もう一人の生きる伝説~小話~

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 いくら目をつぶっても意識は落ちず、気を紛らすように寝返りを繰り返す。
‎‎‎ 目を閉じていても、稲妻の光はまぶたの裏に差し込んでくる。数秒後には、遠い地面から這い上がるようにゴロゴロと空気を震わす。

‎ 黒龍の遊撃隊長だった頃は、仲間たちとともに生きるか死ぬかの抗争をしている最中で、耳の良さは有利に働いた。あと一歩遅かったら、という危ない局面で幾度となく役立ち、伝説のチームへの道に貢献できたのだから。メリットのほうが多くて、不快な音が聞こえてもこれくらいどうってことないと我慢していた。

‎ 今は違う。旦那を叩き起こしてから仕事場に行き、夜も一緒に夕食、そしてワカと一緒に寝るという平和な日々。戦う機会は総じてなくなり、耳の良さは無用の長物となった。ふとしたときに、興味のない他人の失恋話や独り歩きする自分の噂を意図せずとも正確に拾ってしまうのか、最近どうも面倒くさい。

‎ 感覚が無駄に鋭いのも考え物だ。聞きたくない音は拾わないほうが楽なことが多い。

‎ オマケに夜だ。シーンと静まり返って、真っ暗。部屋の中は物音一つしない。2人分の息がかすかに聞こえるだけだ。
‎ 仰向けの状態から90度回転すると、ワカと目が合った。

「寝れねえのか?」
「ん……」

‎ 結婚して同棲する前から何回も身体を重ね、このような光景には触れてきたというのに、暗闇の中至近距離でワカに顔を向けられるのは未だに慣れない。23という歳で雷が怖いと言うのも恥ずかしかった。

‎ さっきからやたらもぞもぞしているであろう私の状況をどう説明しようか迷って、枕をぎゅっと掴んだとき。背中に手が回って引き寄せられ、顔面が温かな何かに包まれる。暑いけど、ワカの体温は心地よい。私はもう少しその感覚に浸りたくて、頭から足の先までワカの身体にピタリとくっつけた。

‎ 今度はワカの手のひらが私の右耳を包んだ。耳を塞いだところから、ザーッとホワイトノイズが流れる。左耳からはトク、トクと心音が聞こえてきた。Tシャツと、細身ながら厚い胸板を隔てているはずなのに、不思議とはっきり聞こえる。しばらくするとふわふわして、ワカの一部に溶けていくような気分になってきた。今だけは耳のよさに感謝しよう。

‎ 私はワカのぬくもりと鼓動にあやされながら、ようやくやってきた眠気に身体を預けた。
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