マッシュ×魔法無効化主
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うつ伏せに倒れたホワイト・ブリジットの頭から、血が流れる。骨の髄まで絶え間なく痛みが襲う。
「もう、やめにしよう」
彼女をボロボロにした張本人――マッシュ・バーンデッドは、降参を促す。聞く耳をもたないホワイトは体中の空気を吐ききって拳を地面に押し付け、重力に抗う。が、一ミリでも身体を動かせば骨が軋んだ。
「なにっ、勝手に……勝ったと、思ってるの……」
「なんか君、自分の意思で戦ってるように見えないから」
相変わらずの淡々とした声は、彼女の神経を逆撫でする。
神覚者になるために、金級硬貨 を守るために……友達を助けるために。ここで負けるわけにはいかない。友人の、彼女にとってこの学校唯一のよりどころであるルームメイトの命にかかわるのだから。
「アナタには……関係ないでしょ!」
それでも、身体は言うことをきかない。どんなに強い信念があろうと、圧倒的パワーの前ではそんなものはいかにちっぽけなものか思い知らされる。
***
ホワイトは親に捨てられた時点で、この世界で自分は化け物なのだと理解した。彼女とともに箒に乗れば箒はうんともすんとも言わず、病院で風邪の彼女に解熱の魔法をかけてもらっても全く下がらない。下級貴族に生まれた二本線。普通なら蝶よ花よと育てられるはずであった。魔法が一切きかないというのさえなければ。
幸運にも心優しき師匠が彼女を拾う。そこで、魔法無効化は最古の杖の祝福であると師匠から聞かされた。優れた魔法使いの中のごく一部の人間が、噂程度に知っていたのみだったらしい。師匠は最強の魔法使いから受け継いだノブレス・オブリージュを体現すべく医院近郊で人知れず弱者に手を差し伸べており、ホワイトも師匠とともに彼らを助けていった。上級貴族で一本線に生まれただけで捨てられた者。不幸にも親を亡くした孤児。魔法が全く使えない魔法不全者。彼らはホワイトの魔法無効化を知っても、助けるたびに「ありがとう、ありがとう」と涙ながらに感謝した。
現在の魔法界は、師匠の師匠が唱えたという、ノブレス・オブリージュからあまりにもかけ離れていた。それを変えるにはどうすればいい。しばらくして彼女は神覚者というのを耳にする。魔法界を統べる、魔法局の最高機関。根本から変えないと、同じように苦しい人たちが出続ける。彼女は高等部の編入試験を経てイーストン魔法学校へ入学した。
師匠にそれなりに鍛えられていたホワイトは、編入とはいえなんとかやっていけるだろうと自信があったが、現実は甘くなかった。振り分けられたのは、よりによってレアン寮。才能と自尊心をモットーに、高潔心にまみれた貴族たちで排他的な雰囲気を形成していた。そして、神覚者候補選抜試験に必要な金級硬貨五枚を集めるべく勉学に運動に奔走する中で、級硬貨を奪おうとする輩を次々と返り討ちにした。戦闘で魔法無効化を発動すれば、並の魔法使いはすぐに顔色を変え、その噂が寮内で広まった頃には皆彼女を化け物として避けるようになっていた。医院近郊の人たちがいかに優しかったことか。師匠に拾われる前のあの頃のように、彼女は現実を突きつけられる。忘れかけていた。私がここにいる事自体、想像以上に過酷であることを。
彼女のルームメイトだけは、噂を聞いても、うっかり素手で触って魔法を打ち消してしまっても決して態度を変えなかった。この氷のようなレアンに、良心がいたのか。彼女さえいれば、自分はどんな僻みを受けようと、過酷な試練を課されようと耐えられる。ホワイトは金級硬貨を四枚まで集めていた。
***
「アナタ、魔法が使えないでしょ」
「えっ」
マッシュは驚きの声を短く発してから、余計なことを言わんとするように口をつぐむ。
「そそそそそそんなことないですよ」
ゆっくりと目を逸らし、身体だけでなく声もバイブレーションを始めるマッシュ。
「……隠さなくていいわよ、さっき触ったときむしろ身体能力上がってたじゃない」
