家でゆっくりも悪くない
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30分くらい経っただろうか。部屋の扉が開いた。ワカが缶と袋を手に戻ってきたのだ。私は例の白豹ぬいを膝に漫画を読んでいた手を止める。
「オマエってクリーム派だよな」
袋の中身はたい焼きだった。私の好みも把握したうえで購入していた。
「ああ……ありがとう」
私はありがたく手にとった。ワカも同じ形のたい焼きを食べる。そっちの中身はあんこらしい。
「ワカは……どうしてそんなに気遣いが上手いんだ?」
元不良とは思えない対応をするワカに、私は直球で聞いてみた。聞かずにはいられなかった。
「おふくろに言われた」
「いいお母さんだな」
「最初はしつけえなって思ったんだけどさ……オマエと出会ってから真面目に聞くようになった」
一連のワカの行為が自分に向けられていたという事実が嬉しくて、私は照れがバレないよう思わず目をそらす。
ふと、以前の出来事を思い出した。直近の休日に佐野家に行った際、体育祭の忙しさから私はかなりイライラしていたらしい。それを感じた真一郎が、「なんだ生理かあ?」とデリカシーなく返してきたのでアイツの股間をぐりぐり踏みつけ、「この重い痛みが1週間続き、トイレに行く度に血を見る羽目になり、何をするにも無気力になる地獄が分かるか? だからモテないんだよ真一郎」とまくし立てた。さらに万次郎も呼んで2人セットで色々叩き込んだ。
え? 小2の万次郎には早いって? 女の子を守ろうと思ういいきっかけになるだろ?
あのときは私だったからまだよかった。少なくとも、将来エマが同じ言動を被ることはないだろう。まあしばらく2人はエマに過保護になったようで、「2人が優しくなって逆になんか気持ち悪い!」とエマが私に言ってきたが。
ワカの右手が私の背中の下のほうに置かれる。
「腹、痛くねえか?」
「痛みはそんなに。ちょっと重いけどな」
たい焼きを1つ食べただけなのに、眠気に襲われる。生理現象に抗えず、私は無意識に隣に座っている若狭の肩に頭を預けた。ワカは黙って頭を撫でたり、腰とか背中とか、下腹部をさする。眠気はさらに加速し、ワカに体を預けたまま、私のまぶたは自然と下りた。
***
どれくらい寝ていただろうか。起きたらお昼をまわっていた。
全快になった訳ではない。貧血だからな。薬を飲んだからといってすぐにケロッとするわけがなかった。赤血球が体内で作られるのを待つしかない。だがお腹は心なしか軽くなった気がする。
隣に温かい気配。ワカも規則正しい寝息を立てている。
女顔負けの綺麗な顔立ち。左耳でいつも揺れる赤の三連ピアス。白く染められたふわふわの髪。初対面のときなんて、しばらく経たないと思い出せないほどにスルーしていたのに。今ではコイツを構成するもの全てが、私の視線を掴んで離さない。
左手でワカの前髪を掻き分け、額にキスを1つ落とした。
こんな状態の私にずっと付き添ってくれたんだ。ささやかなお礼も兼ねて、昼食を作ろう。ワカを起こさないよう、足音を立てずに部屋を出て、そっとドアを閉めた。
冷蔵庫の中を見渡す。オムライスなら……ギリ成立しそうだな。若干具が足りないが。代わりになりそうな食材は一応ある。それでいこう。
2人分のオムライスが完成し、あとは上にケチャップをかけるだけだ。ケチャップのボトルに手をかける。すると、背後から何かに包まれる。
「……気分は?」
「少しだけマシになった」
「起こしてくれればオレが作ったのに」
「全く動かないのも体に悪いからな。それに、私だってワカに何かしたかったんだ」
後ろから人が近づいてきてもたいてい気づくのに、なぜかワカにだけは気づくことができない。私の中で未だにわからない謎の1つだ。そのせいで毎度バックハグを許すかたちになる。
ちょっとこっち向け、とワカに言われて私は振り返る。
柔らかい唇の感触を額に感じた。
ワカはいたずらが成功したとでもいうような悪い顔を浮かべてから、テーブルのほうへ体を向けて歩いていった。
ここで私は違和感をもった。今、私の前髪は額を覆い隠している。それをわざわざ掬い上げて、ワカは私の額にキスしたのだ。ちょうどさっき私がこっそりしたように。
……いや確かに目は閉じてたし、終始気持ち良さそうな息を規則正しくしていたんだ。あれで起きてたとかはない……はず。
ワカが寝る演技をしていたのかどうかという論争を心の中で繰り広げながら、容器を持ってケチャップをかける。ああ、あらぬ方向にかかって不格好なオムライスになってしまった。しょうがない、これは自分のにしよう。
「いつになったらあの余裕な面を崩せるんだ……」
月のものなんてそっちのけで、気分はワカに振り回されるばかりだ。
今度は集中して綺麗にかかった。ケチャップを冷蔵庫にしまい、皿を2つ、ワカの座ってるテーブルに置く。
家でゆっくりするのも悪くないな、と思った。
「オマエってクリーム派だよな」
袋の中身はたい焼きだった。私の好みも把握したうえで購入していた。
「ああ……ありがとう」
私はありがたく手にとった。ワカも同じ形のたい焼きを食べる。そっちの中身はあんこらしい。
「ワカは……どうしてそんなに気遣いが上手いんだ?」
元不良とは思えない対応をするワカに、私は直球で聞いてみた。聞かずにはいられなかった。
「おふくろに言われた」
「いいお母さんだな」
「最初はしつけえなって思ったんだけどさ……オマエと出会ってから真面目に聞くようになった」
一連のワカの行為が自分に向けられていたという事実が嬉しくて、私は照れがバレないよう思わず目をそらす。
ふと、以前の出来事を思い出した。直近の休日に佐野家に行った際、体育祭の忙しさから私はかなりイライラしていたらしい。それを感じた真一郎が、「なんだ生理かあ?」とデリカシーなく返してきたのでアイツの股間をぐりぐり踏みつけ、「この重い痛みが1週間続き、トイレに行く度に血を見る羽目になり、何をするにも無気力になる地獄が分かるか? だからモテないんだよ真一郎」とまくし立てた。さらに万次郎も呼んで2人セットで色々叩き込んだ。
え? 小2の万次郎には早いって? 女の子を守ろうと思ういいきっかけになるだろ?
