癒やされるのはどちらも
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3時になった。アラームもセットしていないのに気づいたのは、毎日の繰り返しで身体に染み付いたからだろう。私は次の問題のページを広げてから、席を立ち上がる。
ふと、シャーペンが視界に入った。
確か、高一の終わりごろのこと。先代のピンク色のペンが、爆発した。筆圧をかけたら、先端の結合部からポッキリいって、先端部の三角錐が粉々になったのだ。
今使っているのは、海のように深い青のペン。同じメーカーの色違いだ。グリップはゴムじゃないから硬い。けれど、本体の細さが手にフィットするからお気に入りだ。
あれからもう1年半経ったのか。ペンの持ち手部分を中心に、下半分はかつての青にかすみがかかっている。上半分も、ところどころ塗料がすり減っている。まだ書けるからと、とりあえず使い続けていた。買い換えるのが面倒で忘れていたというのもある.
今から30分の休憩だ。おやつ食べて軽く素振り。
初めはこんな休憩、取らなかった。受験勉強っていったら、机に座って何時間もうなりながらするイメージだったから。しかし、いざ剣道をやめた途端、身体と脳が受け入れなくて、そわそわしたものだ。それはすぐに外面に現れたらしい。顔色が悪いと師範に指摘され、このような休憩の仕方を提案された。
リビングへ行き、一欠片のチョコをむく。それを口で砕き、舐めて溶かす。お疲れの頭には良い補給のようだ。甘さが口から染み渡る。私はひとときの幸福を噛み締めた。
さて、運動がてら、竹刀を握ったそのとき。
庭のほうから、私の名を呼ぶ師範の声が聞こえた。
今行きまーす、と返事をして庭を覗けば、しばらく会っていなかった、大好きな人。
おかしいな。私は幻覚が見えるほどに疲れているのか?
「ワカ君が来ましたよ」
師範がワカを指さしたことで、現実だと悟る。
「オレ、邪魔した?」
「いや、てっきり都合の良い幻覚が見えたのかと思っただけだ」
受験でデートも限られてきたこの頃。最近は下校時に運良く時間が合って一緒に帰ったり、電話やメールでやり取りするくらい。静かな休日に実物を見たのだ。飛び跳ねたくてしょうがない。ワカの私服、久しぶりに見た。
その衝動を我慢していたら、何やら師範がワカに耳打ちをしている。ワカの目が少し大きくなった。
「まあ、ゆっくりしてください」
師範は意味深に微笑んで奥の部屋へと消えていった。
ワカは一息つき、両手を後ろについて縁側に座る。アイツはこちらを向いて、来いとでも言いたげに私に視線を送った。私は竹刀を壁に立てかけて、ワカの右隣に座る。
「珍しいな」
「……家の前うろうろしてたら、師範に捕まっちまった」
ワカは真一郎たちとバイクを走らせてきたとのこと。帰り道、気づいたら私の家に足を運んでいたとか。
「まあそのおかげで役得になったけど」
「どういうこと、だ」
途中でワカに肩を掴まれ、目の前の景色がぐらりと揺れる。視界が90度傾き、頭がワカの膝の上に収まった。
「……何だこれは」
「膝枕」
いやそれはわかる。
「どういう風の吹き回しだ」
「オマエを癒せって、師範が」
寝心地は、とワカが尋ねる。
「恥ずかしい」
「それは寝心地じゃねえだろ」
知ってる。照れ隠しだって自分でもわかる。
華奢に見えて、鍛えてる硬い太もも。ワカの匂いに包まれ、幸せで愛しい気持ちにふわっと包まれる。細身の体、綺麗な顔立ちに反して、ズボン越しに感じる鍛え上げられた太もも。その硬さは、ワカが男だってことを主張する。
こんなことを考えている自分が恥ずかしくなってきて、起き上がろうとした。コチョコチョの刑に処すと言われたので、私は再び大人しくワカの膝に横たわる。
携帯越しでも、ワカと繋がっている感じがして心が安らいではいたが、実物は段違い。長時間座って凝り固まった身体も、みるみる解れていく気になる。
そのように一息ついていたとき、ワカの手が私の頭にポスッと乗った。ワカの手の重さを感じる。スリスリと撫でられるのが心地よくて、私の瞼は自然と下がった。
***
ん……ここは?
