Lukulia
眩い午後の日差し
麗かな光が店内を包み込み
風に揺れるカーテンが柔らかに舞いはためいていている。
店のソファーに腰を降ろしたクラウドは
ティファに煎れて貰った珈琲を啜る。
挽き立ての豆が織りなす其れは
少し酸味があって芳ばしく、
豊かなコクと、上品な風味がある。
以前遠方の配達先に仕事で出向いた際に土産として持ち帰ったこの豆はティファのお気に入りだ。
それ以来再びその場所に赴いた際には土産として持ち帰るのが定番となった。
鼻腔を擽る芳醇な香りと共に少し酸味の効いた其れを嚥下する。
休日の午後ティファと過ごす昼下がり。
穏やかな時間。
クラウドはカウンター内で料理をするティファを瞳を細めて遠くから見守った。
歌うようにレシピを口遊むティファはとても楽しそうだ。
こうしてただ、ティファを眺めているだけで多幸感で満たされる。
一度は手放したその腕も再び掴む事が出来た。奇跡のような幸せにティファが居ればもう何も要らないとそう、思った。
ゆっくりと珈琲を味わいながら、
穏やかな眼差しでティファを眺めていると、
風に乗ってほんのりとブランデーの香りが漂ってきてクラウドはマグカップを手に持ったままソファーから腰を上げた。
カウンターの中へと足を踏み入れてその辺に適当にマグカップを置くと
ボウルに入った蕩けたチョコレートを掻き混ぜるティファの後ろから彼女の手元を覗き込む。
「ティファ、そのチョコ…俺の?」
「うん」
「酒を入れるのか?」
「そう、クラウド…甘い物苦手でしょ?」
「うん」
「これなら食べれるかと思って…たくさん食べれるように今年はシンプルな物にしてみたの」
「ありがとう。味見してもいいか?」
「え?でも…私もまだ味見出来てないよ?」
「うん、構わない」
クラウドがそう口にすると、ティファはまだ固形になっていない液状のチョコをそっとスプーンで掬って彼の口元まで運んだ。
そうして差し出されたスプーンの上に乗ったチョコをクラウドがペロリと舐め取ると、ティファの腰をぐいっ、と抱き寄せ彼女の唇を塞いだ。
「?!?んッ!」
不意打ちを食らったティファは睫毛をふるり、と震わせ音を立てそうな程に何度も瞬きを繰り返す。
硬く閉ざされた唇を開かせる為にティファの頤に親指を当て、ぐっ、と唇を割り開かせると
細やかに開いた唇に舌を差し入れて、
味見と称した湯煎で蕩けたチョコレートをティファの舌にも移してやる。
チョコレートと共にティファと舌を絡ませれば一雫のチョコからほんのりと口腔に香るブランデーがくらくらと目眩を誘う。
酒に強い自分がこれしきで酔う訳が無いが、何故だか酔いが全身に廻りそうになったのは
ティファと唇を重ねているから…
逃げる舌を追い掛けて絡めた舌先でトントンとティファの舌先を突き、
ちゅ、と音を立て唇を吸い、離すと
ティファは顔を真っ赤にさせて、わなわなと震えていた。
ああ。これは彼女を怒らせたかもしれない。
けれどもティファを前にして何もしないなんて出来る訳がない。
二人で過ごす休日は久々だから、キス位しても良い筈だ。
子供達は友人の家に出掛けて暫くは帰って来ない。
そうして悪戯っ子のような笑みを携えて
ティファと視線を重ねた。
「クラウド!」
やはり叱られてしまったが唇を尖らせて怒っているのは羞恥からだと知っている。
ふいっと顔を逸らしてボウルに入ったチョコレートを掻き混ぜるティファは、耳まで真っ赤だ。
「ティファも味見出来ただろ?」
「?!〜〜知らないっ…」
ぷりぷりと怒るティファにくすり、とクラウドが微笑う
味見なんて本当は嘘だ。
ティファが作るものは何だって美味しいから
ただキスしたくなっただけなんだ。
不意打ちのキスを施せばまるで初めてキスをした時のように初々しい反応を見せるティファがどうしようもなく可愛くて愛おしくて、
恥じらいに顔を背けてしまった彼女の後ろから腕を回して、括れた細い腰に両腕を絡めると、ティファの耳元で言葉を紡いだ。
「なぁ、ティファ」
「…なあに?」
「今日…店何時に終わる?」
