もう一人の生きる伝説~小話~
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──D&D MOTORS。かつて東京卍會副総長を務めたドラケンと、同じく所属していた乾青宗が切り盛りするバイクショップだ。
店の扉の前でバイクをいじる青宗と、空のビール箱を逆さにしてその上に座り、携帯の画面を眺める若狭。ドラケンは部品の買い出し中である。
「ワカ君って、シズさんと月にどれくらいデートするの?」
青宗が若狭に尋ねるも、若狭の耳には入っていなかった。
彼は今日の朝こっそり撮った嫁の寝顔を眺めている。彼女は基本早起きだ。若狭が寝顔を拝めることは滅多にない。寝顔を目にすることができた暁には、前日の夜は大層盛り上がったなあ、と振り返るのが常だ。
「ワカクン?……ワカ君!」
「……ああ……わりぃ、何だっけ?」
若狭がようやく青宗の呼びかけに反応する。
「だから、ワカ君って月に何回してるの?」
青宗は全く同じことを繰り返すのが面倒臭いと感じ、一部を省略した。
(おい、今の高校生ってそんなこと堂々と聞くもん? 青宗って意外とそういうことに興味あんの?)
若狭は直前に眺めていた写真のせいで、夜の営みのことだと解釈する。
「青宗オマエ、ヨメでもできた?」
「ううん。オレらのとこにくるお客さん。ヨメできたらしいんだけど、そういうの、どうしたらいいか全くわかんないんだって」
青宗は首を横に振ってから、疑問に至った経緯を説明した。
「……週に2回、たまに3回だから、10回近くはやってるな」
「そんなにしたらお金かかんない?」
「スるのに金とかねえだろ。体さえあればできるじゃん」
もう一度言おう。青宗はデートのことを聞いている。だが若狭は寝台で行われる大人の行為だと思っている。
「そのペースだと平日もってこと? シズさん、毎日学校行くよね? する時間あるの?」
静紀はとある高校で教師を務めている。学校自体が休みにならない限り、平日はそれなりに忙しい。休日も休日で、実家の道場の手伝いや佐野家の手伝いなど、彼女は行くべきところが多い。
「まあアイツ、そこまで夜遅くに帰ってくるわけじゃねえし」
若狭の返答に、青宗は一旦納得する。
「どこに行ったりするの?」
次に青宗はデートスポットを聞いた。
「基本は家だろ」
「外だとどこ行く?」
「外……外はアイツ嫌がるんだよ。オレ1回ヤろうとしたらボディーブロー食らったワ。もうやらねえって誓ったよ。あ、たまにホテルも行くな。新鮮で盛り上がるぞ」
めっちゃ細かく聞いてくるな……と若狭は思いながらも、以前のベッドでの行為を振り返っては青宗に語る。
純粋無垢な目でひたすら黒龍を見つめていた青宗が、この手の話題に参加するようになったんだなあと、若狭は年月の流れを感じた。
「まあ加減はしてるぜ。アイツが翌日立てる程度の体力は残してるつもり。オレがどうしても我慢できなくなったときは最後までしないときもある」
気分が良くなった若狭は聞かれてもないことまで語り出した。
「我慢できないのに、最後までしない……?」
「調子乗って最後までしちまったらアイツ立てなくなるんだよ。前それやらかして1ヶ月間の禁止令出されたし」
