もう一人の生きる伝説~小話~
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若狭は靴を履いて静紀に向き直った。彼女の両肩に手をのせ、顔を近づける。
「んむっ」
ふにっ、と何かが行く手を阻んだ。
「その……キス、減らしてくれないか?」
二人の口に割って入ったのは彼女の二本指。いつものルーティンが突然遮られ目を丸くしていたところに、思いがけない発言をくらった若狭は全身が硬直した。
いつも彼のほうから何かと理由をつけてキスしてきた。黒龍の集会後、彼女を家に送り届けたときも。通学路で別れるときも。
もともと若狭は潔癖なところがあり、欲の発散のために男女の行為は渋々行っても、キスはやんわりと拒んだほどだ。
ところがどうだ。静紀と付き合い始めてからところ構わず所有権をみせつけるようにキスをせがみ、夫婦になってからも行ってきますのチューなどという新婚夫婦のテンプレまでやってのけるほどになった。
それもこれも彼女への愛を示すため。
愛を伝える手段が一つ減る危機に直面した若狭は、なんでと訴えるように彼女の肩を強く握りしめた。
口が臭かった? いや、昨日は酒も飲んでいないし、今日の朝だって食の前後に嫁と仲良く歯磨きした。
彼女のお気に入りモフモフコレクションを汚した? 思い当たる理由を言うが、彼女は口をつぐみ、目を逸らすだけ。
「オレが嫌いになったのか」
彼女に限ってそんなことはないとわかっていても、つい口走ってしまう。
彼女は嫌いという単語に全力で否定し、若狭はひとまずため息をついた。
だが、彼に次の不意打ち発言を予期することはかなわなかった。
「あんまりすると、見送りづらくなるだろ」
***
静紀は困っていた。若狭が人目も気にせずキスをしてくることに。
嫌いではないのだ。彼の愛しいアメジストの瞳を間近で独占できるあの瞬間が好きでもあるから。
しかしここ最近、彼女はふとしたときに指を口に当てるようになっていた。
「口が寂しいんじゃないの?」
友人に相談すればそんな指摘が返ってきた。
静紀は考えた。このままでは旦那とのキスに依存してしまうと。
「だから、しばらく禁止だ」
静紀は意を決して若狭に告げる。禁止とは言ったが回数を減らすだけ。おやすみのキスだけに絞りたい、と彼女は考えていた。
若狭の顔はいつものタレ目に戻っている。どうやら落ち着いたらしい。
「んうっ!?」
いや、全然よくなかった。
突如彼女は若狭に後頭部を掴まれ、気づけば彼の顔はワープしたかのように目の前にあった。ノーガードだった彼女の唇は、彼の舌を容易く受け入れる。平時の軽いキスとは比べ物にならない舌使いに、彼女の腰は若狭の手を支えとするのが精一杯だった。
ようやく若狭の口から解放されると、二人の間を銀の糸がつないでいた。
支えをなくした彼女の身体は膝をつく。
「お前、はぁっ、はぁ、人の話聞いてたか!?」
彼女は上気した顔で若狭を睨んだ。
「口寂しいんだろ? だからもっとあげてやったんだよ」
若狭はニヤリと口角を上げてギラついた瞳で彼女を一瞥し、颯爽とドアを開けて出ていく。彼女は湿り気を帯びた下半身を自覚しながら、キスの余韻に酔いしれることしかできなかった。
その日、若狭は一日中嫁のとろけた顔を思い浮かべながら、夜にごほうびをたっぷり与えて鳴かせると意気込んでいた。彼の異常なご機嫌っぷりに、同僚の慶三は終始怪訝な表情を向けたとか。
「んむっ」
ふにっ、と何かが行く手を阻んだ。
「その……キス、減らしてくれないか?」
二人の口に割って入ったのは彼女の二本指。いつものルーティンが突然遮られ目を丸くしていたところに、思いがけない発言をくらった若狭は全身が硬直した。
いつも彼のほうから何かと理由をつけてキスしてきた。黒龍の集会後、彼女を家に送り届けたときも。通学路で別れるときも。
もともと若狭は潔癖なところがあり、欲の発散のために男女の行為は渋々行っても、キスはやんわりと拒んだほどだ。
ところがどうだ。静紀と付き合い始めてからところ構わず所有権をみせつけるようにキスをせがみ、夫婦になってからも行ってきますのチューなどという新婚夫婦のテンプレまでやってのけるほどになった。
それもこれも彼女への愛を示すため。
愛を伝える手段が一つ減る危機に直面した若狭は、なんでと訴えるように彼女の肩を強く握りしめた。
口が臭かった? いや、昨日は酒も飲んでいないし、今日の朝だって食の前後に嫁と仲良く歯磨きした。
彼女のお気に入りモフモフコレクションを汚した? 思い当たる理由を言うが、彼女は口をつぐみ、目を逸らすだけ。
「オレが嫌いになったのか」
彼女に限ってそんなことはないとわかっていても、つい口走ってしまう。
彼女は嫌いという単語に全力で否定し、若狭はひとまずため息をついた。
だが、彼に次の不意打ち発言を予期することはかなわなかった。
「あんまりすると、見送りづらくなるだろ」
***
静紀は困っていた。若狭が人目も気にせずキスをしてくることに。
嫌いではないのだ。彼の愛しいアメジストの瞳を間近で独占できるあの瞬間が好きでもあるから。
しかしここ最近、彼女はふとしたときに指を口に当てるようになっていた。
「口が寂しいんじゃないの?」
友人に相談すればそんな指摘が返ってきた。
静紀は考えた。このままでは旦那とのキスに依存してしまうと。
「だから、しばらく禁止だ」
静紀は意を決して若狭に告げる。禁止とは言ったが回数を減らすだけ。おやすみのキスだけに絞りたい、と彼女は考えていた。
若狭の顔はいつものタレ目に戻っている。どうやら落ち着いたらしい。
「んうっ!?」
いや、全然よくなかった。
突如彼女は若狭に後頭部を掴まれ、気づけば彼の顔はワープしたかのように目の前にあった。ノーガードだった彼女の唇は、彼の舌を容易く受け入れる。平時の軽いキスとは比べ物にならない舌使いに、彼女の腰は若狭の手を支えとするのが精一杯だった。
ようやく若狭の口から解放されると、二人の間を銀の糸がつないでいた。
支えをなくした彼女の身体は膝をつく。
「お前、はぁっ、はぁ、人の話聞いてたか!?」
彼女は上気した顔で若狭を睨んだ。
「口寂しいんだろ? だからもっとあげてやったんだよ」
若狭はニヤリと口角を上げてギラついた瞳で彼女を一瞥し、颯爽とドアを開けて出ていく。彼女は湿り気を帯びた下半身を自覚しながら、キスの余韻に酔いしれることしかできなかった。
その日、若狭は一日中嫁のとろけた顔を思い浮かべながら、夜にごほうびをたっぷり与えて鳴かせると意気込んでいた。彼の異常なご機嫌っぷりに、同僚の慶三は終始怪訝な表情を向けたとか。