「う〜ん…どうして?」
首を傾げて此方に視線を向けるティファ。
重なる眼差しに色を含ませて
鼓膜に息を吹き掛けるように小さく囁く。
「×××××××…」
「〜〜//もうっ」
紡いだ言葉にボッと音がする程に頬を紅潮させたティファにおかしくなって、クラウドは微笑った。
「今日は早めに閉めれないのか?」
「バレンタインは毎年お客さんの入りが良くて…」
「ティファのチョコ目当てだろう?」
「そんな事無いと思うけど…だって義理チョコだよ?」
「…例え義理であっても今日店に来る奴らは全員ティファのチョコ目当てだ。だから今日は俺も店を手伝う」
「本当?ありがとう」
「うん。だから今日は早めに店を閉めよう」
ティファとの甘い夜は誰にも邪魔させない。
と、固い決意を胸にティファの髪へと口付け、其の小さな頭に何度も唇を押し当てた。
香る甘さに魔が刺したクラウドは、そのまま唇を降下させティファの首筋に一つキスを落とす。
いつもの癖で唇の隙間から舌を差し出した瞬間、ー…
腰に回していた腕をべり、っと剥がされて
「クラウド…カウンター内立ち入り禁止にする?」
止まらなくなりそうな戯れにティファはほんの少し怒気を含んだ声音でクラウドを制止した。
先程、不意打ちでキスをした時よりも本気で叱られてしまったクラウドはしゅん、と項垂れる。
格闘術を極めているティファによって剥がされた両腕は思いの外痛んで、流石にこれ以上料理の邪魔をしてはならないと「…ごめん」と口にすると、先程適当に置いたマグカップを回収し、渋々ティファから離れた。
すごすごと引き下がりいつものカウンター席へと周り腰掛ける。
ティファの言葉は思いの外効果があったようで叱られた仔犬のように、クラウドは気を落とした。
お預けを食らい眉を下げて悲し気な表情をしている。
仔犬がくぅ〜んと鳴くように、縋る表情でクラウドが彼女を見上げれば、ティファはふふ、と微笑って言葉を紡いだ。
「クラウド…お店閉めた後、片付けも手伝ってくれる?二人でやれば早く終わるかも」
「ああ。 勿論だ」
ティファの科白に少し被せ気味でクラウドが言葉を放つ。
「ありがとう」
とティファが微笑むとしゅん、と項垂れていた筈のクラウドの耳も尻尾もぴんと上がった。
ティファの科白に満足したクラウドは瞳を輝かせながら彼女と視線を重ねる。
其のきらきら、とした視線にティファは穏やかに微笑むと菓子作りの次の工程へと進む為、再び作業を始めた。
流れるように動く指先はまるでピアノを弾いているかのようでクラウドを魅了する。
伏せた顔にさらり、と艶髪が流れると、彼女は細い指先で掬って耳に掛けた。
其の仕草も、整った顔立ちもー綺麗だ。…なんて思っていると手際の良い彼女は早々に作業を終えた。
そしてお気に入りの珈琲をマグカップに注ぐとクラウドの隣に腰掛けて、
ふぅ、と一息吐いたティファが珈琲を一口啜り終えると、唐突に言葉を紡いだ。
「今日、クラウドがお休みで良かった…」
「…?どうして?」
「ふふ、どうしても」
「店、手伝うから?」
「さぁ?どうでしょう?」
ティファは口元に笑みを浮かべながら、上手く濁してはぐらかす。
クラウドにはさっぱり理由が分からなかったがティファが喜んでくれるなら何でも良いと、それ以上問い掛けるのはやめた。
風に揺れる午後ティファと並んでたわいも無い会話をする。
纏う空気は甘く麗かな日差しの光の粒子が煌々と輝いてティファを包んだ。
二人で過ごす穏やかな時間。
この時間が永遠に続けばいいと思った。
世界がこんなにも輝いているなんて
ティファが居なければ知り得なかった。
ティファが隣に居てくれるだけで息をすることさえも嬉しい…。
そう思ったら突然口にしたくなった。
「ティファ」
「うん、なあに?」
「愛してる」
呟いた言葉に大きく瞳を見開いた彼女は朗らかに微笑んで頬をほんのりと染めた。
そして
「うん、私も…大好きだよ、クラウド」
と囁いた。
Lukulia
ずっと離さない
だから俺だけを見ていて
麗かな光が店内を包み込み