マッシュの拳が彼女に触れれば、桁違いのパワーも打ち消される……はずだった。身体強化魔法かと思われたそれは、触れてもパワーが全く落ちなかったのだ。だとしても、彼女だって体術の心得があった。常にニコニコしているのに稽古のときは鬼のようにしごいてくる糸目の女師匠の顔を思い浮かべながら肉弾戦で対処したというのに、マッシュのふざけたレベルの筋肉は彼女の身のこなしを嘲笑った。
「アナタはどうして神覚者をめざすの」
「……じいちゃんと平和に暮らすため」
「私もあなたも、むしろあなたのほうが世間では疎まれるはずなのに……なんであなたは、そんなに友達に恵まれてるの」
マッシュがどう答えたところで、彼女にとっては同じことだ。そこにあるのは、この状況で彼に勝てる見込みはないという現実のみ。
「さあ、好きなだけ取っていけば」
ホワイトが投げやりに言うと、マッシュの足音が近づく。彼の両手がホワイトの右腕に触れると、全身バキバキのホワイトはマッシュにされるがまま仰向けにされた。負けたからには、大人しく級硬貨を渡すしかない。降参したのを示すように輝きを失った血の瞳は、オレンジ色に染まった空をぼんやり眺めた。
えっ。
彼女は心の中でとまどいの声を発した。級硬貨をいただくべく彼女の懐にかかるかと思われたマッシュの手は、彼女の膝裏を掴んだ。脚を直角に曲げられる。さらに彼女の腕を交差させられる。足をおさえられ、腕を引っ張られるままに立たされ、気づけば彼女はマッシュの背中に乗っていた。斜めに引き上げられ、その反動でマッシュは半回転して無駄のない動きでホワイトを背負った。
「な、なにを」
「動けないでしょ。僕が運ぶよ」
「こ、級硬貨は」
「やっぱいいよ。君、悪い人じゃなさそうだし」
初対面、ましてやさきほどまで敵対していた人間をそんな信頼して大丈夫なのか。マッシュのあまりの素直さに若干引きながら、つかまる力も残っていなかった彼女は、身体がずり落ちないように固有魔法で糊を腕にまとって固定した。
「なんでそこまでするの」
「なんか、放っておけないから」
人の背中って、こんなにあったかいんだ。触れるのを避けられてきた彼女には、初めてといってもいい心地。手袋の先には、こんなぬくもりが広がっていたのか。さっきまで戦っていた相手のはずなのに、不思議なものだ。
「うーん」
マッシュは足を進めながら考えるも、考えるより先に筋肉で解決してきた彼にはその言語化は難しかった。それっきりマッシュは黙ってしまったが、不思議とそこに気まずさはなかった。
「……友達が、人質にとられた」
彼の体温に、心に、ほだされたのかもしれない。ホワイトは今まであったことを、ぽつぽつと紡いでいった。
レアン寮監督生アベル・ウォーカーから七魔牙 へ勧誘されたものの、思想の違いから断ったホワイト。だが、はいそうですかとアベルが引き下がることはなかった。ホワイトの知らないところで、彼女のルームメイトはアベルの手中に収まっていたのだ。ホワイトがアベルに攻撃するたび、ルームメイトの魔力が吸われるようにして。
「無効化だけで気味悪がられ、避けられ、友達も助けられない。私は、嫌われて当然なのかな」
マッシュの背中に、彼女の身体がずしりとのしかかる。
「君は一人で解決しようとしてるかもしれないけど……ほかの人に、もっと助けを求めてもいいと思う」
彼は表情を変えずに、だがさっきよりは優しげに口を開いた。
「僕がここまでこれているのは、じいちゃん、校長先生、友達のおかげ。みんなの助けがあって、僕は今学校で生活できてる」
どうして、それができなかったのだろう。自分で何とかしないとって思ってた。
そういえば、マッシュくんは無効化のことを喋ってもみじんも態度を変えなかった(魔法不全者なので魔法もクソもないが)。家族以外に、ルームメイト以外に、私を認めてくれる人間がいるのなら。
「助けて、マッシュくん……」
私の足を支えているマッシュくんの両手に力が入った。
「君の分までボコボコにしてくるよ、グーパンで」
ふいに彼女のヘアゴムがプチっと切れる。ところどころうねった白髪が彼女の背をパサリと覆った。瞼がゆっくりと落ちる。彼女の頬に、一筋の涙が伝った。
☆夢主(ホワイト・ブリジット)
