もう一人の生きる伝説~小話~
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部屋に戻ると、ワカはベッドの上で身体を震わせながら鼻をかんでいた。時折くしゃみもはさみながら。
こうなったのは昨日の朝方の行動のせいである。朝になってもワカが帰って来なくてベンケイに電話をかけたら、彼は眠そうな声で「八王子駅には行ったはずだぞ」と返すだけだった。実際八王子駅に行ってみると、なんとワカは駅のホームの黄色い線の上ですやすやと寝ていた。
毎度酒が入るとベンケイにタイガージェットシン絡み、私が迎えにくると所構わずいやらしい雰囲気にもっていく――外では未遂に終わるが――、家だと絵に描いたようなすけべ親父の振る舞いをする、という具合に酒癖の悪さは把握していたつもりだった。ついにこんな奇行に出たかと初見ではしばらく思考が停止した。
だが、冬の到来を感じさせる寒風をどれくらい受けていたのか、肌に触れたときはあまりにも冷たくて正直焦った。あと他の女や男に身体触られていないかという心配をすぐにし始めたのも惚れた弱みだろうか。
案の定、ワカはこうして風邪をひいたわけだ。
こちらに気づいたワカはかまくらのように毛布にくるまったままベッドに腰掛ける。湯気がほんのり出ているカップを差し出すと、ワカは両手で受け取った。
中身はホットミルクと蜂蜜を混ぜたもの。風邪のときに飲ませるといい、と師範から教わった。安眠効果があるらしい。コイツは甘いものは好まないから、蜂蜜は若干少なめにしてみたが。
ワカはカップを口に近づけては離す、というのを繰り返す。コイツは猫舌だ。私が予め息を吹いて冷やすべきだったかもしれないが、先程部屋を出るときに分かりやすく寂しそうな顔をされたので、私は最低限の工程をしてすぐに戻ってきたのだ。あんな顔をされたら待たせるのは忍びなかった。
ワカのほうを見れば、今度は猫が水を飲むように舌でちびちびと味わっている。縮こまっているのが可愛らしくて、私はしばらくその様子を眺めた。
***
口に流し込んでも問題ない温かさになってきたから、ゴクリと流し込む。蜂蜜が入ってるとか言ってたな。ほんのり甘い蜜がミルク特有の臭いを和らげていて、しばらくこの味に浸っていたいと思うほどに優しい味だった。
最後の一滴まで飲み干してカップを膝の上に置く。
気づかないフリをしていたシズの視線が刺さり、再び気まずい思いがこみ上げてくる。
昨日の朝と同じだ。調子乗って酒をガブ飲み、気づいたら駅の黄色い線の上で寝て風邪まで引いてと、立て続けに嫁にだせえ姿を見せている。昨日は細い身体で家まで運んでもらい、今日はオレのワガママでそばにいてもらってる。当分禁酒しようかと思い始めてきた。
「……飲み過ぎるなよ」
付き合いもあるだろうし飲むなとは言えないがな、とシズはオレの頭を優しく撫でながら付け足す。
オレを心配するような優しい声と顔を向けられ、こんな酒に振り回される旦那に幻滅したのではという心配は静かに消えていった。
さっきのホットミルクの熱が全身に渡ってきたのか、ベッドに戻ると心地良い温度に包まれる。
シズの手は変わらずオレの頭を撫でていて、オレは誘われる眠気に従って大人しく目を閉じる。意識が落ちる前、おでこの一点にかすかな温もりを与えられた気がした。
こうなったのは昨日の朝方の行動のせいである。朝になってもワカが帰って来なくてベンケイに電話をかけたら、彼は眠そうな声で「八王子駅には行ったはずだぞ」と返すだけだった。実際八王子駅に行ってみると、なんとワカは駅のホームの黄色い線の上ですやすやと寝ていた。
毎度酒が入るとベンケイにタイガージェットシン絡み、私が迎えにくると所構わずいやらしい雰囲気にもっていく――外では未遂に終わるが――、家だと絵に描いたようなすけべ親父の振る舞いをする、という具合に酒癖の悪さは把握していたつもりだった。ついにこんな奇行に出たかと初見ではしばらく思考が停止した。
だが、冬の到来を感じさせる寒風をどれくらい受けていたのか、肌に触れたときはあまりにも冷たくて正直焦った。あと他の女や男に身体触られていないかという心配をすぐにし始めたのも惚れた弱みだろうか。
案の定、ワカはこうして風邪をひいたわけだ。
こちらに気づいたワカはかまくらのように毛布にくるまったままベッドに腰掛ける。湯気がほんのり出ているカップを差し出すと、ワカは両手で受け取った。
中身はホットミルクと蜂蜜を混ぜたもの。風邪のときに飲ませるといい、と師範から教わった。安眠効果があるらしい。コイツは甘いものは好まないから、蜂蜜は若干少なめにしてみたが。
ワカはカップを口に近づけては離す、というのを繰り返す。コイツは猫舌だ。私が予め息を吹いて冷やすべきだったかもしれないが、先程部屋を出るときに分かりやすく寂しそうな顔をされたので、私は最低限の工程をしてすぐに戻ってきたのだ。あんな顔をされたら待たせるのは忍びなかった。
ワカのほうを見れば、今度は猫が水を飲むように舌でちびちびと味わっている。縮こまっているのが可愛らしくて、私はしばらくその様子を眺めた。
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口に流し込んでも問題ない温かさになってきたから、ゴクリと流し込む。蜂蜜が入ってるとか言ってたな。ほんのり甘い蜜がミルク特有の臭いを和らげていて、しばらくこの味に浸っていたいと思うほどに優しい味だった。
最後の一滴まで飲み干してカップを膝の上に置く。
気づかないフリをしていたシズの視線が刺さり、再び気まずい思いがこみ上げてくる。
昨日の朝と同じだ。調子乗って酒をガブ飲み、気づいたら駅の黄色い線の上で寝て風邪まで引いてと、立て続けに嫁にだせえ姿を見せている。昨日は細い身体で家まで運んでもらい、今日はオレのワガママでそばにいてもらってる。当分禁酒しようかと思い始めてきた。
「……飲み過ぎるなよ」
付き合いもあるだろうし飲むなとは言えないがな、とシズはオレの頭を優しく撫でながら付け足す。
オレを心配するような優しい声と顔を向けられ、こんな酒に振り回される旦那に幻滅したのではという心配は静かに消えていった。
さっきのホットミルクの熱が全身に渡ってきたのか、ベッドに戻ると心地良い温度に包まれる。
シズの手は変わらずオレの頭を撫でていて、オレは誘われる眠気に従って大人しく目を閉じる。意識が落ちる前、おでこの一点にかすかな温もりを与えられた気がした。