風に揺れるカーテンが柔らかに舞いはためいていている。
店のソファーに腰を降ろしたクラウドは
ティファに煎れて貰った珈琲を啜る。
挽き立ての豆が織りなす其れは
少し酸味があって芳ばしく、
豊かなコクと、上品な風味がある。
以前遠方の配達先に仕事で出向いた際に土産として持ち帰ったこの豆はティファのお気に入りだ。
それ以来再びその場所に赴いた際には土産として持ち帰るのが定番となった。
鼻腔を擽る芳醇な香りと共に少し酸味の効いた其れを嚥下する。
休日の午後ティファと過ごす昼下がり。
穏やかな時間。
クラウドはカウンター内で料理をするティファを瞳を細めて遠くから見守った。
歌うようにレシピを口遊むティファはとても楽しそうだ。
こうしてただ、ティファを眺めているだけで多幸感で満たされる。
一度は手放したその腕も再び掴む事が出来た。奇跡のような幸せにティファが居ればもう何も要らないとそう、思った。
ゆっくりと珈琲を味わいながら、
穏やかな眼差しでティファを眺めていると、
風に乗ってほんのりとブランデーの香りが漂ってきてクラウドはマグカップを手に持ったままソファーから腰を上げた。
カウンターの中へと足を踏み入れてその辺に適当にマグカップを置くと
ボウルに入った蕩けたチョコレートを掻き混ぜるティファの後ろから彼女の手元を覗き込む。
「ティファ、そのチョコ…俺の?」
「うん」
「酒を入れるのか?」
「そう、クラウド…甘い物苦手でしょ?」
「うん」
「これなら食べれるかと思って…たくさん食べれるように今年はシンプルな物にしてみたの」
「ありがとう。味見してもいいか?」
「え?でも…私もまだ味見出来てないよ?」
「うん、構わない」
クラウドがそう口にすると、ティファはまだ固形になっていない液状のチョコをそっとスプーンで掬って彼の口元まで運んだ。
そうして差し出されたスプーンの上に乗ったチョコをクラウドがペロリと舐め取ると、ティファの腰をぐいっ、と抱き寄せ彼女の唇を塞いだ。
「?!?んッ!」
不意打ちを食らったティファは睫毛をふるり、と震わせ音を立てそうな程に何度も瞬きを繰り返す。
硬く閉ざされた唇を開かせる為にティファの頤に親指を当て、ぐっ、と唇を割り開かせると
細やかに開いた唇に舌を差し入れて、
味見と称した湯煎で蕩けたチョコレートをティファの舌にも移してやる。
チョコレートと共にティファと舌を絡ませれば一雫のチョコからほんのりと口腔に香るブランデーがくらくらと目眩を誘う。
酒に強い自分がこれしきで酔う訳が無いが、何故だか酔いが全身に廻りそうになったのは
ティファと唇を重ねているから…
逃げる舌を追い掛けて絡めた舌先でトントンとティファの舌先を突き、
ちゅ、と音を立て唇を吸い、離すと
ティファは顔を真っ赤にさせて、わなわなと震えていた。
ああ。これは彼女を怒らせたかもしれない。
けれどもティファを前にして何もしないなんて出来る訳がない。
二人で過ごす休日は久々だから、キス位しても良い筈だ。
子供達は友人の家に出掛けて暫くは帰って来ない。
そうして悪戯っ子のような笑みを携えて
ティファと視線を重ねた。
「クラウド!」
やはり叱られてしまったが唇を尖らせて怒っているのは羞恥からだと知っている。
ふいっと顔を逸らしてボウルに入ったチョコレートを掻き混ぜるティファは、耳まで真っ赤だ。
「ティファも味見出来ただろ?」
「?!〜〜知らないっ…」
ぷりぷりと怒るティファにくすり、とクラウドが微笑う
味見なんて本当は嘘だ。
ティファが作るものは何だって美味しいから
ただキスしたくなっただけなんだ。
不意打ちのキスを施せばまるで初めてキスをした時のように初々しい反応を見せるティファがどうしようもなく可愛くて愛おしくて、
恥じらいに顔を背けてしまった彼女の後ろから腕を回して、括れた細い腰に両腕を絡めると、ティファの耳元で言葉を紡いだ。
「なぁ、ティファ」
「…なあに?」
「今日…店何時に終わる?」
「う〜ん…どうして?」
首を傾げて此方に視線を向けるティファ。
