もう一人の生きる伝説~小話~

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 最後の一皿をテーブルに置いたところで、ちょうどワカ君が来ました。彼と同じ特攻服に着替えてきた静紀も座って、三人で手を合わせます。

「いただきます」

 こうして夕食を過ごすのも当たり前の光景になってきましたね。

 今日はおでんです。冬が近づいてきましたからね。二人には温かいものたくさん食べてもらいます。寒風をバイクで走り回って風邪引きましたとなれば元も子もありませんので。

 ワカ君は大根から行くのですね。フーフーと息を吹きかけてます。なかなか湯気が消えなくてだんだん吹く息が強くなっています。猫舌なのでしょうか。今度から予め少し冷ましておきましょう。

 そしてワカ君はあつあつの大根を頬張ります。何回かもぐもぐして、目を少し大きく開きました。

「ワカ君、味はどうですか?」
「……美味しい、です」

 察してはいましたがあえて聞きました。静紀も将来ワカ君に料理をするとき、ちゃんと言葉で言われたほうが嬉しいでしょう? だから今のうちに、こうしてワカ君にこっそり習慣づけさせるのです。

 静紀のほうはまず卵を箸に挟んでいました。あら、かじりましたね。大体の人は一口で丸飲みするのですが、この子は口が小さいから何口かに分けるのが常です。予想以上にあつあつだったようですね。口元を隠してますが、中でホクホクと冷まそうとしてることくらい分かります。微笑ましい光景です。

 さて、私も食べるとしますか。

 ***

 私が食べ終わる頃にはワカ君は既に頬杖をついていました。静紀はまだ半分弱しか進んでいません。いつもはここで私から静紀に世間話を繰り出すところですが、何やらワカ君がこの子をじっと見つめているので見守ることにしましょう。

 静紀はワカ君と目が合うと、箸の動きが少し速くなりました。しばらくしてワカ君の視線に耐えかねた静紀は、ついに顔をフイっと逸らしてあからさまにワカ君の目から逃れました。

シズ、どうした?」

 挙動不審な静紀に、ワカ君はさすがに気になったようです。

「いや……すぐ食べる」

 どうやら静紀は急かされていると思ったようです。

 この子は食べるのが遅いことを気にしていますからね。食欲がないとか、特別少食というわけではありません。口が小さいから一口の量が少ない。みんなが一口で食べるりんご一切れを、3回に分けてかじったり。

 あと、食べ物はよく噛むように教えていますから、それも相まって人より食事時間が長いです。だからこの子は外食するとき、量が少ないものを注文することが多いです。

 まあ別に急ぐ必要はありません。集会までは時間があるようですし。それに、ワカ君は決して貴方のことを急かしてはいません。

「気にすんなよ……オレが見てたいの」
「んっ、ケホッケホッ、っ……」

 ワカ君がタレ目の端を下げて柔らかく微笑むと、静紀は分かりやすく顔を真っ赤にしてむせてしまいました。おや、箸が止まってしまいましたね。それでも、だんだんと静紀も照れを含みつつ嬉しさを噛み締めるような表情に変わってきました。箸を持った手で口元隠してますけど、私にはバレバレですよ。この子はまたいつものようにおでんの具を口に運び始めました。

 ようやく気づいたようですね。ワカ君の菫色の瞳は、貴方の食事姿をつまんなくてうんざりしたものではなく、愛しいものとして映していたのですよ。

 静紀のこんな可愛い一面を引き出してくれるのは、後にも先にもワカ君だけですね。

 二人ともまだ中学生なのに、新婚夫婦みたいな空気をかもすとは。成長した姿が待ち遠しいです。
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