もう一人の生きる伝説~小話~

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新しい家族は、すぐそこに

 私は急いでテレビをつけた。間に合った、ちょうどタイトルコールが始まったところだった。休日の夜に欠かさず見る動物番組だ。夕食後の満腹感と動物の癒しは相性が良い。

「ん」

 すでにソファに深く座っていた若狭はいつものように手をひろげ、体で「来いよ」と伝える。言われるがままにワカの上に座った。腹の子に衝撃がこないように、そっと。後ろからふわりと抱きしめられ、腹にのった手が子をあやすように規則正しく動いた。妊娠してるのがわかったときから、こうしてお腹が膨らんできたのが目に見えてわかるようになってからも、ワカは隙あらばこの行動を繰り返している。毎日よく飽きないものだ。

「さすがにもう重いだろ」
「ジム経営者ナメんなよ」

 どう考えても重いはずだ。出産予定日まであと一ヶ月くらい。赤ちゃんはいつ産まれてもおかしくないと言われた。私も剣道で鍛えてるから人よりやわじゃないとはいえ、腹に約3キロ抱えて動くのはけっこうしんどい。
 あと、重くなった身体で若狭の上に乗ると互いの太ももが食い込むのだ。後ろから愛しい人の体温に包まれるのは嬉しいけど、恥ずかしくてむず痒いほうが強かった。まあ慣れてきて気づいたらワカを背もたれにしているのだが。

 ほわほわした気分に包まれていたら、テレビはお目当てのコーナーの時間になっていた。先週は母猫の出産映像だったけど、今日は母猫が仔猫たちにお乳を与えているところだった。

 ああ、かわいい。モフモフ。目も開いていない仔猫たちが、母親のお乳をつかんで賢明に吸っている。なぜかワカに両手を重ねられたけど、どうやら私のモフりたい衝動が表に出て手をもにゅもにゅ動かしていたらしい。私の手はワカによりそっと下げられ、自分のお腹に掌がのる。

 出産は怖い。人生で一番の痛みってみんな言っている。自分の母親の記憶はほとんどないから、どのように振る舞えばいいのかもわからない。
 それでも――この子が生まれたら、自分たちにもこんな幸せな光景が広がるのだろうか。
 その期待を共有したくて、ワカの手の甲に自分の手を重ねる。

「ふふっ」

 ワカはテレビの猫たちに負けじと首元に頭をぐりぐりと押し付けてきて、くすぐったさにみをよじった。

「あっ」

 蹴った。この子も待ちきれないみたいだ。ワカのアメジストの瞳とかちあう。愛しさが溢れていた。また心地よいムズムズした気持ちが込み上げ、さっき浮かんでいた一瞬のモヤモヤはすっかり小さくなっていた。
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