重なる眼差しに色を含ませて
鼓膜に息を吹き掛けるように小さく囁く。
「×××××××…」
「〜〜//もうっ」
紡いだ言葉にボッと音がする程に頬を紅潮させたティファにおかしくなって、クラウドは微笑った。
「今日は早めに閉めれないのか?」
「バレンタインは毎年お客さんの入りが良くて…」
「ティファのチョコ目当てだろう?」
「そんな事無いと思うけど…だって義理チョコだよ?」
「…例え義理であっても今日店に来る奴らは全員ティファのチョコ目当てだ。だから今日は俺も店を手伝う」
「本当?ありがとう」
「うん。だから今日は早めに店を閉めよう」
ティファとの甘い夜は誰にも邪魔させない。
と、固い決意を胸にティファの髪へと口付け、其の小さな頭に何度も唇を押し当てた。
香る甘さに魔が刺したクラウドは、そのまま唇を降下させティファの首筋に一つキスを落とす。
いつもの癖で唇の隙間から舌を差し出した瞬間、ー…
腰に回していた腕をべり、っと剥がされて
「クラウド…カウンター内立ち入り禁止にする?」
止まらなくなりそうな戯れにティファはほんの少し怒気を含んだ声音でクラウドを制止した。
先程、不意打ちでキスをした時よりも本気で叱られてしまったクラウドはしゅん、と項垂れる。
格闘術を極めているティファによって剥がされた両腕は思いの外痛んで、流石にこれ以上料理の邪魔をしてはならないと「…ごめん」と口にすると、先程適当に置いたマグカップを回収し、渋々ティファから離れた。
すごすごと引き下がりいつものカウンター席へと周り腰掛ける。
ティファの言葉は思いの外効果があったようで叱られた仔犬のように、クラウドは気を落とした。
お預けを食らい眉を下げて悲し気な表情をしている。
仔犬がくぅ〜んと鳴くように、縋る表情でクラウドが彼女を見上げれば、ティファはふふ、と微笑って言葉を紡いだ。
「クラウド…お店閉めた後、片付けも手伝ってくれる?二人でやれば早く終わるかも」
「ああ。 勿論だ」
ティファの科白に少し被せ気味でクラウドが言葉を放つ。
「ありがとう」
とティファが微笑むとしゅん、と項垂れていた筈のクラウドの耳も尻尾もぴんと上がった。
ティファの科白に満足したクラウドは瞳を輝かせながら彼女と視線を重ねる。
其のきらきら、とした視線にティファは穏やかに微笑むと菓子作りの次の工程へと進む為、再び作業を始めた。
流れるように動く指先はまるでピアノを弾いているかのようでクラウドを魅了する。
伏せた顔にさらり、と艶髪が流れると、彼女は細い指先で掬って耳に掛けた。
其の仕草も、整った顔立ちもー綺麗だ。…なんて思っていると手際の良い彼女は早々に作業を終えた。
そしてお気に入りの珈琲をマグカップに注ぐとクラウドの隣に腰掛けて、
ふぅ、と一息吐いたティファが珈琲を一口啜り終えると、唐突に言葉を紡いだ。
「今日、クラウドがお休みで良かった…」
「…?どうして?」
「ふふ、どうしても」
「店、手伝うから?」
「さぁ?どうでしょう?」
ティファは口元に笑みを浮かべながら、上手く濁してはぐらかす。
クラウドにはさっぱり理由が分からなかったがティファが喜んでくれるなら何でも良いと、それ以上問い掛けるのはやめた。
風に揺れる午後ティファと並んでたわいも無い会話をする。
纏う空気は甘く麗かな日差しの光の粒子が煌々と輝いてティファを包んだ。
二人で過ごす穏やかな時間。
この時間が永遠に続けばいいと思った。
世界がこんなにも輝いているなんて
ティファが居なければ知り得なかった。
ティファが隣に居てくれるだけで息をすることさえも嬉しい…。
そう思ったら突然口にしたくなった。
「ティファ」
「うん、なあに?」
「愛してる」
呟いた言葉に大きく瞳を見開いた彼女は朗らかに微笑んで頬をほんのりと染めた。
そして
「うん、私も…大好きだよ、クラウド」
と囁いた。
Lukulia
ずっと離さない
だから俺だけを見ていて
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