世界一の探偵は愛する人をデートに誘うのがぎこちない

「ロン！　事件の処理終わった……あっ」

　ロンのおかげで事件がまたひとつ片づきそのことを報告しにロンのマンションに赴いた。チャイムを鳴らせば、「鍵空いてるからそのまま入ってきていいよ」と、いつもの自信に満ち溢れた声とは違い、まるで恋人に語りかけるような優しい声でインターホン越しに返される。なんともいえない違和感を抱きながら扉を開ける。ソファに座っていたロンは前髪の隙間から覗く碧眼を細めながら、人差し指を唇に当ててシーッ、と息を吐いた。ロンのふとももには、どこかあどけない顔で穏やかに眠っているリナさん。

　リナさんの枕になっていて動けなそうな家主に了承をとって自分でコーヒーを淹れ、俺もソファに座った。リナさんは夢を見ているのか、たまにロンの名をこぼしては寝返りをうって、ロンの腰にゆるく抱きつく。仕事中のリナさんや普段ロンの隣にいるリナさんは、ロンよりひとつ年上なだけなのに大人っぽく見える。けれど、今のリナさんはとても愛らしかった。かわいいなぁ。

「トトにはやらないよ」
「そういうんじゃないから！」
「冗談さ。君はそんな人間ではないし、ましてやリナが君に惚れることは百パーセント、いや二百パーセントないからね」
「それはそれで傷つく！」
「こら」
「あっ」

　条件反射で大声で反論してしまって、俺はまた自分の口を塞いだ。ほんと、人目も気にせずいちゃつくようになって。もうこの光景に慣れつつある自分が怖い。俺は眼の前で繰り広げられる砂を吐きそうな景色を中和するように、ブラックコーヒーを口に運んだ。