくと、シャーペンがあった。首を刺せば、死ねるかな。ペンを握って、先っぽを首に向けるけど、いざ自分でやるのは、やっぱりこわい。
そのまま固まってたら、足音がコツ、コツと聞こえてきた。今日は来るの早いなあ。もう今、やってしまおうか。
ゆっくりと、ペンを上に高く伸ばす。すると外の足音が速くなった。それにあわせて、ペンを振り下ろす。職員に手を止められる前に、死――
「バカ!!」
勢いよくドアが開く音とともに、勢いよく手首を叩かれ、シャーペンが床にポトリと堕ちる。だがその声はいつものこわい男の人のものではなくて。その小さな手は、とてもあったかかった。
「……シン?」
いつぶりに見たんだろう。外の光も通らない空間でどれくらい経ったかなんてわからなくなっていた。いや、ほとんど変わってないけど、顔つきはこころなしか大人っぽくなっていた。
シンは入るやいなやわたしの手首を掴む。握っていたペンが手からこぼれ落ちた。
「逃げんぞ」
「ダメ、殺されちゃう」
「そう簡単に捕まると思うか?」
シンは人差し指で自身の頭をつつく。そうだ、シン、エスパーだった。
失敗したら確実に殺される。でも、久しぶりに感じたシンのぬくもりを離したくなくて、わたしはシンに引っ張られるがままに走った。人のいないルートを巧みに選択して、進んでいく。
「はあっ、はあ、シンっ……」
だが、広さもよくわからない敷地を走るだけの体力は残っていなかった。日々ちからを使いまくったわたしの身体は、とうに限界を迎えていた。
***
「っし、もう人は来ねえな」
おとなたちに見つかることなく逃げ出せた。つかれきったわたしたちは、どこかもわからない草むらに寝転んだ。
「シン……もういいよ」
「わたしがいたら迷惑になっちゃう……」
「どうして死なせてくれなかったの」
逃げたところで、行くあてもわからない。どうやって生きていけばいいのかもわからない。
「お前の能力が嫌いなら、もう使わせねーから。お前がその力を使わなくてもいいように、俺が強くなってみせるから」
私の肩をつかむシンの腕が、私の脳に響くシンの声が、喜びも悲しみも痛みも何か忘れた心を溶かす。耐えきれなくなったわたしは、ひとしきり涙を滝のように流した。
二カッと笑ったその顔は太陽のようで。絶望しきっていたわたしのこころをまぶしく照らした。
向こう見ずで、バカ、アホ。でも、この瞬間から私は、とっくに、シンのことが好きになってたのかもしれない。
***
「――っていうのがあってね。あんま使いたくなかったの」
「いやちょっと待つのヨ。なんでそんだけ長く一緒にいてシンは気づかないネ!?」
「何が?」
「恋よ!」
シャオタンは驚いた形相で私の両肩を掴み、店中に響き渡る声で私に詰め寄った。病み上がりの体なのでもっといたわってほしい。
数日間ずっと寝ていたらしい私は昨日目を覚まして、今日退院した。商店に帰って早々、シャオタンが私の治癒能力について聞いてきたからこうして話していたはずだが。なんか別のところをツッこまれた。
「……だって、それどころじゃなかったし。恋なんて知ったの、最近だし」
それでも、痛いところを突かれた私は向き合わざるをえなかった。自覚してしまったから。殺し屋から足を洗って、商店であったかい日常に溶け込んでいたら、すっかり自分の気持ちが大きくなってしまった。死刑囚と戦っているときに、シンに死んでほしくない、もっと一緒にいたいって思ってしまったから。ついこの間までいつ死んでもおかしくない世界にいたはずなのに。過去の自分が見たら、「単純すぎでしょ」ってあざ笑っていそうだ。そんなこと考えているヒマなんてなかったし、危ない世界では弱さになっていただろうから。
疑わしいとでもいいたげな目でシャオタンはこちらを見つめる。しょうがないじゃないか。10年以上ずっと一緒にいる男にいまさら思いを伝えたところで、変な空気になるのは目にみえてる。
「ただいまー」
ドアの開く音とともに、シンの声がした。坂本さんのお見舞いから帰ってきたらしい。
「わっ!?」
おかえり。そう言う前に私は体勢を崩される。シャオタンがいきなり私の胸ぐらを掴んでいて、もう片方の手で口元を隠すように顔を覆っていた。
「!?」
「なっ……!?」
私が目を見開いたのと、シンの息をのむ声がしたのは同時だった。シンは自動ドアの境目のとこで呆然とこちらを見つめている。
「お前ら、き、きす……いつの間に、そういう関係に」
「なんでそうなるネ! 足りない頭でちゃんとアヤの心読みなさいヨ」
「でも、読んだところで……っ!?」
どうしようどうしようなんてことしてくれたのシャオタンなんでシンにごかいを植え付けようとするの!? べつにキスしてないのに! ただちょっと顔近づいただけなのに!
って何考えてるんだ私は。もっと別のこと考えなきゃ、じゃないと、シンに読まれ――
「うわっ!?」
荒ぶった心を落ち着かせようと胸を押さえていたら、シンが私の手首を掴む。そのまま奥へ連れてかれた。シャオタンのほうを一瞥すれば、彼女は仕事をやり遂げたかのような笑顔を向けていた。
***
「ちょっと、シン!」
シンはアヤを引っ張ってズカズカと2階に上がる。二人は自室になだれ込み、シンが入ると同時に勢いよくドアが閉まった。
「アヤ、さっきの、本当なのか?」
「な、なんの話!?」
「好きだ」
「っ!?」
シンはアヤを壁際に追い込む。今まで聞いたこともなくらいに優しく低い声でアヤに打ち明けた。アヤは必死に目をそらそうとするが、シンの両手がそれをゆるさなかった。鼻先がふれるかふれないかくらいの距離で、アヤはなすすべもなく真剣な三白眼に射抜かれ、固まることしかできなかった。
ずっと想っていた幼馴染から、熱烈な告白。都合の良い夢なんじゃないか。この邪な感情を認めるのが、怖い。弱くなってしまいそうで、怖い。
「オマエ、散々坂本さん見てきただろ? 守るもんがあるほうが強くなれんだよ」
シンはアヤの不安を払拭するように、そっと手を握る。
「俺の、恋人になってくれるか?」
シンの言葉を皮切りに、アヤのビー玉のような翠眼が揺れる。
「私、だってっ、シンを、守るんだから」
一滴、また一滴と雫を垂らしながら、シンに対抗するように手を強く握り返す。身長差のないふたつの影が、重なった。
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