目の前は、真っ白な世界。
地面は柔らかくて、立とうとしても足を取られる。そのまま顔を床にぶつけ、痛みがくる……はずだった。痛みは来ない。もふっと埋まっただけだった。床全てが、布団のように気持ちいい。布団と違うのは、面積が限りなくあるということ。
掴めば、布として手繰りよせることができた。かき集めて、毛布のようにそこにくるまる。
「一生ここにいたい……」
私はひたすら頬を擦り合わせた。
***
肌に硬い地面を感じて目が覚める。変な夢を見たせいで、起きるのが億劫だ。だがそろそろ勉強に戻らないと。
ワカは……帰ったのか?
いや、靴はある。家の中には居るらしい。ワカがかけてくれたのか、この毛布。匂いから、確かにこの家にあるものだが、見慣れなかった。
瞼がほんのり熱を帯びていた気がした。その一部分の細胞だけ、ときめくような。
毛布を畳んでいると、足音が近づいてきた。ワカが立っていた。
「ワカ、顔赤いぞ?」
「……冷たい風にあたってきたんだよ」
「雲ひとつないぽかぽか陽気だが」
見た感じ、具合は悪くなさそうなので気にしないことにした。
「ワカ、ちょっと屈んで」
ついでに目を閉じるようにお願いして、私はワカの瞼にキスを落とす。なんでそんなとこに、って自分でも一瞬思ったが。
「お返しだ」
完全回復した私は、小走りで自分の部屋に戻った。
この後、縁側で顔を覆ってうずくまるワカを見兼ねた師範が再び私を呼びつけ、2人はリビングという同じ空間で一緒に勉強した。
ふと、シャーペンが視界に入った。
確か、高一の終わりごろのこと。先代のピンク色のペンが、爆発した。筆圧をかけたら、先端の結合部からポッキリいって、先端部の三角錐が粉々になったのだ。
今使っているのは、海のように深い青のペン。同じメーカーの色違いだ。グリップはゴムじゃないから硬い。けれど、本体の細さが手にフィットするからお気に入りだ。
あれからもう1年半経ったのか。ペンの持ち手部分を中心に、下半分はかつての青にかすみがかかっている。上半分も、ところどころ塗料がすり減っている。まだ書けるからと、とりあえず使い続けていた。買い換えるのが面倒で忘れていたというのもある.
今から30分の休憩だ。おやつ食べて軽く素振り。
初めはこんな休憩、取らなかった。受験勉強っていったら、机に座って何時間もうなりながらするイメージだったから。しかし、いざ剣道をやめた途端、身体と脳が受け入れなくて、そわそわしたものだ。それはすぐに外面に現れたらしい。顔色が悪いと師範に指摘され、このような休憩の仕方を提案された。
リビングへ行き、一欠片のチョコをむく。それを口で砕き、舐めて溶かす。お疲れの頭には良い補給のようだ。甘さが口から染み渡る。私はひとときの幸福を噛み締めた。
さて、運動がてら、竹刀を握ったそのとき。
庭のほうから、私の名を呼ぶ師範の声が聞こえた。
今行きまーす、と返事をして庭を覗けば、しばらく会っていなかった、大好きな人。
おかしいな。私は幻覚が見えるほどに疲れているのか?