2人のデートってそんなにハードなの……と青宗は困惑する。
***
「青宗、ワカ。受け取れ」
2人が話している所に静紀が現れた。焼き鳥の入った袋を差し出す。青宗は口を開けてぱあっと華やいだ笑顔になった。
「オマエ、仕事は?」
「今日は午前授業だ。言ってなかったか?」
「言えよ。迎えに行ったのに」
「呼ぶよりここに来るほうが早いだろ」
静紀は若狭の行動パターンをほぼ把握していた。アラサーにしてもはや熟年夫婦一歩手前である。
「そういえばさっき、青宗が珍しく百面ヅラしてたが……何話してたんだ?」
「月に何回デートするかって話」
若狭の携帯が手から滑り落ちた。
彼の顔はかろうじて平静を保っているが、それでも全身は強ばっていた。
「どこに百面ヅラの要素があった」
静紀はあまりにも普通の話だと分かり、拍子抜けする。
「でもシズさん、最後まで立てなくなるようなデートって一体何するの?」
「青宗」
「ん? デートは普通に最後まで歩くぞ」
「じゃあワカ君の、我慢出来なくなるから最後までしないっていうのは?」
「青宗、ステイ」
若狭は無表情で制止の言葉を投げかけるが、もう遅かった。
静紀は訝しげな顔をして、青宗の発言と日常の記憶を照らし合わせる。
「……青宗、ワカはそれ、月に何回すると言った?」
「10回近く」
静紀の顔から表情が消えた。若狭はそろりと逃げようとしたが、彼女に足を引っ掛けられて前に転ぶ。襟を掴まれた。そのまま静紀は若狭をどこかへ引きずっていった。
青宗はこのあと、口は笑ってるのに目が笑ってない静紀、げっそりしたワカ、やたら距離の離れたその2人、買い出しから戻ってきたドラケンを目撃することになる。
***
買い物から戻ってきただけなのに、オレは見てしまった。
細い路地に引きずり込まれる、黄色と紫という特徴的な髪色の男を。それほどタッパのない女が、般若を背負っていたのを。
「お前、なんでデートの回数聞かれて情事暴露してんだよ」
「違う違う違うこれには深いワケが」
「言い訳無用!! 今日から1ヶ月、私の半径2m以内に近づくな!!」
「ガハッ……」
話の内容はさっぱり分からねえ。オレの脳に刻みつけられたのは、女の膝が、男の鳩尾に入る光景。男はしばらく動かなかった。いや、あの人が蹲るほどの蹴りってヤベえな。
オレの中で、怒らせたら一番怖え人が更新された瞬間だった。
店の扉の前でバイクをいじる青宗と、空のビール箱を逆さにしてその上に座り、携帯の画面を眺める若狭。ドラケンは部品の買い出し中である。
「ワカ君って、シズさんと月にどれくらいデートするの?」
青宗が若狭に尋ねるも、若狭の耳には入っていなかった。
彼は今日の朝こっそり撮った嫁の寝顔を眺めている。彼女は基本早起きだ。若狭が寝顔を拝めることは滅多にない。寝顔を目にすることができた暁には、前日の夜は大層盛り上がったなあ、と振り返るのが常だ。
「ワカクン?……ワカ君!」
「……ああ……わりぃ、何だっけ?」
若狭がようやく青宗の呼びかけに反応する。
「だから、ワカ君って月に何回してるの?」
青宗は全く同じことを繰り返すのが面倒臭いと感じ、一部を省略した。
(おい、今の高校生ってそんなこと堂々と聞くもん? 青宗って意外とそういうことに興味あんの?)