あのときは私だったからまだよかった。少なくとも、将来エマが同じ言動を被ることはないだろう。まあしばらく2人はエマに過保護になったようで、「2人が優しくなって逆になんか気持ち悪い!」とエマが私に言ってきたが。
ワカの右手が私の背中の下のほうに置かれる。
「腹、痛くねえか?」
「痛みはそんなに。ちょっと重いけどな」
たい焼きを1つ食べただけなのに、眠気に襲われる。生理現象に抗えず、私は無意識に隣に座っている若狭の肩に頭を預けた。ワカは黙って頭を撫でたり、腰とか背中とか、下腹部をさする。眠気はさらに加速し、ワカに体を預けたまま、私のまぶたは自然と下りた。
***
どれくらい寝ていただろうか。起きたらお昼をまわっていた。
全快になった訳ではない。貧血だからな。薬を飲んだからといってすぐにケロッとするわけがなかった。赤血球が体内で作られるのを待つしかない。だがお腹は心なしか軽くなった気がする。
隣に温かい気配。ワカも規則正しい寝息を立てている。
女顔負けの綺麗な顔立ち。左耳でいつも揺れる赤の三連ピアス。白く染められたふわふわの髪。初対面のときなんて、しばらく経たないと思い出せないほどにスルーしていたのに。今ではコイツを構成するもの全てが、私の視線を掴んで離さない。
左手でワカの前髪を掻き分け、額にキスを1つ落とした。
こんな状態の私にずっと付き添ってくれたんだ。ささやかなお礼も兼ねて、昼食を作ろう。ワカを起こさないよう、足音を立てずに部屋を出て、そっとドアを閉めた。
冷蔵庫の中を見渡す。オムライスなら……ギリ成立しそうだな。若干具が足りないが。代わりになりそうな食材は一応ある。それでいこう。
2人分のオムライスが完成し、あとは上にケチャップをかけるだけだ。ケチャップのボトルに手をかける。すると、背後から何かに包まれる。
「……気分は?」
「少しだけマシになった」
「起こしてくれればオレが作ったのに」
「全く動かないのも体に悪いからな。それに、私だってワカに何かしたかったんだ」
後ろから人が近づいてきてもたいてい気づくのに、なぜかワカにだけは気づくことができない。私の中で未だにわからない謎の1つだ。そのせいで毎度バックハグを許すかたちになる。
ちょっとこっち向け、とワカに言われて私は振り返る。
柔らかい唇の感触を額に感じた。
ワカはいたずらが成功したとでもいうような悪い顔を浮かべてから、テーブルのほうへ体を向けて歩いていった。
ここで私は違和感をもった。今、私の前髪は額を覆い隠している。それをわざわざ掬い上げて、ワカは私の額にキスしたのだ。ちょうどさっき私がこっそりしたように。
……いや確かに目は閉じてたし、終始気持ち良さそうな息を規則正しくしていたんだ。あれで起きてたとかはない……はず。
ワカが寝る演技をしていたのかどうかという論争を心の中で繰り広げながら、容器を持ってケチャップをかける。ああ、あらぬ方向にかかって不格好なオムライスになってしまった。しょうがない、これは自分のにしよう。
「いつになったらあの余裕な面を崩せるんだ……」
月のものなんてそっちのけで、気分はワカに振り回されるばかりだ。
今度は集中して綺麗にかかった。ケチャップを冷蔵庫にしまい、皿を2つ、ワカの座ってるテーブルに置く。
家でゆっくりするのも悪くないな、と思った。