家でゆっくりも悪くない
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とある休日。
朝起きて鏡を見た静紀の目の下には、クマが薄く出ていた。親友の巴から最近教わったメイクを駆使して、いつもの肌色になるよう隠す。香水もきつくならない程度につけている。
朝食や諸々の支度を終えた静紀は家の玄関に腰掛け、若狭を待つ。
「周期ピッタリなのはいいんだが……」
彼女は月に1度起こる女子特有のものをめんどくさいとでも言いたげに、ため息をついた。
今日は1ヶ月ぶりに若狭とデート。彼女の中に休むという選択肢はなかった。ついこの間の体育祭で振り付けのリーダーに任命された静紀は、下校時間ギリギリまで下級生に教え、休日は振り付け内容を考えるというのを繰り返す日々をおくり、若狭とゆっくり過ごす時間など到底なかった。この忙しい期間の後半に差し掛かった頃、若狭からデートのメールを受け取った静紀は、彼が送ったと同時に返信。今日という今日への楽しみを糧に張り切って活動した。
玄関の扉が開く。男子高校生らしく、ラフな服を着た若狭がいた。
久しぶりに、制服以外の出で立ちの若狭を見た静紀。先ほどのため息をついた顔とは打って変わって、口角が上がり、目尻が下がる。憂鬱な気分は消えたのか、静紀はスッと素早く立ち上がる。しかし、彼女はすぐにふらついて若狭のほうに倒れた。
「っと……シズ?」
若狭は彼女への衝撃をやわらげるようにして、後ろに一歩引いて抱える。
静紀の顔は今、若狭の胸に埋められていて分かりにくいが、一部見える目は今にも閉じそうになっていた。
彼女は一言謝って、構わず家を出ようとする。だがそれはかなわなかった。
「うわっ!」
「病人を連れ回す趣味はねえ」
静紀は若狭に腕を引かれ、あっという間に横抱きにされる。
「貧血だろ?」
「……ちょっと休めば大丈夫だ」
「オマエ、元がすげえ健康だから調子悪いの丸わかりなんだよ」
静紀の顔色は一見いつも通りだ。
しかし、彼女の表情筋から仕草まで日頃細かく見る若狭には、具合の悪い姿を隠すことはできなかった。静紀はバツの悪そうな顔をする。
「買い物はいつでも行けるって。今日は家でゆっくりな?」
若狭は彼女に自室の場所を尋ねる。静紀が答えると、若狭は階段に向かって歩き出した。階段の横幅がせまかったので、彼は横抱きを解いて静紀を背負う。
「……自分で歩ける」
「大人しく甘やかされてろ」
静紀は黙って若狭の首に回した手の力を少し強くした。
彼は2階の部屋のベッドまで彼女を運び、ちょっと待ってろと一声かけてから、少し早足で1階に降りていった。しばらくして、若狭は箱とコップ一杯の水を持って、静紀の部屋に戻ってきた。
「それは……なぜ分かった」
「そういや師範がしまってたの見たことあったなあって思って」
彼が持ってきたのは、家に常備されてる薬箱。静紀は師範にその在り処を教えられていたが、滅多に体調不良にならない彼女にとっては居場所さえ忘れかけていたものだ。
風邪薬から睡眠薬まで、ひと通りの薬がそこには揃っていた。若狭は静紀の隣に座り、その種類の豊富さに目を見張る。薬箱の中を探ると、貧血用の薬があった。彼女は今日みたいに明確な症状が出たことがなかったため、使う予定がなかったはずの薬まであることに目を見開く。
「まさか使うことになるとはな」
「逆に今までどうしてたんだ?」
「ここまでひどくなることはなかったから、特に何もしてなかった」
高校に入ってから重くなったな、と言って静紀は薬を飲む。
「オレちょっと菓子買ってくるけど、オマエは欲しいのあるか?」
若狭はさりげなく静紀の欲しいものを尋ねる。
「じゃあ……ココアで。あったか〜いのほうな」
「りょーかい」
静紀は通り道にある自販機のココアをリクエストした。若狭はすぐ戻ってくると言って部屋を飛び出していった。
「普段菓子なんて食べないくせに……」
部屋の扉がしまると、ボソッと呟いた静紀は満更でもない顔をする。どちらかというと辛い物を好む若狭が、適当に菓子とか言っていたのを反芻する。彼は静紀に気を遣っているのを悟られたくないようだった。