若狭は直前に眺めていた写真のせいで、夜の営みのことだと解釈する。
「青宗オマエ、ヨメでもできた?」
「ううん。オレらのとこにくるお客さん。ヨメできたらしいんだけど、そういうの、どうしたらいいか全くわかんないんだって」
青宗は首を横に振ってから、疑問に至った経緯を説明した。
「……週に2回、たまに3回だから、10回近くはやってるな」
「そんなにしたらお金かかんない?」
「スるのに金とかねえだろ。体さえあればできるじゃん」
もう一度言おう。青宗はデートのことを聞いている。だが若狭は寝台で行われる大人の行為だと思っている。
「そのペースだと平日もってこと? シズさん、毎日学校行くよね? する時間あるの?」
静紀はとある高校で教師を務めている。学校自体が休みにならない限り、平日はそれなりに忙しい。休日も休日で、実家の道場の手伝いや佐野家の手伝いなど、彼女は行くべきところが多い。
「まあアイツ、そこまで夜遅くに帰ってくるわけじゃねえし」
若狭の返答に、青宗は一旦納得する。
「どこに行ったりするの?」
次に青宗はデートスポットを聞いた。
「基本は家だろ」
「外だとどこ行く?」
「外……外はアイツ嫌がるんだよ。オレ1回ヤろうとしたらボディーブロー食らったワ。もうやらねえって誓ったよ。あ、たまにホテルも行くな。新鮮で盛り上がるぞ」
めっちゃ細かく聞いてくるな……と若狭は思いながらも、以前のベッドでの行為を振り返っては青宗に語る。
純粋無垢な目でひたすら黒龍を見つめていた青宗が、この手の話題に参加するようになったんだなあと、若狭は年月の流れを感じた。
「まあ加減はしてるぜ。アイツが翌日立てる程度の体力は残してるつもり。オレがどうしても我慢できなくなったときは最後までしないときもある」
気分が良くなった若狭は聞かれてもないことまで語り出した。
「我慢できないのに、最後までしない……?」
「調子乗って最後までしちまったらアイツ立てなくなるんだよ。前それやらかして1ヶ月間の禁止令出されたし」
2人のデートってそんなにハードなの……と青宗は困惑する。
***
「青宗、ワカ。受け取れ」
2人が話している所に静紀が現れた。焼き鳥の入った袋を差し出す。青宗は口を開けてぱあっと華やいだ笑顔になった。
「オマエ、仕事は?」
「今日は午前授業だ。言ってなかったか?」
「言えよ。迎えに行ったのに」
「呼ぶよりここに来るほうが早いだろ」
静紀は若狭の行動パターンをほぼ把握していた。アラサーにしてもはや熟年夫婦一歩手前である。
「そういえばさっき、青宗が珍しく百面ヅラしてたが……何話してたんだ?」
「月に何回デートするかって話」
若狭の携帯が手から滑り落ちた。
彼の顔はかろうじて平静を保っているが、それでも全身は強ばっていた。
「どこに百面ヅラの要素があった」
静紀はあまりにも普通の話だと分かり、拍子抜けする。
「でもシズさん、最後まで立てなくなるようなデートって一体何するの?」
「青宗」
「ん? デートは普通に最後まで歩くぞ」
「じゃあワカ君の、我慢出来なくなるから最後までしないっていうのは?」
「青宗、ステイ」
若狭は無表情で制止の言葉を投げかけるが、もう遅かった。
静紀は訝しげな顔をして、青宗の発言と日常の記憶を照らし合わせる。
「……青宗、ワカはそれ、月に何回すると言った?」
「10回近く」
静紀の顔から表情が消えた。若狭はそろりと逃げようとしたが、彼女に足を引っ掛けられて前に転ぶ。襟を掴まれた。そのまま静紀は若狭をどこかへ引きずっていった。
青宗はこのあと、口は笑ってるのに目が笑ってない静紀、げっそりしたワカ、やたら距離の離れたその2人、買い出しから戻ってきたドラケンを目撃することになる。
***
買い物から戻ってきただけなのに、オレは見てしまった。
細い路地に引きずり込まれる、黄色と紫という特徴的な髪色の男を。それほどタッパのない女が、般若を背負っていたのを。
「お前、なんでデートの回数聞かれて情事暴露してんだよ」
「違う違う違うこれには深いワケが」
「言い訳無用!! 今日から1ヶ月、私の半径2m以内に近づくな!!」
「ガハッ……」
話の内容はさっぱり分からねえ。オレの脳に刻みつけられたのは、女の膝が、男の鳩尾に入る光景。男はしばらく動かなかった。いや、あの人が蹲るほどの蹴りってヤベえな。
オレの中で、怒らせたら一番怖え人が更新された瞬間だった。