編入試験次席のレアン寮1年生。アドラから金級硬貨奪えば友達解放してやる、とアベルに脅されマッシュと決闘。負けた代わりに友達を得た。師匠はメリアドールさん。
☆マッシュ・バーンデッド
最後わざわざ彼女をおんぶしたのは、「あの人の顔見るとなんとなくムズムズするので顔を見られたくなかったから」らしい。
「もう、やめにしよう」
彼女をボロボロにした張本人――マッシュ・バーンデッドは、降参を促す。聞く耳をもたないホワイトは体中の空気を吐ききって拳を地面に押し付け、重力に抗う。が、一ミリでも身体を動かせば骨が軋んだ。
「なにっ、勝手に……勝ったと、思ってるの……」
「なんか君、自分の意思で戦ってるように見えないから」
相変わらずの淡々とした声は、彼女の神経を逆撫でする。
神覚者になるために、金
「アナタには……関係ないでしょ!」
それでも、身体は言うことをきかない。どんなに強い信念があろうと、圧倒的パワーの前ではそんなものはいかにちっぽけなものか思い知らされる。
***
ホワイトは親に捨てられた時点で、この世界で自分は化け物なのだと理解した。彼女とともに箒に乗れば箒はうんともすんとも言わず、病院で風邪の彼女に解熱の魔法をかけてもらっても全く下がらない。下級貴族に生まれた二本線。普通なら蝶よ花よと育てられるはずであった。魔法が一切きかないというのさえなければ。
幸運にも心優しき師匠が彼女を拾う。そこで、魔法無効化は最古の杖の祝福であると師匠から聞かされた。優れた魔法使いの中のごく一部の人間が、噂程度に知っていたのみだったらしい。師匠は最強の魔法使いから受け継いだノブレス・オブリージュを体現すべく医院近郊で人知れず弱者に手を差し伸べており、ホワイトも師匠とともに彼らを助けていった。上級貴族で一本線に生まれただけで捨てられた者。不幸にも親を亡くした孤児。魔法が全く使えない魔法不全者。彼らはホワイトの魔法無効化を知っても、助けるたびに「ありがとう、ありがとう」と涙ながらに感謝した。
現在の魔法界は、師匠の師匠が唱えたという、ノブレス・オブリージュからあまりにもかけ離れていた。それを変えるにはどうすればいい。しばらくして彼女は神覚者というのを耳にする。魔法界を統べる、魔法局の最高機関。根本から変えないと、同じように苦しい人たちが出続ける。彼女は高等部の編入試験を経てイーストン魔法学校へ入学した。
師匠にそれなりに鍛えられていたホワイトは、編入とはいえなんとかやっていけるだろうと自信があったが、現実は甘くなかった。振り分けられたのは、よりによってレアン寮。才能と自尊心をモットーに、高潔心にまみれた貴族たちで排他的な雰囲気を形成していた。そして、神覚者候補選抜試験に必要な金級硬貨五枚を集めるべく勉学に運動に奔走する中で、級硬貨を奪おうとする輩を次々と返り討ちにした。戦闘で魔法無効化を発動すれば、並の魔法使いはすぐに顔色を変え、その噂が寮内で広まった頃には皆彼女を化け物として避けるようになっていた。医院近郊の人たちがいかに優しかったことか。師匠に拾われる前のあの頃のように、彼女は現実を突きつけられる。忘れかけていた。私がここにいる事自体、想像以上に過酷であることを。
彼女のルームメイトだけは、噂を聞いても、うっかり素手で触って魔法を打ち消してしまっても決して態度を変えなかった。この氷のようなレアンに、良心がいたのか。彼女さえいれば、自分はどんな僻みを受けようと、過酷な試練を課されようと耐えられる。ホワイトは金級硬貨を四枚まで集めていた。
***
「アナタ、魔法が使えないでしょ」
「えっ」
マッシュは驚きの声を短く発してから、余計なことを言わんとするように口をつぐむ。
「そそそそそそんなことないですよ」
ゆっくりと目を逸らし、身体だけでなく声もバイブレーションを始めるマッシュ。
「……隠さなくていいわよ、さっき触ったときむしろ身体能力上がってたじゃない」
マッシュの拳が彼女に触れれば、桁違いのパワーも打ち消される……はずだった。身体強化魔法かと思われたそれは、触れてもパワーが全く落ちなかったのだ。だとしても、彼女だって体術の心得があった。常にニコニコしているのに稽古のときは鬼のようにしごいてくる糸目の女師匠の顔を思い浮かべながら肉弾戦で対処したというのに、マッシュのふざけたレベルの筋肉は彼女の身のこなしを嘲笑った。
