もう一人の生きる伝説~小話~

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 おかしい。さっきまで若狭はすこぶる機嫌が悪かった。

 今日は珍しく、オレが若狭のために常備しているチャパチュップスを切らした。若狭がイラついたとこに計5集団に絡まれる。もぐらたたきのように絶え間なく来た。そのイライラの勢いでバイクも事故りかけた。
 幼馴染として長年アイツを見てきたからわかる。アレは1週間は鎮まらない、ひどいものだったはずだ。

 オレが集会に来て真っ先に目に入ったのは、シズの頭に顎をちょこんと乗せるワカ。両手はソイツを掴んで離さない。その状態でアイツは真一郎たちと駄弁ってる。
 そもそも若狭と普通に2ケツできるアイツは異常だ。女はおろか、オレでさえ乗ったことないのだから。

若狭がシズから離れたのを見計らって、オレはシズのもとに駆け寄る。

「おい、今日の若狭、機嫌悪くなかったか?」
「来たときはそうだったな。だが傷の手当して夕飯食べてバイク乗る頃には収まってたぞ」
「オメーアイツとメシ食うの」
「バイク乗せてもらうかわりにな。ワカはいつも美味しそうに食べるから、毎週の楽しみと化したよ」

 聞きたくなかったーナチュラル惚気話。

 若狭のそんな姿想像できねえ、と困惑していたときだった。

「アレが遊撃隊長か。ホントに女だな」
「白豹と2ケツしてたぞ。まさか白豹の女?」
「あんなちんちくりんな女を選ぶ白豹も白豹だな」

 どこかから嘲笑う声が聞こえた。ソイツらはうっすら見覚えのある程度のヤツらだった。最近入ったのだろう。よくもまあ命知らずな発言ができるなあと思う。
 どうせすぐに思い知るのだから言わせるだけ言わせておこう、とスルーしかけた、そのとき。

シズはソイツらのもとに一瞬で近づき、何回か竹刀をスレスレで当たらないように丶丶丶丶丶丶丶丶振り回してから、1人の首にピタッと当てる。

「発言には気をつけるんだな」

 男にしては高く、女にしては低い声。シズがほんの少しだけ出した殺気。男たちを震え上がらせるには十分だった。冷や汗まで出してるヤツもいる。ソイツらは全力でスイマセンと言土下座する勢いで頭を下げながら逃げていった。
 殺気って自在に操れるモンか? 普段コイツの影は薄いほうだから、余計に恐ろしい。

「オマエ、別に無視しても良かったんじゃねえか? オマエが強えのはみんな知ってる」
「……別に私が何か言われるのはいいんだ。ただ、ワカが悪く言われて……思わずカッとなってしまった」

 いい女じゃねえか。今まで若狭に寄り付く女といったら、白豹の女というステータスを得たいとか、身体だけでも、ってヤツしかいなかった。
コイツのように、自分ではなく若狭のために怒れる女なんて、もう現れないんじゃないか。

「なーにしてんの?」

 若狭はシズの後ろから抱きつく。オレに牽制の目を向けるのも忘れずに。

「注意だ。ワカを怒らせるなってな」
「オレそんな怒りっぽくないんだけど」

 若狭は牽制の目を緩めない。
 オレは若狭のことが大好きなコイツだからいい女と思ってるだけであって、惚れたとかそんなのは微塵もない。オレは両手をあげて呆れた視線を送る。ワカには伝わったようで、いつもの無気力な目に戻った。

「チビって言われて高校生10人病院送りにしたヤツが何言ってんだ」

 オレは煌道連合のときの若狭の所業を挙げた。

「そんなこと覚えてねーわ」

 あ、コイツは興味ねえヤツは速攻忘れるんだったわ。

「ワカ……程々にな」
「最近はそんな暴れてねえから」

 佐野と出会ってから若狭はかなり丸くなった。それでも敵には容赦ねえし、女だとしても見ず知らずのヤツにはつまんなそうな顔をして仕方なくあしらってる感じなのは相変わらずだ。
 シズは気づいてなさそうだが、アイツを前にした若狭は見たことのねえ顔をする。いかにも、シズのこと大事にしてやる、って目を向けてるし、他の男に向ける威嚇の目は鋭い。並のヤツらなら目だけで殺せそうだ。
 佐野が白豹を飼い慣らして、シズが懐柔したってとこか。そういえば2人、親戚とか言ってたな。コイツら猛獣ホイホイか何かか?

 佐野の声が響き渡る。定位置につき、今日も集会が始まった。
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