静紀は若狭の絶妙な気遣いにかなわないと思いながら、枕元のぬいぐるみの毛と戯れる。
朝起きて鏡を見た静紀の目の下には、クマが薄く出ていた。親友の巴から最近教わったメイクを駆使して、いつもの肌色になるよう隠す。香水もきつくならない程度につけている。
朝食や諸々の支度を終えた静紀は家の玄関に腰掛け、若狭を待つ。
「周期ピッタリなのはいいんだが……」
彼女は月に1度起こる女子特有のものをめんどくさいとでも言いたげに、ため息をついた。
今日は1ヶ月ぶりに若狭とデート。彼女の中に休むという選択肢はなかった。ついこの間の体育祭で振り付けのリーダーに任命された静紀は、下校時間ギリギリまで下級生に教え、休日は振り付け内容を考えるというのを繰り返す日々をおくり、若狭とゆっくり過ごす時間など到底なかった。この忙しい期間の後半に差し掛かった頃、若狭からデートのメールを受け取った静紀は、彼が送ったと同時に返信。今日という今日への楽しみを糧に張り切って活動した。
玄関の扉が開く。男子高校生らしく、ラフな服を着た若狭がいた。
久しぶりに、制服以外の出で立ちの若狭を見た静紀。先ほどのため息をついた顔とは打って変わって、口角が上がり、目尻が下がる。憂鬱な気分は消えたのか、静紀はスッと素早く立ち上がる。しかし、彼女はすぐにふらついて若狭のほうに倒れた。
「っと……シズ?」
若狭は彼女への衝撃をやわらげるようにして、後ろに一歩引いて抱える。
静紀の顔は今、若狭の胸に埋められていて分かりにくいが、一部見える目は今にも閉じそうになっていた。
彼女は一言謝って、構わず家を出ようとする。だがそれはかなわなかった。
「うわっ!」
「病人を連れ回す趣味はねえ」
静紀は若狭に腕を引かれ、あっという間に横抱きにされる。
「貧血だろ?」
「……ちょっと休めば大丈夫だ」
「オマエ、元がすげえ健康だから調子悪いの丸わかりなんだよ」
静紀の顔色は一見いつも通りだ。
しかし、彼女の表情筋から仕草まで日頃細かく見る若狭には、具合の悪い姿を隠すことはできなかった。静紀はバツの悪そうな顔をする。
「買い物はいつでも行けるって。今日は家でゆっくりな?」
若狭は彼女に自室の場所を尋ねる。静紀が答えると、若狭は階段に向かって歩き出した。階段の横幅がせまかったので、彼は横抱きを解いて静紀を背負う。
「……自分で歩ける」
「大人しく甘やかされてろ」
静紀は黙って若狭の首に回した手の力を少し強くした。
彼は2階の部屋のベッドまで彼女を運び、ちょっと待ってろと一声かけてから、少し早足で1階に降りていった。しばらくして、若狭は箱とコップ一杯の水を持って、静紀の部屋に戻ってきた。
「それは……なぜ分かった」
「そういや師範がしまってたの見たことあったなあって思って」
彼が持ってきたのは、家に常備されてる薬箱。静紀は師範にその在り処を教えられていたが、滅多に体調不良にならない彼女にとっては居場所さえ忘れかけていたものだ。
風邪薬から睡眠薬まで、ひと通りの薬がそこには揃っていた。若狭は静紀の隣に座り、その種類の豊富さに目を見張る。薬箱の中を探ると、貧血用の薬があった。彼女は今日みたいに明確な症状が出たことがなかったため、使う予定がなかったはずの薬まであることに目を見開く。
「まさか使うことになるとはな」
「逆に今までどうしてたんだ?」
「ここまでひどくなることはなかったから、特に何もしてなかった」
高校に入ってから重くなったな、と言って静紀は薬を飲む。
「オレちょっと菓子買ってくるけど、オマエは欲しいのあるか?」
若狭はさりげなく静紀の欲しいものを尋ねる。
「じゃあ……ココアで。あったか〜いのほうな」
「りょーかい」
静紀は通り道にある自販機のココアをリクエストした。若狭はすぐ戻ってくると言って部屋を飛び出していった。
「普段菓子なんて食べないくせに……」
部屋の扉がしまると、ボソッと呟いた静紀は満更でもない顔をする。どちらかというと辛い物を好む若狭が、適当に菓子とか言っていたのを反芻する。彼は静紀に気を遣っているのを悟られたくないようだった。
静紀は若狭の絶妙な気遣いにかなわないと思いながら、枕元のぬいぐるみの毛と戯れる。