もう一人の生きる伝説~小話~

夢小説設定

この小説の夢小説設定
夢主の下の名前
夢主のあだ名
夢主の女友達

「ただいまー」
「ただいまー!」

 グツグツと煮込む音に耳を澄ましていたら旦那と娘の元気な声が飛んできて、私もおかえりと返す。ジムで二人とも相当動いたらしい。二人とも活気よく息が弾んでいた。

「鍋か」

 ワカがキッチンに身を乗り出して私の手元を覗きこんだ。

「ああ、でもまだ時間がかかりそうだ」
「先に風呂入るワ」

 風呂は既に湧いてることを伝えれば、ワカは娘に声をかけてリビングをあとにした。

 ワカはいつも私が手を離せないときは代わりに娘のことを見てくれている。たまに記憶が飛ぶほど酒に溺れて帰ってくるところを除けば、すっかり頼りになる旦那、いや父親になっていた。以前初代黒龍のメンバーで寄せ鍋を食したときに亭主関白の鍋奉行と化したどこぞの軍神とは大違いだ。



 頃合いになってテーブルに鍋と食器を置いていたら、何やら言い争う2つの声が近づいてきた。

「ママはオレのだからダーメ」
「やだぁ! ママとけっこんするの!」

 なぜそのような話になったのかはさっぱり分からないが、4歳児相手に大人気ない。娘も娘だ。普通ならそこはパパと結婚する、と言うところだろう。どのみち、愛されていることに悪い気は微塵もしない。私の口元はひとりでに緩んだ。


 ワカと娘を座らせ、それぞれの分を盛り付けてどうぞと差し出していく。ワカにはキノコを多めに、娘にはにんじんを多めに。二人は目の前の食べ物に忌避の視線を向けてから、顔を逸らした。

「食べきったほうと結婚しよう」

 これを機に頑張って食べてもらうか。こんな冗談めいたことで効果があるのかという不安はあったが、二人ともテーブルに向き直って覚悟を決めたように背筋をピンと伸ばした。自分で言うのもあれだが、大好きな人の前では少しバカになるところもそっくりだ。

 さて、今日はどっちが勝つだろうか。

 二人のおぼつかない箸の動きを眺めながら、私は白菜をむしゃっと口に入れた。
9/13ページ
スキ