マシュマロよりも甘い君

　リナはソファに深く沈み込み、手に持った紅茶のカップをそっと傾けた。紅茶の甘い香りが部屋に漂い、部屋には心地よい静けさが広がっている。

　ふと顔を上げると、隣にはロンが座っていた。背もたれにゆったりともたれかかり、細く長い指を組みながら、じっと彼女の手元を眺めている。その仕草がやけに絵になって、リナは思わず眉をひそめた。

「……何をそんなにじっと見てるの？」

　その問いかけに、ロンは緩やかな笑みを浮かべた。長い前髪が顔にかかり、その隙間から覗く切れ長の碧眼がリナを捉える。その視線には、どこか悪戯っぽい光が宿っていた。

「君を眺めるのが楽しいからさ」

　甘く低い声が耳に届く。リナは一瞬固まり、すぐに顔を赤らめた。

「……は？」

　彼女は反射的に返すが、ロンは全く動じない。

「そんなこと言われても、何も出ないけど」

　リナはそっけなく言い放ちながら、彼から視線を逸らす。だが、自分でも分かるほど耳が熱くなっている。 ロンは肩をすくめながら、テーブルに置かれたマシュマロを摘んだ。その仕草さえ洗練されていて、どこか気怠げなのに、隙がない。

「じゃあ、これでも食べて機嫌を直してよ」

　摘んだマシュマロをそのままリナの口元に差し出してくる。

「子ども扱いしないで」

　リナが少しむっとしながらそう言うが、彼の手を前にしては、結局断りきれず口を開ける。

「っ！」

　ふわりと甘いマシュマロが口の中で溶けると同時に、ロンの指先が彼女の唇にかすかに触れた。 リナは驚き、思わず目を見開く。そんな彼女の反応に、ロンは意地悪そうな笑みを浮かべた。

「どう？ 甘い？」
「……普通」

　リナはムキになったように答えたが、耳まで赤くなっているのが自分でも分かる。 ロンは満足げに笑い、今度は自分の口にマシュマロを放り込む。その動作がまた彼らしい余裕を醸し出していて、リナの胸の奥を妙にざわつかせた。

「君の反応のほうがずっと甘いよ」
「はぁ！？ 何それ！」

　リナが身を乗り出し、抗議しようとすると、ロンは不意に彼女の手を取り、引き寄せた。

「君の顔が赤くなるたびに、もっとからかいたくなるんだよ」

　彼の低く甘い声が耳元に響く。リナは心臓が跳ね上がるのを感じながら、必死に冷静を装った。

「……うるさい。お茶が冷めるでしょ」
「冷めてもいいよ。君とこうしているほうが楽しいから」

　ロンの言葉に、リナはもう何も言い返せなかった。ただ、手を振り払うこともせず、顔を背けるだけだった。

「君がもっと甘くなるまで、付き合ってもらうよ」

　ロンの唇に浮かぶ微笑は、どこまでも余裕たっぷりだった。彼の手がそっとリナの髪を撫でると、彼女は自然と目を閉じた。その仕草にロンは満足そうに目を細めた。

　部屋に漂う紅茶の甘い香りと、二人の静かな会話。その空間には、互いに惹かれ合う感情が溶け込んでいた。