「アナタはどうして神覚者をめざすの」
「……じいちゃんと平和に暮らすため」
「私もあなたも、むしろあなたのほうが世間では疎まれるはずなのに……なんであなたは、そんなに友達に恵まれてるの」
マッシュがどう答えたところで、彼女にとっては同じことだ。そこにあるのは、この状況で彼に勝てる見込みはないという現実のみ。
「さあ、好きなだけ取っていけば」
ホワイトが投げやりに言うと、マッシュの足音が近づく。彼の両手がホワイトの右腕に触れると、全身バキバキのホワイトはマッシュにされるがまま仰向けにされた。負けたからには、大人しく級硬貨を渡すしかない。降参したのを示すように輝きを失った血の瞳は、オレンジ色に染まった空をぼんやり眺めた。
えっ。
彼女は心の中でとまどいの声を発した。級硬貨をいただくべく彼女の懐にかかるかと思われたマッシュの手は、彼女の膝裏を掴んだ。脚を直角に曲げられる。さらに彼女の腕を交差させられる。足をおさえられ、腕を引っ張られるままに立たされ、気づけば彼女はマッシュの背中に乗っていた。斜めに引き上げられ、その反動でマッシュは半回転して無駄のない動きでホワイトを背負った。
「な、なにを」
「動けないでしょ。僕が運ぶよ」
「こ、級硬貨は」
「やっぱいいよ。君、悪い人じゃなさそうだし」
初対面、ましてやさきほどまで敵対していた人間をそんな信頼して大丈夫なのか。マッシュのあまりの素直さに若干引きながら、つかまる力も残っていなかった彼女は、身体がずり落ちないように固有魔法で糊を腕にまとって固定した。
「なんでそこまでするの」
「なんか、放っておけないから」
人の背中って、こんなにあったかいんだ。触れるのを避けられてきた彼女には、初めてといってもいい心地。手袋の先には、こんなぬくもりが広がっていたのか。さっきまで戦っていた相手のはずなのに、不思議なものだ。
「うーん」
マッシュは足を進めながら考えるも、考えるより先に筋肉で解決してきた彼にはその言語化は難しかった。それっきりマッシュは黙ってしまったが、不思議とそこに気まずさはなかった。
「……友達が、人質にとられた」
彼の体温に、心に、ほだされたのかもしれない。ホワイトは今まであったことを、ぽつぽつと紡いでいった。
レアン寮監督生アベル・ウォーカーから
「無効化だけで気味悪がられ、避けられ、友達も助けられない。私は、嫌われて当然なのかな」
マッシュの背中に、彼女の身体がずしりとのしかかる。
「君は一人で解決しようとしてるかもしれないけど……ほかの人に、もっと助けを求めてもいいと思う」
彼は表情を変えずに、だがさっきよりは優しげに口を開いた。
「僕がここまでこれているのは、じいちゃん、校長先生、友達のおかげ。みんなの助けがあって、僕は今学校で生活できてる」
どうして、それができなかったのだろう。自分で何とかしないとって思ってた。
そういえば、マッシュくんは無効化のことを喋ってもみじんも態度を変えなかった(魔法不全者なので魔法もクソもないが)。家族以外に、ルームメイト以外に、私を認めてくれる人間がいるのなら。
「助けて、マッシュくん……」
私の足を支えているマッシュくんの両手に力が入った。
「君の分までボコボコにしてくるよ、グーパンで」
ふいに彼女のヘアゴムがプチっと切れる。ところどころうねった白髪が彼女の背をパサリと覆った。瞼がゆっくりと落ちる。彼女の頬に、一筋の涙が伝った。
☆夢主(ホワイト・ブリジット)
編入試験次席のレアン寮1年生。アドラから金級硬貨奪えば友達解放してやる、とアベルに脅されマッシュと決闘。負けた代わりに友達を得た。師匠はメリアドールさん。
☆マッシュ・バーンデッド
最後わざわざ彼女をおんぶしたのは、「あの人の顔見るとなんとなくムズムズするので顔を見られたくなかったから」らしい。
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