「ワカ君が来ましたよ」
師範がワカを指さしたことで、現実だと悟る。
「オレ、邪魔した?」
「いや、てっきり都合の良い幻覚が見えたのかと思っただけだ」
受験でデートも限られてきたこの頃。最近は下校時に運良く時間が合って一緒に帰ったり、電話やメールでやり取りするくらい。静かな休日に実物を見たのだ。飛び跳ねたくてしょうがない。ワカの私服、久しぶりに見た。
その衝動を我慢していたら、何やら師範がワカに耳打ちをしている。ワカの目が少し大きくなった。
「まあ、ゆっくりしてください」
師範は意味深に微笑んで奥の部屋へと消えていった。
ワカは一息つき、両手を後ろについて縁側に座る。アイツはこちらを向いて、来いとでも言いたげに私に視線を送った。私は竹刀を壁に立てかけて、ワカの右隣に座る。
「珍しいな」
「……家の前うろうろしてたら、師範に捕まっちまった」
ワカは真一郎たちとバイクを走らせてきたとのこと。帰り道、気づいたら私の家に足を運んでいたとか。
「まあそのおかげで役得になったけど」
「どういうこと、だ」
途中でワカに肩を掴まれ、目の前の景色がぐらりと揺れる。視界が90度傾き、頭がワカの膝の上に収まった。
「……何だこれは」
「膝枕」
いやそれはわかる。
「どういう風の吹き回しだ」
「オマエを癒せって、師範が」
寝心地は、とワカが尋ねる。
「恥ずかしい」
「それは寝心地じゃねえだろ」
知ってる。照れ隠しだって自分でもわかる。
華奢に見えて、鍛えてる硬い太もも。ワカの匂いに包まれ、幸せで愛しい気持ちにふわっと包まれる。細身の体、綺麗な顔立ちに反して、ズボン越しに感じる鍛え上げられた太もも。その硬さは、ワカが男だってことを主張する。
こんなことを考えている自分が恥ずかしくなってきて、起き上がろうとした。コチョコチョの刑に処すと言われたので、私は再び大人しくワカの膝に横たわる。
携帯越しでも、ワカと繋がっている感じがして心が安らいではいたが、実物は段違い。長時間座って凝り固まった身体も、みるみる解れていく気になる。
そのように一息ついていたとき、ワカの手が私の頭にポスッと乗った。ワカの手の重さを感じる。スリスリと撫でられるのが心地よくて、私の瞼は自然と下がった。
***
ん……ここは?
目の前は、真っ白な世界。
地面は柔らかくて、立とうとしても足を取られる。そのまま顔を床にぶつけ、痛みがくる……はずだった。痛みは来ない。もふっと埋まっただけだった。床全てが、布団のように気持ちいい。布団と違うのは、面積が限りなくあるということ。
掴めば、布として手繰りよせることができた。かき集めて、毛布のようにそこにくるまる。
「一生ここにいたい……」
私はひたすら頬を擦り合わせた。
***
肌に硬い地面を感じて目が覚める。変な夢を見たせいで、起きるのが億劫だ。だがそろそろ勉強に戻らないと。
ワカは……帰ったのか?
いや、靴はある。家の中には居るらしい。ワカがかけてくれたのか、この毛布。匂いから、確かにこの家にあるものだが、見慣れなかった。
瞼がほんのり熱を帯びていた気がした。その一部分の細胞だけ、ときめくような。
毛布を畳んでいると、足音が近づいてきた。ワカが立っていた。
「ワカ、顔赤いぞ?」
「……冷たい風にあたってきたんだよ」
「雲ひとつないぽかぽか陽気だが」
見た感じ、具合は悪くなさそうなので気にしないことにした。
「ワカ、ちょっと屈んで」
ついでに目を閉じるようにお願いして、私はワカの瞼にキスを落とす。なんでそんなとこに、って自分でも一瞬思ったが。
「お返しだ」
完全回復した私は、小走りで自分の部屋に戻った。
この後、縁側で顔を覆ってうずくまるワカを見兼ねた師範が再び私を呼びつけ、2人はリビングという同じ空間で一緒に勉強した。