もう一人の生きる伝説~小話~

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 髪を乾かして布団を整え、そろそろ寝ようかとベッドに片足を乗せたとき、チャイムが鳴った。こんな時間に誰だろうか。

 玄関のドアを開けた瞬間、酒の臭いが立ち込めて思わず顔をしかめた。ほんのり赤みを帯びた顔で人の肩に掴まる旦那。ソイツに肩を貸すのは、相棒のベンケイ。
 今日は初代黒龍のメンバーで飲み会の予定だったのだが、私は明日朝早く家を出なければならなかったからパスしていた。ワカたちは無事に楽しんだみたいだが。

「珍しいな、ワカがここまで呑むなんて」

 旦那の酒耐性はザルだったはずだ。酔いつぶれたのは見たことがなかった。

「オマエがいなかったから調子乗ったんだろうな」

 馴染みのメンバーの前でタガが外れたのだろうか。呆れて溜息を一つ零しながら、幸せそうな顔してるからまあいいかと納得して、ワカを受け止める。
 足取りは完全におぼつかないようで、私は脚に思いっきり力を入れてワカの身体を支えた。

「ん、あれ……シズ……?」

 目を覚ましたワカを見て、私は立てるかどうか尋ねる。ワカは「んー」と意味のない鼻声しか発さず、目はトロンと垂れたまま。まだ寝惚けているようだ。しょうがない、とりあえず寝室に連れていこう。そう思ったときだった。

「うわっ!? ちょっ、んむっ」

 突如視界がぐらりと揺れた。受け身を取ったから強い衝撃は免れたが、何かが重くのしかかって起き上がれない。重っ……と口に出そうとしたがそれはかなわなかった。ワカが両手で私の顔を掴み、流れるように口を塞いできたからだ。触れるだけの時間はいつもより短くて、肉厚の舌が口内で暴れ回る。酒の香りと口への刺激が相まって、寝ようとしていた私も身体が熱くなった。

 だがここは玄関。ましてやドアが開いている。この体勢が続くのはまずい。

 私はベンケイに助けを求めようと手を伸ばす。が、ワカに捕まり腕が床に縫いつけられた。よそ見すんなよ、とワカは口元で唸って、また口づけを再開する。

 それでもベンケイに助けを求める視線を送っていると、ベンケイは何かを悟ったようにどこか遠い目をして、そっとドアを閉めた。アイツ何見捨ててんだよ。明日シメに行ってやるからな。

 無情にもガチャリと音を立てたドアをキッと睨みつけた。

「はぁ……はぁ……」

 ようやく口が離れて肩で息を整える。正気に戻ったのかと思ったのもつかの間、ワカの垂れ目はひどく据わっていて、下位の狼に反抗されて苛立つ上位の狼のように私を見下ろしていた。

「テメエ今オレ以外のこと考えてたよなァ?」

 酔っ払いの戯言は理不尽だ。ベッドならまだしも玄関、しかもベンケイがいる前でこんなことをしでかしたんだから、助けを求めるのも当然だろう。

 そう心の中で毒づいていたら、背中に急に冷たさを感じてピクっと身体が震える。その手は上に上にと忍び寄る。待て、ここでスる気か? てかベンケイ、水は飲ませたのか? 絶対飲ませてないな。いつものワカならこんな固いフローリングの上で体重かけることなんてしない。あれこれと考えるうちにワカの指がブラのホックにかかった。片腕は床に押さえられ、もう片方はワカの頭が私の肩に乗ってて上手く動かせない。玄関でお盛りコースだと半ば諦め始めていた、そのとき。

 ワカは故障したロボットのように固まった。私は、あまりに突然のことで時間が止まったようにも見えた。

 そしてワカは私の上にドスっとなだれ込んできた。

「ゔっ……」

 フローリングで筋肉量増し増しの成人男が降ってくるのは窒息不可避だ。私はバタバタとワカを叩いたが、肝心のコイツは充電切れのごとく寝息を立てやがった。

 このあと、本日の残り少ない体力を絞り出してなんとか抜け出し、旦那をベッドへ引きずった。



 翌日、静紀の木刀をくらったベンケイこと慶三は、「脛にこんな青あざ一週間も残すなら昨日ワカの一撃をもらったほうがマシだった」と後悔することになる。
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